著者
田中 京子 岩崎 香織
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.77, 2007

<B>【目的】</B><BR> マズローの欲求階層説によれば、生理的欲求を満たすことが人間の最も基礎的な欲求とされる。食生活の知識・技能の習得は、生理的欲求を自ら満たす術を身につけることであり、愛情と所属欲求や自尊欲求、自己実現欲求といった、より上位の欲求を満たす基盤になると考えられる。日本の子どもの自尊感情は、世界的にみて低いことが指摘されており、1990年代以降、家庭科教育においても子どもの自尊感情を育てることへの関心が高まってきている。<BR>本研究は、高等学校家庭科食領域の授業において、生徒の食生活の知識・技能を向上させる上で有効と考えられるプログラムを実験的に開発・実践し、1)食生活の知識・技能の習得、および2)子どもの自尊感情(Self-esteem)の2点から授業効果の検討を行うことにより、家庭科教育への示唆を得ることを目的とする。<BR>第1報では、開発した授業の内容と実施した授業の様子について報告する。第2報では、実施した授業の効果について報告する。<BR><B>【方法】</B><BR>1、調査の概要<BR>お茶の水女子大学附属高校3年生(3クラス、女子117名)の家庭科(家庭総合)の授業(2006年4月~2007年1月)を対象として、調理実習を中心とする食生活の授業(ミニマムエッセンシャル調理実習)の開発と授業効果の測定を行う。授業開発・実施を田中が担当し、調査設計・効果測定を岩?が担当する。授業効果の測定は、1)参与観察(4月~1月、週1回、1クラスを対象)と2)質問紙調査(記名自記式、同一内容調査を授業前5月と2学期末12月の2回、全クラスを対象として実施)の2つの方法を採用する。<BR>2、授業開発の経緯<BR>田中は、高校家庭科の指導経験をもとに、生活での実践につながる、材料と手順を単純化した基本的な料理を『ミニマムエッセンシャルクッキングカード』にまとめた(田中2006)。本研究では、このレシピをもとに、3年生対象の1コマ(45分)の授業時間で[材料・調理法の説明、調理、試食、片付け]の全てを実施する調理実習を開発した。授業内容は1)親子丼(7月)、2)中華風あんかけ焼きそば(9月)、3)ドライカレー(11月)、4)ビビンパ風丼(12月)、5)赤飯(1月)の全5回である。これらの実習は、食生活領域としてまとめて実施するのではなく、「自立に向けて」を包括的なテーマとして、家庭経営や住居領域の授業と並行させて実施した。<BR>3、附属高校家庭科の特徴<BR>対象校の家庭科の授業は、2004年度入学生から家庭総合5単位を実施することとなり、対象者は1・2年次に、食生活の科学と文化を学習し、調理の基礎(1年次)献立調理(2年次)を経験している。本研究で対象とする3年生の授業は、1・2年次の授業を基礎として、実生活で応用する力を身につけることをねらいとした。また、1・2年次は家庭総合のすべての授業で班別学習を実施しているが、3年次は2単位のうち1単位分のみが班別学習となっている。<BR><B>【結果】</B><BR>参与観察の結果、実習初期(7月~9月)には、作り方が途中で分からなくなる生徒、作業分担の出来ない生徒が多くみられたが、実習後期(11月~1月)には、教師からの調理法の説明の際に自ら質問する生徒、事前に班内で手順を確認し、班員の行動を先読みして次の行動を選択する生徒が現れた。また、実習後期には、試食中の発話が増え、自己の食生活の反省(毎日の夕食にコンビニ弁当を購入する、最近家族が料理を作ってくれない)や、自分の作った料理に対する感動(「やっぱり家庭料理が一番だよね」)等が現れ、生徒が自己の食生活の知識・技能に自信を深める様子が観察された。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 高等学校家庭科における食生活の知識・技能の習得と子どもの自尊感情(第1報):―ミニマムエッセンシャル調理実習の開発―(田中 京子ほか),2007 https://t.co/nSHpEA9bQv <B>【目的】</B><BR>…

収集済み URL リスト