著者
征矢野 あや子
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-21, 2014-06-10 (Released:2015-05-13)
参考文献数
6

高齢化に伴い認知症を有する高齢者が増加の一途をたどり,認知症高齢者の転倒は深刻な健康課題である。認知症高齢者は認知症を持たない高齢者よりも転倒しやすい。その要因として,脳の病変により運動機能が障害される,認知症の行動・心理症状(BPSD)から転倒を誘発する行動をとる,状況の理解や適切な判断ができないため安全を優先した行動がとれなくなる,薬剤の副作用などがある。このような易転倒性を抱えた認知症高齢者を対象とする転倒予防は,従来の医学モデルに基づく対策では功を奏さないことがあり,急性期の医療施設であっても介護福祉の視点を要する。認知症高齢者の転倒予防にあたっては,①繰り返しの説得や活動の制限よりも,認知症高齢者のニーズをさぐり,満たすことで転倒を誘発するBPSDを予防する,②より安全な望ましい行動へと誘導するような環境をつくる,③職員の転倒への恐怖感を緩和するためにも,施設が一丸となって転倒予防の方針を定める,ことなどが要点となる。
著者
大高 洋平
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.11-20, 2015-03-10 (Released:2015-07-07)
参考文献数
30
被引用文献数
13

寿命の延伸とともに,転倒予防はその重要性を増している。高齢者の3人に1人は1年間に一度以上の転倒を経験するとされ,転倒による不慮の事故は,窒息に続き第2位であり交通事故を上回っている。また転倒は,大腿骨近位部骨折をはじめとした高齢者の骨折の主原因であり,要介護の主要な原因の1つでもある。転倒のリスク因子には,本人の特性に関連する内因性リスクと環境などの外因性リスクがある。内因性リスクとしては,バランス障害,筋力低下,視力障害,薬剤などさまざまなものが知られている。転倒予防に最も有効な介入は運動である。運動はグループでも,在宅で個別に指導を行う場合でも有効であり,バランス訓練の要素など複数の訓練要素が含まれているものに効果がある。その他,家屋評価や改修,精神作動薬漸減,頸動脈洞過敏症に対するペースメーカー挿入,初回の白内障手術,家庭医に対する内服処方の指導,包括的なリスク評価に基づいたリスクの修正,などのアプローチで転倒予防効果が報告されている。また,低ビタミンD血症に対するビタミンD補充による転倒予防効果も知られているが,さらなる検証が必要である。今後,エビデンスに基づき実現可能性,継続可能性の高いプログラムを地域の中で実践していくことが望まれる。
著者
山田 実
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.5-9, 2014-06-10 (Released:2015-05-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

4 人に1 人が高齢者,その高齢者の5 人に1 人が要介護認定者という時代になってきた。このような高齢者の虚弱形成の要因の一つに転倒が挙げられる。転倒には要介護に直結するような重篤な外傷を伴うものと,そうでないものがある。転倒のほとんどは後者のものであるが,転倒を機に活動量が減少し虚弱を加速させることが知られている。高齢者の1 年間の転倒発生率は約30 %といわれており,その主たる要因の一つに筋機能の低下(≒サルコペニア)が挙げられている。サルコペニアになることによって,実に2 ~ 3 倍程度転倒発生率が高まることも分かっている。このサルコペニアの有症率は地域在住高齢者の20 %程度であり,当然のことながら加齢とともにその割合は増加することになる。サルコペニアは筋代謝異常と捉えることも可能であり,加齢に伴って骨格筋の同化作用が減弱し,異化作用が亢進する。そのため,サルコペニア対策としては,同化作用を促進させ,異化作用を抑制させることが重要となる。運動には骨格筋の同化作用を促進させ,異化作用を抑制するような効果があり,栄養は運動の役割をサポートするような機能がある。そのため,高齢者に対しては積極的な運動と十分な栄養補給を推奨しながら,サルコペニアや転倒を予防していく必要がある。
著者
藤原 佳典
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.11-16, 2017-03-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2

