著者
三枝 惠子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

1.はじめに<br /> 高等学校家庭科教育の大きな改革は1989年(平成元年)改訂の学習指導要領で普通教育として「家庭一般」「生活技術」「生活一般」を設け、男女とも4単位必修となったことである。その後1999年(平成11年)学習指導要領の改訂では普通教育の「家庭」と専門教育の「家庭」がそれぞれ独立し、教科目標も明確に区別され示された。普通教育の「家庭」では、新たに「家庭基礎」2単位が設けられ、4単位の「家庭総合」「生活技術」とあわせ3科目の中から全ての生徒が1科目を選択履修することとなった。さらに2009年(平成21年)の学習指導要領改訂により普通教育の「家庭」は「家庭基礎」(2単位)に「家庭総合」(4単位)と新たに「生活デザイン」(4単位)の3科目が設定され、全ての生徒が1科目を選択履修することとなり、人間の生涯にわたる発達と生活の営みを総合的にとらえ、家族・家庭の意義、家族・家庭と社会との関わりについて理解させるとともに、生活に必要な知識と技術を修得させ、男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を育てることを目指している。<br /> 本発表はこのような高等学校家庭科教育の大きな変革の中で学ぶ高校生の家庭科イメージや教科観、学習内容の必要性・有用性、授業の楽しさ、授業への取り組み姿勢等について、アンケート調査を基に分析したものである。また、1998年高校生調査と比較し20年間の男女必履修の変化も考察した。<br />2.調査概要<br /> 調査は大学1.2年生を対象に2016年10月~2017年1月に実施した。有効サンプル数は303(男子86、女子217)。比較分析に用いた1998年調査は1998年2月東京・埼玉の高校1.2.3年生対象とした調査である。有効サンプル数618(男子347、女子271)。<br />3.結果の概要<br /> 履修科目については、高等学校家庭科の履修は「家庭基礎」2単位が65%を超え、学校選択により1.2年生で履修している様子がうかがえる。男女必履修が開始された1989年学習指導要領では全ての生徒が4単位履修と示されていたが、1999年の改訂により「家庭基礎」2単位が設けらてから家庭科を4単位から2単位科目へと単位数を減じる学校が増加してきた。文部科学省が公表している平成27年度使用高等学校用家庭科教科書図書需要数でみると「家庭基礎」は965496冊で全体の76.6%を占めている。家庭科の基盤は「生活」であり社会の変化やニーズに影響を受けやすくそうした背景が単位数の減少にあるものと考えられるが、家庭科教育の目標を確実に達成するためには授業時間の少なさに不安を感じる。<br /> 次に、高等学校で家庭科を男女で学ぶことには概ね違和感はない。家庭科の授業の楽しさでは、「調理実習」が最も楽しいと答えており、次いで「家族の人間関係や家庭の機能」「栄養学」が上位を占める。 家庭科で学ぶ必要性の高い内容は「調理実習」「青年期の生き方」「異性とのつきあいや避妊」「妊娠・出産」「乳幼児の発達や子どもの成長」に関心が高い。家庭科を学ぶことで、現在の生き方を考え、将来の家族や家庭生活を男女で共に築くことに思いをはせ、妊娠や出産、子どもの成長などを学びたいとの意欲がうかがえる。一方で、「被服製作」「繊維の性質や機能」「衣服管理」の領域には学ぶ必要性が低く、男女差が顕著にみられる。<br /> 生徒が男女で学ぶ家庭科の実現には成果を上げてきたものの、指導する家庭科教師は女性が圧倒的に多く、教員の男女構成に顕著な偏りがみられる。「10年後に家庭科も男性教師が5人に1人くらいに増える」と尋ねた結果では「あまり+全然そう思わない」と答えた割合は7割弱を占める。男女で学ぶ家庭科は概ね違和感なく実現しているが、男性と女性で共に指導する家庭科の実現にはほど遠い現状である。男性の家庭科教員が増えない現状には潜在化するジェンダー秩序が示唆されるが、男性の家庭科教員の育成は男女必履修の高等学校家庭科教育の充実のための大きな課題といる。<br /> なお、詳しい資料は当日配布します。

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