著者
平井 秀幸
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.26-46, 2016

理論犯罪学の伝統的理解では,規律から管理へと犯罪統制トレンドが変化するなかで,リスクは犯 罪者処遇ではなく犯罪予防やリスク人口層の管理と結びつくようになっているとされる.しかし,そ うした理解は経験的・理論的に見て必ずしも妥当なものではない.エビデンスに基づく犯罪者処遇の 上昇に伴って,認知行動療法のようなリスクモデルの犯罪者処遇がグローバルな拡がりを見せており, それは新自由主義的合理性に基づくリスク回避型自己の責任化実践として作動しつつある.とはいえ, 近年ではリスクモデルの犯罪者処遇と並行して,レジリエンスを鍵概念のひとつとする新たな犯罪者 処遇が現れはじめてもいる.リスクモデルにおいて回避・対処すべき再犯リスクとみなされた困難状 況(不確実性)は,レジリエンス原則のもとでは前進・成長のチャンスとして積極的に受けとめられ, 元犯罪者は不確実性受容型自己として責任化される.慎慮主義的なリスク回避型自己とアントレプレ ナー的な不確実性受容型自己は,共に新自由主義を支える主体像としてポスト・リスクモデルの犯罪 者処遇のなかで共存し得るものかもしれない.新時代の犯罪者処遇研究には,「リスクと犯罪者処遇」 という従来の枠組を超えた新たな問題設定と,それに基づく経験的・批判的研究の更なる蓄積が求め られている.

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