「社会的フレイル」について,現時点では,統一された定義は提示されていない。しかし,身体的フレイルの定義と整合性をとると,1)inverse health outcomeの予知因子,2)介入により改変可能,3)加齢に伴う変化あり,4)孤独感といった主観的な項目を避ける,の4要件を満たす必要があると考える。そこで,「社会活動への参加や社会的交流に対する脆弱性が増加している状態」と定義し,具体的項目を「外出頻度が1日1回未満の閉じこもり傾向」および「同居家族以外との交流が週1回未満の社会的孤立状態」とした。社会的フレイルに対する介入のあり方は個々人の健康度,生活機能や価値観を十分考慮して重層的に社会参加活動を継続できるような支援が求められる。
著者
寺西 利生
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.5-10, 2017-06-10 (Released:2018-06-22)
参考文献数
16

病棟における転倒発生は,リハビリテーションの円滑な進行を阻害する。そのため転倒発生の予測にさまざまな転倒危険度評価やバランス評価を流用する方法が提案されている。しかし,転倒危険度評価やバランス評価による転倒予測は,十分に成功しているといえない。それは,転倒危険度評価の査定には,転倒に最も影響するであろうバランス保持能力の占める割合が少なく,また,バランス評価に判別的な評価がないためと考えられる。 Standing test for Imbalance and Disequilibirium (SIDE)は,静的立位バランス保持能力を開脚立位,閉脚立位,つぎ足立位,片脚立位の順に行い,可能な動作と不可能な動作によって低い能力から順にLevel 0,1,2a,2b,3,4 の 6 つのLevel に分ける判別的立位バランス保持能力テストである。SIDE は,検査者間信頼性(Cohen’s Kappa= 0.76)と妥当性(Berg Balance Scale との Spearman の順位相関係数は,0.93)が検証された評価である。 回復期リハビリテーション病棟入院患者 556 名を対象に,入院 14 日以内の転倒 36 件を入院時の SIDE Level で検討した研究では,転倒者群のバランスを入院時の SIDE で表すと,非転倒者群に比べ SIDE Level は低く,SIDE Level 2b(つぎ足位は,片側だけ 5 秒以上保持可能だが,もう一方は 5 秒以内にバランスを崩す)以上で転倒の発生はなかった。すなわち,バランス良好者の転倒はまれである。 今後,SIDE によるバランス保持能力評価に加えて,規則遵守に関わる,記憶,性格,衝動性,自身のバランス保持能力のメタ認知といった簡便な Adherence 評価を組み合わせることで,対策に結びつく,より有効な転倒危険度評価になると考える。
著者
石郷 友之
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-31, 2018-06-10 (Released:2018-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

転倒は,筋力低下や視力障害,履物や照明,障害物などのさまざまな要因が複雑に絡み合い発生するが,その要因の一つに薬剤の影響が挙げられる。影響する薬剤にも降圧薬などの循環器系薬剤や,抗精神病薬や睡眠薬,抗不安薬などさまざまなものがあり,今回はその中でも睡眠薬の使用について考察する。 まず,睡眠薬は患者の希望などで安易に処方されやすい薬剤であるが,転倒・骨折に影響するということを患者を含め理解する必要がある。そして,睡眠薬使用の前に日中の睡眠の有無や必要な睡眠時間のすり合わせ,入浴時間や照明などの就寝準備段階への介入,就寝時間の調整などの非薬物療法の確認・指導も重要となる。 一方,不眠症自体も転倒のリスク因子であり病態の把握と適切な睡眠薬の選択が転倒を減少させるということも忘れてはならない。 睡眠薬の選択では,加齢によるフレイルの影響や代謝機能の低下,併用薬による血中濃度上昇等の可能性があるため,不眠症状の種類に加え,年齢や併用薬等も考慮する必要がある。「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」,「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では,転倒・骨折のリスクのため高齢者へのベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用は推奨しておらず,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬についても漫然と使用せず,少量の使用にとどめるなどの対応が必要とされている。当院の調査でもベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ,ゾルピデムやエスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬で転倒率は低く,同じ睡眠薬でも高齢者や高用量を使用している症例では転倒率が高くなる傾向が認められた。そのため,高齢者や転倒リスクの高い症例では,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を少量から使用し,投与期間も長期間とならないように定期的な睡眠の評価が必要である。また,新規作用機序のラメルテオンやスボレキサントの転倒・骨折との関連性についても報告が少しずつ出てきており,今後さらなるデータの蓄積が待たれる。
著者
川越 隆
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.9-14, 2020-03-10 (Released:2020-07-30)
参考文献数
7

