著者
今井 亜希子
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.17-21, 2018

<p> 足の胼胝(たこ)・鶏眼(うおのめ)などの過角化性疾患や,陥入爪・巻き爪や肥厚爪などの爪疾患は,皮膚科医が日常的によく遭遇する疾患群である。各種の足変形および慢性疾患の合併,生活機能の低下を背景として,多数の高齢者がこのような足のトラブルを抱えている。近年,足部疾患の存在が歩行をはじめとする下肢の運動機能に影響すること,特に高齢者においては転倒のリスク因子となりうることが報告されている。筆者らが行った263 名の成人を対象とする臨床研究の結果,母趾の爪病変およびそれによる痛みは,下肢筋力と姿勢制御機能の両方の低下に有意に相関していた。また,爪病変を持つ対象者に対しフットケアを行うことにより,低下していた運動機能の回復が認められた。</p><p> 従来,医療におけるフットケアは,壊疽などの重症足病変やそれによる下肢切断を予防・治療するための技術として発達してきた。しかし足のケアを行い健康に保つことは,起立・歩行という運動機能を守るという観点から言えば,糖尿病や末梢動脈疾患など,ハイリスク患者だけでなくすべての高齢者にとって不可欠なものである。転倒予防,介護予防の一環としてのフットケアの位置づけは,ようやく認知されてきたばかりであり,今後,医療者・介護者が協力して取り組むべき課題と考えている。</p><p> 足の皮膚・爪所見は,循環障害,関節の変形や筋力アンバランス,歩容異常などのさまざまな異常を反映している。現在皮膚科医が行っている足の診療は,外用や処置などの局所治療にとどまらない。足の変形や関節可動域の低下,歩行状態などを総合的に評価し,その上で適切な靴や矯正・除圧作用を持つ下肢装具を装用することや,個人の能力に応じた運動療法を指導することが有効と考えている。</p>

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