著者
木谷 明
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.16-20, 2017

裁判官としての実務経験から、刑事裁判でバイアスによって誤判が生まれる原因について検討す る。裁判官は検察官の提出する証拠を盲信する傾向がある。また「起訴便宜主義」によって、事実関 係に争いのある事件が起訴されることが少なくなることから、有罪推定の心証を抱いて裁判に臨み やすくなる。実感として、刑事裁判官には、A 型(「頑迷な迷信型」)、B 型(「優柔不断右顧左眄型」)、 C 型(「熟慮断行型」)がいると考えている。A 型の裁判官は、捜査に大きな信頼をおき、被告人の言 葉を信じないなど強い思い込みをもっている傾向がある。B 型の裁判官は、無罪かもしれないと 思っても周囲の意見に流されてしまいやすいという傾向がある。C 型の裁判官は、バイアスに比較 的かかりにくいが、やはり誤判と無縁というわけではない。また事件の性質でもバイアスに違いが ある。自白依存型事件では、詳細な自白を真犯人だと思い込みやすくなるし、間接事実依存型事件 では、「証拠上犯人らしくみえる」ことから被告人を真犯人だと思い込みやすくなる。以上のような バイアスを防止するには1虚偽自白生成過程への理解を深めること、2間接事実依存型事件では消 極的間接証拠について適切な評価を行なうこと、3取調べ可視化記録の影響について理解すること などの対策が必要であろう。

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