近年,労働災害のなかで,転倒災害の占める割合が増加している。転倒災害は,2006年の休業4日以上の型別死傷災害で「はさまれ・巻き込まれ」を抜いてワーストワンの労働災害となり,それ以降増加の一途を辿っている。これら背景には,「高年齢労働者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正により60歳以上の労働者が増加したことが要因と推測される。転倒災害は,50歳以降の高年齢労働者に多く発生しており,その要因としては,運動や視覚機能の低下や身体・精神的疾患との関連が想定される。転倒災害のリスク要因は,外的要因,社会管理的要因,内的要因,さらに傷害増幅要因の4つに大別される。これまで,転倒災害の防止対策においては,外的要因や社会管理的要因の側面からのアプローチが一般的であった。今後は,転倒災害の防止の視点に,外的要因,社会管理的要因に加え,内的要因や傷害増幅要因,つまり高年齢労働者の心身機能や疾病状況,運動器等の耐性等も考慮した総合的なアプローチによる対策の実施が望まれる。
著者
丸岡 直子 鈴木 みずえ 水谷 信子 谷口 好美 岡本 恵理 小林 小百合
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.65-79, 2018-06-10 (Released:2018-08-05)
参考文献数
25
被引用文献数
3

【目的】認知症看護のエキスパートが実践している認知症高齢者に対する転倒予防ケアの臨床判断の構造とそのプロセスを明らかにすることである。【方法】認知症看護認定看護師あるいは5 年以上の認知症看護の経験を有する看護師18 名を対象に,6 名を1 グループとしたグループインタビューを実施した。インタビュー内容は,認知症高齢者に対する転倒予測と判断根拠,転倒防止策の内容であり,質的記述的に分析した。【結果】認知症看護のエキスパートは,認知症高齢者の〈安全か尊厳かのジレンマ〉に直面しながらも,〈認知症高齢者と行動を共にしてリスクを判断〉し,〈その人の持つ視点を重視しかかわる〉転倒予防ケアを実施しながら看護職員や介護職員と〈情報・ケア方法を共有するシステムをつくる〉ことを行い,認知症高齢者の病院や施設での生活が〈落ち着く〉ことを目指していた。【考察】認知症高齢者に対する転倒予防ケアの特徴は,認知症高齢者の意思を尊重し,認知症高齢者が〈落ち着く〉ことを目指したケアであった。認知症高齢者の転倒を防止するには,認知症高齢者と行動を共にしながら転倒リスクを判断し,環境適応や生活能力を維持するケアが重要であることが示唆された。【結論】認知症高齢者の転倒予防には,認知症高齢者が〈落ち着く〉ことを目指したケアの提供が重要である。
著者
鈴木 みずえ
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.3-9, 2016-03-10 (Released:2016-06-27)
参考文献数
14
被引用文献数
2

人口の高齢化に伴って認知症高齢者の数は増大し,入院患者における認知症高齢者の割合も増加している。認知症高齢者の場合には,認知症という脳神経系の疾患による症状や加齢による心身機能の変化に伴って,転倒リスクに関連する身体機能も変化しやすく,潜在的なニーズが満たされないことから危険な行動を起こして転倒している。認知症高齢者の中核症状に関連した転倒リスクを明確にするとともに,認知症高齢者の視点からのニーズやこのような転倒を引き起こすプロセスも踏まえて,的確にケアをすることが重要である。認知症高齢者のニーズや転倒リスクは多様であることから多職種チームで転倒予防に取り組まなければならない。今後,これらのエビデンスに基づき,わが国の高齢者施設の状況に合わせて実行可能で継続性の高いプログラムの実践が望まれる。
著者
鈴木 みずえ 金森 雅夫
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.3-9, 2015-03-10 (Released:2015-07-07)
参考文献数
19

認知症高齢者の転倒は,認知症の進行に伴って脳神経障害に関連した歩行障害・バランス障害から引き起こされるだけではなく,認知症による失行,失認などの中核症状,認知症の行動・心理症状など多様な要因が複雑に絡まっている。最新の認知症高齢者の転倒予防のシステマティックレビューやランダム化比較試験(RCT)の検討をした結果,介入方法の基準や標準化が明確ではなく,結果の再現性が乏しいということが考えられた。それらを踏まえてケアスタッフの多職種連携や転倒予防に関する教育プログラムを明確化したRCTも報告され,ケアスタッフが最大限に機能を果たしてエビデンスに基づいた効果的なアセスメントや介入が展開できれば転倒予防につながる可能性が高い。以上から認知症高齢者を対象とする転倒予防の効果的な介入のポイントとして多職種連携や転倒予防教育を重視した介入プログラムの必要性が示唆された。
著者
森川 香子
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-20, 2020-06-10 (Released:2021-03-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1
著者
油野 規代 加藤 真由美 坂本 めぐみ 藤田 結香里
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.33-44, 2022-05-09 (Released:2023-01-26)
参考文献数
21

