- 著者
-
小林 毅
- 出版者
- 生活経済学会
- 雑誌
- 生活経済学研究 (ISSN:13417347)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, pp.1-10, 2017
本論文では、日本銀行による量的・質的金融緩和政策が株式市場やJ-REIT市場に与えた影響をAR-GARCHモデルを用いて分析している。2010年12月に開始された包括的金融緩和政策において日本銀行は、リスク・プレミアムへの働きかけをするためにETF(上場投資信託)およびJ-REIT(不動産投資信託)等への買入れを開始した。この買入れに関して、TOPIXあるいは東証J-REIT指数の前日終値と比較して当日前場終値が下落した場合に日本銀行は買入れを行うという一定の傾向が観察されている。そして、黒田総裁の就任直後の2013年4月に量的・質的金融緩和政策が開始されて以来、ETFおよびJ-REIT買い入れの頻度が増していることが日本銀行の発表資料より示される。実証分析の結果、包括的金融緩和政策によって多くのJ-REIT個別銘柄のボラティリティは低下したが、量的・質的緩和政策はボラティリティをさらに低下させたことが明らかになった。ただしこれらの政策はJ-REITの日次収益率には影響を与えていないと思われる。一方、株価指数を対象に行った分析では、包括的金融緩和政策および量的・質的緩和政策は株式市場には有意な影響を与えなかったことも示される。