著者
白井 美穂 サトウ タツヤ 北村 英哉
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.40-46, 2011-10

本稿では、人々が凶悪犯罪に対面しながらも公正世界信念(Belief in a Just World)を維持するために有効な加害者の「非人間化方略」として、「悪魔化」と「患者化」の2つを挙げ、それぞれにおける思考プロセスの可視化を目指した。先行研究の結果から、加害者の非人間化が生じる凶悪事例(EVIL)とそうでない事例(BAD)について、参加者によって記述された判決文(死刑/無期)を、複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model: TEM)を援用してまとめた。その結果、凶悪事例の加害者は両判決文において「一般的でない精神構造」を持つ者と仮定され、そこから派生した加害者の特性ラベリング(悪魔/患者)は、両判決の理由として機能していた。本稿の結果は、凶悪事例の加害者に対する死刑/無期判決を合理化・正当化する際、どちらを前提とした場合でも、人々が公正世界信念を維持できる知識構造を有していることを示すものである。
著者
厳島 行雄
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.17-28, 2014

飯塚事件におけるT氏の目撃供述の正確さの心理学的鑑定を行った。飯塚事件とは、小学生2女児が自宅から小学校に登校中に行方不明になり、翌日死体で発見された事件である。T氏の供述とは、この二人の所有物が遺棄されていた場所を事件当日のお昼前に、国道332号の山の中のワインディングロードを軽自動車で走行中(25KM)に、左に急に曲がる下りの坂道で目撃したというものである。目撃から12日後には事件担当の刑事を現場に案内し、その場所を迷いながらも特定し、目撃した人物と車の詳細について供述した。問題となるのは、その人物および停車中の供述内容が極めて詳細であり、そのような詳細な出来事の記憶が果たして本人の経験した目撃に由来するのかという点である。この問題を解決するために、目撃されたとされる場所を利用して、30名の実験参加者によるフィールド実験を行った。実験ではT氏の視認状況を再現することを試みた。その結果、T氏のような詳細を報告できる者は一人もいなかった。この目撃供述は、T氏の面接以前に犯人のものとされる車を調べた警察官によって作成されたことが、本鑑定書の作成後にわかった。このことはその捜査官によって車の詳細に関する誘導が行われた可能性を推察させる。
著者
笠原 洋子 厳島 行雄
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.71-84, 2007-07

Earwitness研究は、声の再認に関する研究と声から人物識別判断を行う研究の2つに大別される。本研究は後者の研究領域に位置づけられるものであり、その中でも声の様態変化が年齢判断に与える影響について検討することを目的とした。実験1では、声の偽装手段として実際の犯罪場面でしばしば用いられる、「ささやき」の影響について検討した。その結果、ささやくことにより、通常の発話よりも年齢が高く推定されることが示された。刺激として用いた音声を分析した結果、ささやくことにより声が全体的に高くなり、音圧レベルは全体的に小さく変化していた。そこで実験2で声の高さ、実験3では声の大きさを操作した。その結果、実験2では男性発話者は一音下げた条件において年齢が高く推定されることが見出されたが、実験3では条件間に差はみられなかった。これら一連の研究から、声からの年齢判断においては声の高さの変化が大きく影響し、声の大きさの変化は判断に影響を与えない可能性が示された。
著者
山岡 重行 風間 文明
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.98-110, 2004-06

犯罪被害者の社会的地位や否定的要素は、加害者の量刑判断にどのように影響するのだろうか。Lerner(1980)の公正世界仮説によれば、人々は一般に良い人には良いことが起こり、悪い人には悪いことが起こるという信念を持っており、そのため悪いことが起こった原因はその人の日頃の行いの悪さに帰属されるのである。この公正世界仮説から次の二つの仮説が導き出される。仮説1:犯罪被害者に全く落ち度がない場合であっても、否定的要素が強くなるに連れて、被害者に対する同情などの肯定的態度は弱くなり、逆にその被害を天罰や自業自得とする否定的態度が強くなる。仮説2:犯罪被害者の否定的要素が強く社会的地位が低い場合は、被害者の否定的要素が弱く社会的地位が高い場合よりも加害者に対する量刑が軽くなり、この傾向は深刻な犯罪の場合により顕著になる。本研究はこの2つの仮説を2つの実験によって検討した。実験結果は2つの仮説を支持した。主に公正世界仮説と社会的ステレオタイプの観点から得られた結果に考察を加えた。
著者
仲 真紀子
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.27-32, 2012-10