【目的】転倒したがん患者の特徴と,転倒による損傷および治療の状況を文献レビューから明らかにすることを目的 とした。【方法】医学中央雑誌Web 版Ver.5 のデータベースからがん患者の症例報告について文献検索し,除外基準,採択基 準に基づき,95 編の原著,100 事例,104 件の転倒を分析対象とした。【結果】患者の特徴は75 歳未満が78 名(78.0 %)であり,乳がん患者が26 名(26.0 %)であった。転移を認めた患 者は70 名(70.0 %)であり,そのうち骨転移のある患者は44 名(44.0 %)であった。転倒による損傷は97 件(93.3 %)に発生していた。そのうち骨折が71 件(68.3 %)であり,大腿骨骨折が52 件(50.0 %)であった。非定型大腿骨骨折18 件(17.3 %)が,病的骨折13 件(12.5 %)より多い傾向にあった。大腿骨骨折に対して骨接合術,人工骨頭・股関節置換術が47 件(45.3 %)に行われ,病的骨折に対して腫瘍切除術が10 件(9.6 %)同時に行われていた。【結論】転移のあるがん患者に転倒が発生する傾向がみられ,転倒したがん患者において損傷の約半数が大腿骨骨折 であった。薬剤の使用が影響した非定型大腿骨骨折と病的骨折が,がん患者の転倒における損傷の特徴であった。病的骨折に対して腫瘍切除術が同時に行われていた。
著者
佐々木 賢太郎 木村 剛 大泉 真一 矢代 郷
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.27-33, 2018-03-10 (Released:2018-06-29)
参考文献数
20

【目的】本研究は転倒要因として最も多い「つまずき」に焦点を当て,つまずきやすさの指標である歩行中のminimum toe clearance (MTC) と膝関節固有感覚の関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は地域在住高齢者16人(男性9人,女性7人,71.6±6.3歳)であった。計測項目は膝関節運動覚(JMS)と歩行遊脚期におけるMTCであった。JMSは独自に開発した装置を用い,開始位置から膝関節が動かされたと感知するまでの移動距離をJMSの閾値とした。運動方向は伸展と屈曲の2条件とし,各々2回の計測を行った。MTCは3次元動作解析装置を用い,通常歩行(ST)と計算課題を課した二重課題歩行(DT)2種類(暗算課題・ディスプレイに映写された計算課題)の合計3条件下で計測を行った。伸展・屈曲JMSの平均値と歩行3条件におけるMTCの平均値および標準偏差の関連性について検討した。【結果】歩行3条件におけるMTCの平均値とJMS2条件の閾値に関連性は認められなかったが,STにおけるMTCの標準偏差は伸展・屈曲双方のJMS閾値と有意な関連性が認められた。一方,DTでは,唯一,暗算課題のMTCの標準偏差は伸展JMSと有意な相関関係が認められた。【結論】地域在住高齢者を対象とした本結果から,膝関節の固有感覚能の低下はつまずきの一要因である可能性が示唆された。
著者
鈴木 みずえ 加藤 真由美 谷口 好美 平松 知子 丸岡 直子 金盛 琢也 内藤 智義 泉 キヨ子 金森 雅夫
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.27-38, 2021-03-10 (Released:2022-04-03)
参考文献数
26

