著者
植田 理子
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学
巻号頁・発行日
vol.96, pp.17-32, 2017

<p>泉鏡花最初の戯曲「深沙大王」は、明治三七年九月本郷座での新派合同劇のために書き下ろされた。鏡花の小説「水鶏の里」をもとにした「深沙大王」は、社に物の怪の集う「ふるやしろ」を物語の中心に据える。鏡花は小説の内容を踏まえた「ふるやしろ」と新たに設けた男女の物語をつなぐ人物として、伝助という悪役の造型に力を注いでいる。クライマックスで洪水の幻に追われ狂乱する伝助の姿は、俳優の演技を想定したと考えられ、また小説では語り伝えられていた洪水の瞬間が、「深沙大王」では因果関係とともに明示される。これらの表現は、現実の空間で物語を展開する演劇の創作を通して獲得されたのではないか。</p>

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