著者
福島 可奈子
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.46-68, 2018

<p>【要旨】</p><p> 大正から昭和初期にかけての子供による映画の齣フィルム蒐集とその文化について、従来見過ごされてきたメディア機器とその多様性を実証的に再考する「メディア考古学」の視座から考察する。齣フィルムとは、明治末から昭和初期にかけて映画館や玩具店等、様々な場所で販売されたワンフレームサイズの映画フィルム(18×35mm)のことで、大正期には子供による映画の齣フィルム蒐集が大流行を迎える。その事象についてはしばしば先行研究で言及されているものの、その実情については今までほとんど明らかにされてこなかった。そのため本稿では、当時の子供の齣フィルムコレクションや齣フィルム用の実体鏡や幻燈機等の実物史料を参照しつつ、明治末から昭和初期にかけて販売された齣フィルムについて、販売業者と購入者(蒐集者)双方の視点、あるいはその相互関係から詳細に検証し、当時の日本の映画の二次産業の一端を明らかにする。</p><p> 戦前日本の映画の大半は、このように劇場公開後に切り売りされたために散逸したが、断片化した無数の齣フィルムの集積は、戦前日本のメディア文化の多様性と裾野の広さを示している。二次利用されたフィルムは、映画や幻燈のメインストリームの映像史にはあらわれない、子供の玩具世界で多彩に混淆した存在を生み出し、派生的に拡散していく。まさにこの流れは、現在加速しているデジタル一元化の流れとは対照的なのである。</p>

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