【目的】本研究の目的は,パーソン・センタード・ケアを基盤とし,さらに認知症高齢者の転倒の特徴を踏まえて開 発した転倒予防教育プログラムの介護老人保健施設に入所する認知症高齢者に対する介入効果を明らかにすることである。【方法】2016 年6 月~2017 年5 月まで北陸地方の介護老人保健施設で介入群・コントロール群を設定し,認知症高 齢者に対する転倒予防教育プログラムを介入群に実施し,ケアスタッフは研修で学んだ知識を活用して転倒予防に取り組んだ。研究期間は,ベースライン,研修,実践,フォローアップの各3 か月間,合計12 か月間である。【結果】本研究の介入群は18名(男性5名:27.8 %,女性13 名:72.2 %)コントロール群は14名(男性2名: 14.3 %,女性12 名:85.7 %)であった。平均年齢は,コントロール群は84.79(± 6.59)歳,介入群は86.67(± 7.77)歳であった。転倒率・転倒件数に関しては,介入群の転倒率はベースライン期間66.7 %に対して実践期間は41.2% と減少,転倒件数ではベースライン期間19 件から実践期間10 件と減少していた。介入群をベースライン時のGBS スケール下位尺度C(感情機能),D(認知症の症状)の得点で高群,低群の2 群に分けた結果,高群において転倒件数が有意に減少していた。【考察】本研究はBPSD 高群に対して転倒率が有意に減少したことから,BPSD に関連した転倒予防に効果的なこと が示唆された。

1 0 0 0 OA せん妄と転倒

著者
小川 朝生
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.19-21, 2021-03-10 (Released:2022-04-03)
参考文献数
5
著者
林 卓未 西野 勝敏 アディティア プラムディタ ジョナス 伊藤 雅人 山本 智章 田邊 裕治
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.37-45, 2021

<p><b>【目的】</b>転倒の床面衝突によって引き起こされる骨折は,高齢者にとって生活の質を左右する重大な障害である。この骨折機序を解明するために三次元人体モデルを用いて転倒の床面衝突時における関節の力学的負荷が検討されてきているが,転倒動作の個体差にも影響される可能性がある。そこで,本研究は後方転倒における股関節に焦点を当て,後方転倒動作の個体差が三次元モデルを用いて推定した股関節の力学的負荷に及ぼす影響を分析した。</p><p><b>【方法】</b>三次元人体モデルを作成し,その股関節には弾性要素1 個を備えた。床面の材料特性はコンクリートに設定した。転倒動作のシミュレーションにおいて弾性要素にかかる力を股関節の力学的負荷として評価した。参加者は健常成人男性10名(22.1 ± 1.0 歳)とした。参加者を体操用安全マットに後方転倒させ,その時の動作をモーション・キャプチャー・システムで撮影した。その後方転倒動作を三次元人体モデルにシミュレーションさせ,床面衝突時における股関節の力学的負荷を推定した。</p><p><b>【結果】</b>股関節の力学的負荷の前方成分のピークは1.05 ± 0.48 kN,後方成分のピークは0.88 ± 0.41 kN であった。近位成分のピークは1.49 ± 0.87kN,遠位成分のピークは2.15 ± 1.23 kN であった。最も大きい近位成分のピークは大腿骨頚部の破壊荷重に達しており,その値を有していた参加者は他の参加者とは異なる部位を床面に最初に衝突させていた。力学的負荷が最も小さかった参加者は,床面衝突後に身体が跳ね返っていなかった。</p><p><b>【結論】</b>後方転倒時における股関節の力学的負荷は,床面に最初に衝突する部位と衝突後における臀部と大腿部の動作の違いに影響した。</p>
著者
井上 靖悟 大高 洋平 小田 ちひろ 後藤 悠人 守屋 耕平 工藤 大輔 近藤 国嗣 松浦 大輔
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.47-54, 2017-03-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,新人理学療法士に対する転倒予防の新たな教育プログラムが,リハビリテーション病院の理学療法中の転倒を減少させるのかについて検討することである。【方法】2011年4月から2016年3月の5年間に理学療法中に発生した転倒事例について後方視的に調査を行った。2014年4月より新しい理学療法士の新人教育プログラムを導入し,その前後の転倒発生の変化について調査した。新しく導入したプログラムは,理学療法中の過去のインシデントを基に,各動作における環境設定や介助方法などリスク管理に必要な注意点を細分化したリストを活用した実践型プログラムである。指導者はリストの各項目について説明を加えながら実際の動作を見せることで新人の指導を行い,新人は指導者の行う場面の見学,そして模倣を繰り返した。また,指導者は随時実施内容の修正やフィードバックを与え,新人の技術向上を図った。経験段階をすべての項目についてチェックし,最終的にすべての技術を1人で実践できることを目標とした。この教育研修プログラムを,新人教育期間である4月から6月の3か月間にわたり理学療法科全体で実施した。 年間転倒件数および理学療法士1人あたりの年間転倒発生件数,転倒時動作の種類,転倒時動作の自立度について,新しい教育プログラムを導入した前後で比較した。【結果】新人理学療法士の数は,平均±標準偏差にて,教育プログラム導入前10.0±1.7名,導入後9.5±2.1名と大きな変化を認めなかった。新人理学療法士の平均転倒件数は,導入前は10.7±2.5件,導入後は5.0±1.4件と半減し,理学療法士1人あたりの平均年間転倒発生件数も,導入前1.1±0.1件,導入後0.5±0.5件と半減した。転倒時動作の種類は歩行が一番多かったが,教育プログラム導入後は,そのうち介助歩行の患者の転倒が減少する傾向を示した。【結論】新人理学療法士に対する動作ごとのリスク管理のリストを用いた現場教育は,理学療法中の転倒件数の減少に有効である。
著者
牧迫 飛雄馬
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.5-10, 2017-03-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
37
被引用文献数
2

