- 著者
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青木 幸子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.61, 2018
<目的><br> 2011年3月11日の東日本大震災から7年が経過した。復興した町や人々の生活の様子が伝えられる中、避難生活を余儀なくさせられて人々もいる。災害遺構の保存が進む一方で、被災地の人々からは災害の風化を懸念する声も聞こえる。被害の爪あとは世代を超えて建物や人の心に受け継がれていく。<br> 家庭科は日々の生活を健康・安全・快適に営むために、実践的・体験的な学習活動により知識・技能の習得とともに、人や環境への影響を考えて自律的に生活を創造していく自立と共生の能力を育成することを目指している。現在、高等学校の約8割が「家庭基礎」を選択しており、4単位から2単位への履修単位減は、衣生活や住生活分野をはじめとした学習内容の削減、実習や交流体験、調べ学習・発表・話し合いなど生徒が主体的に取り組む学習活動の削減となって教育現場に大きな影響を及ぼしている。<br> このような授業時数の制約の中で、筆者は生徒が意欲を持って主体的に学習活動に取り組み、生活を体系的に理解し、学習成果を生活の改善向上に適用していく能力を習得するための一方策としてトピック学習による可能性を示唆してきた。トピック学習は、学習者の興味・関心や生活知を尊重して学習分野を固定せずに内容を構成し、学習者による個別・具体的な学習活動を特徴としている。<br> 本稿は、主に住生活分野で担われている防災対策を複数の分野にわたる取り組みを通して、生活の体系的な理解と多角的なリスク認識の可能性について、高校生を対象とした授業分析を通してトピック学習の効果を検証することを目的とする。<br><方法><br>1.埼玉県立高校Bにおいて、学校長・家庭科教員の承諾を得て、2年生を対象に「家庭基礎」で授業研究を実施した。<br>授業前に「『生活のリスク管理』に関する意識調査」「ひらめき連想調査」を、授業後に「『生活上のリスクを考える』学習終了後の調査」を実施した。3つの調査および調べ学習、発表、相互評価を取り入れた授業中のワークシートなどすべて提出した6クラス205票を有効票とし、分析の対象とした。<br>2. 生涯に起こる可能性のあるリスクのうち高校生に比較的身近なリスクを対象に事前調査を行い、リスクに関する意識について中学生を対象とした先行研究の結果と比較し、特徴や傾向について把握する。<br>3.事前調査およびワークシート、授業後の調査結果を分析し、災害のリスク要因について認識の変化と授業の効果を分析し、トピック学習の可能性について検討する。<br><結果と考察><br>1. 予想される生活上のリスクのうち、高校生は「生活への被害の程度」について10項目すべてが4段階評価で平均値3.0以上であった。自然災害のリスクは3.38と中学生の3.61よりは低かった。しかし、環境問題、インターネット上の問題、健康問題のリスク意識は、中学生を上回っていた。<br>2. 自然災害のリスクに対する備えとして、非常用の水・食料や非常持ち出し袋の準備、避難場所とルートの確認の認識は高かったが、家族での話し合いや防災訓練への参加は若干低かった。<br>3. 授業前の「ひらめき連想調査」において、授業内容に関するキーワードは一人当たり平均6.44個であったが、授業後のキーワードは8.29個であった。キーワードの増加は、災害に関連するリスクへの認識が拡大したことを意味する。また、授業内容を踏まえ、自身が関心のあるリスクを記した者が12名おり、キーワードは一人当たり6.58個であった。<br>4. 授業後の学習内容と学習方法に関する6項目の評価について、「とても効果があった」「やや効果があった」と肯定的にとらえていた生徒は92.7~99.5%であった。<br>5. 生活に根ざした内容と実感的理解を促進する主体的・体験的な学習活動を特徴とするトピック学習の効果が認められた。