著者
土屋 善和
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

1.本研究の目的<br /> 中央教育審議会(2016)の答申では、今後の学校教育においてアクティブ・ラーニングの視点である「対話的な学び」「主体的な学び」「深い学び」を実現できる学習の必要性が説かれ、それらの学習により「学びに向かう力・人間性等」「知識・技術」「思考力・判断力・表現力等」の3つの資質・能力の育成を目指すことが示されている。そして、「思考力」の中でも、問題解決や意思決定に関わり合理性と創造性を伴う「批判的思考」は、複雑化・多様化する社会を生きる上でも、またよりよい生活を追究するためにも不可欠であり、生活を創造する力を目指す家庭科においても育むべき資質・能力と言える。<br /> 授業の中で批判的思考を促すためには、自分とは異なる価値観に触れることや意見を吟味・検討することなどが必要となるが、単なる意見交換の場面を設定するだけでは不十分であり、物事を深く考える場面が重要となる。そして、それぞれの生徒が深く考えるためには、深く考えるべき問いとアクティブ・ラーニングでも示されている協働的かつ対話的な学びを可能とする学習活動が有効であると考えられる。上述した教育政策を反映させた次期学習指導要領が示されている中、家庭科においても、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた批判的思考を促す授業を検討する必要がある。<br /> 以上を踏まえ、生徒が深く考える協働の場面を設定した批判的思考を促す授業を構想し実践した。そして本研究は、授業分析をもとに深く考える協働の場面における批判的思考を促す授業の在り方を検討することを目的としている。<br />2.研究方法<br /> 授業は2017年2月下旬から3月上旬にかけて、1クラス1時間で実施した。対象は附属中学校3年生の4クラスである。<br /> 本時では、よりよい消費生活をめざして「環境に配慮した消費行動」から「よりよい生活」へのつながりを考える協働の場面を設定した。まず生徒は環境に配慮した消費行動について、衣・食・住に関連する内容で付箋に記入をした。その後、生徒はそれらの消費行動の効果や影響について模造紙上に記入し、環境に配慮した行動が最終的に「よりよい生活」に行き着くように効果や影響をつなげて考えていった。また、他の班の模造紙をみてコメントをする時間も設定した。<br />なお、本研究では、グループで作成した模造紙、学習後の振り返りなどを分析・考察し本時の効果を検討した。<br />3.結果及び考察<br /> グループで作成した模造紙から、1つの消費行動について深く掘り下げているグループや1つ1つの消費行動が「ゴミ削減」や「エネルギー削減」といった影響や効果でつながっていることを示しているグループ、消費行動から考え出された効果や影響が1つのみであまり深く掘り下げられていないグループとグループごとに傾向があることが分かった。本時における協働の場面が、生徒にとって1つ1つの消費行動がどのようなことにつながっていくのかといった効果行動の意味や影響に気づく契機となると考えられた。<br /> また振り返りをみると、生徒は身近な行動を社会的な環境問題につなげることで、自身の行動の重要性や必要性を再認識した様子がうかがえた。本時が生徒にとって普段の生活の問い直しと価値づけにも寄与したと考えられる。また、「ゴミが減るとどうなるのかとか、(ごみが減る)という意見の次の意見が大切だと思った」といった生徒の記述もみられた。消費行動を深く掘り下げて考える場面を通して生徒は、行動自体の良し悪しではなく、行動をすることによる影響や効果に目を向けて考えることの大切さに気づいたと推察された。<br />4.今後の課題<br /> 大半の生徒は自分の生活場面を想定した環境に配慮した消費行動を具体的に示すことができた。しかし一方で、環境に配慮した消費行動の意味や根拠等について深く考えられた生徒は少なかった。今後の課題は本時より得られた示唆をもとに、それぞれの生徒にとって深く考えることができる協働の場面となるための手立てと批判的思考を促す授業を検討することである。

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深く考える協働場面における批判的思考を促す授業実践 : https://t.co/7OmDmvias1

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