フレイルは,身体的な問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,さらに独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念とされ,転倒リスクの把握のためにも,身体機能のみならず,認知機能や精神機能を評価することも重要となる。また,認知・精神機能低下を予防する,または改善を図ることは,転倒予防の側面からも有益となる。認知機能の領域による転倒への影響を調べてみると,なかでも注意や実行機能の低下が転倒のリスクを増大させる可能性が高い。また,複数の課題に同時に注意を向けるといった注意分配機能の低下は,転倒リスクを増大させる重要な要因のひとつとされている。転倒によって弊害となる心理的な要素として転倒恐怖感が挙げられ,転倒恐怖感を有していると活動制限を引き起こし,さらなる心身機能の低下を招き,より一層に転倒リスクを高めることにつながる。転倒予防のための介入として,身体機能面からの介入のみならず,注意や実行機能,注意分配機能(二重課題など)の側面からの介入も有効性が期待されている。また,運動介入を通じて身体機能の改善が図られ,そのことが転倒恐怖感の軽減やうつ徴候の軽減といった心理・精神的な状態の安定につながり,身体活動や社会活動の向上を促進して,転倒リスクの軽減に寄与するといった好循環をもたらすことが期待される。
著者
福田 圭志 中村 英美 光田 尚代 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
日本転倒予防学会
雑誌
日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.53-59, 2017-06-10 (Released:2018-06-22)
参考文献数
35

【目的】主要な転倒リスク評価により後方転倒を予測できるか検証することを目的とした。【方法】対象は独歩または杖歩行可能な地域在住高齢者 61 名とした。対象者を過去 1 年間で転倒経験なし(Ⅰ群),後方転倒以外の転倒経験あり(Ⅱ群),後方転倒経験あり(Ⅲ群)の 3 群に分類した。3 群に対して 5 回椅子立ち上がりテスト(Five-Times-Sit-To-Stand Test: 以下,FTSST),通常歩行速度,Timed Up & Go Test(以下,TUG),片脚立位時間を計測した。なお,片脚立位では足の着地位置が,前方,後方,中間のどの方向へ着地するのかを 5 回測定した。各評価結果の 3 群間の比較には Steel-Dwass 法を用いた。また,各群の片脚立位の足の着地位置が前方着地と後方着地,中間着地のどの方向に関連するかを χ2 独立性の検定を用いて検証した。【結果】Ⅰ群とⅢ群間の比較では,FTSST はⅠ群が 14.2 ± 4.7s,Ⅲ群が 19.4 ± 6.3s,通常歩行速度はⅠ群が 0.8 ±0.2m/s,Ⅲ群が 0.6 ± 0.1m/s,TUG はⅠ群が 12.6 ± 4.7s,Ⅲ群が 16.9 ± 5.7s と,いずれもⅢ群が有意に劣っていた(p < 0.05)。Ⅰ群とⅡ群間ではすべてに有意差はなかった。片脚立位における測定時間は 3 群間で有意差はなかった。また,片脚立位の挙上側足の着地位置に関しても,3 群ともに足の着地位置と転倒方向の関連性はなかった。【結論】現在,多く用いられる転倒リスク評価のみでは後方転倒の予測は難しいが,後方転倒は下肢筋力や立ち上がり,歩行,方向転換能力のより低い高齢者に生じやすいことが示された。