司法面接の目的の一つは、正確な情報をできるかぎり多く収集することだが、それは話をよく聞いてもらうという被面接者の権利を守ることでもある。本論では目撃者への面接(認知面接)、被害者への面接(MOGP、NICHDプロトコル等)、被疑者への面接(PEACEモデル)に関する研究成果を振り返り、実務に対してどのような貢献が可能かを考察する。
著者
杉森 伸吉 門池 宏之 大村 彰道
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.60-70, 2005-01

本研究では、裁判員制度での集団意思決定過程において、裁判官の有罪意見が裁判員の判断に及ぼす正当性勢力の影響(裁判官の意見というだけで、内容を吟味せず同調する影響)について、参加者の認知的負荷量を事件資料の長さなどを操作し検証した。具体的には、「疑わしきは被告人の利益に」の推定無罪原則からは必ずしも有罪と断定できない事件の資料を参加者が読み、被告人が犯罪を行ったか、有罪かなどの事前判断を個別に行ったのち、3人集団で討議した。実験群では討議中に裁判官の意見を「裁判官の意見」または「他の参加者の意見」(認知的低負荷条件のみ)として読み(統制群は見ず)、討議後同じ質問について再び個別に判断した。その結果、(1)事件資料が長く難解な場合(認知的高負荷条件)、参加者の多くが、裁判官の有罪意見を読んで有罪判断に傾いた。しかし、(2)事件資料が短く理解が容易な場合(認知的低負荷条件)、参加者は裁判官の有罪意見を読んでも有罪判断に傾かなかった(ただし無罪判断の確信度は下がっていた)。また、(3)一般市民が「疑わしきは罰せず」の原則を個人や集団で実践できるか検討した結果、有罪意見を読んだ参加者に、むしろ「疑わしいならば罰する」という判断傾向が現れた。以上の結果から、裁判員制度において、事件内容が難解で、法律家が難解な専門用語を用いて裁判を進めた場合は直接的に、また裁判が短く理解も容易な場合でも間接的に、裁判官が一般市民の意見を誘導できる可能性を否定できなかった。裁判員制度での制度設計では市民の一般的文章理解能力を十分考慮することがきわめて重要であることが示唆された。
著者
厳島 行雄
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.17-28, 2014 (Released:2017-06-02)

飯塚事件におけるT氏の目撃供述の正確さの心理学的鑑定を行った。飯塚事件とは、小学生2女児が自宅から小学校に登校中に行方不明になり、翌日死体で発見された事件である。T氏の供述とは、この二人の所有物が遺棄されていた場所を事件当日のお昼前に、国道332号の山の中のワインディングロードを軽自動車で走行中(25KM)に、左に急に曲がる下りの坂道で目撃したというものである。目撃から12日後には事件担当の刑事を現場に案内し、その場所を迷いながらも特定し、目撃した人物と車の詳細について供述した。問題となるのは、その人物および停車中の供述内容が極めて詳細であり、そのような詳細な出来事の記憶が果たして本人の経験した目撃に由来するのかという点である。この問題を解決するために、目撃されたとされる場所を利用して、30名の実験参加者によるフィールド実験を行った。実験ではT氏の視認状況を再現することを試みた。その結果、T氏のような詳細を報告できる者は一人もいなかった。この目撃供述は、T氏の面接以前に犯人のものとされる車を調べた警察官によって作成されたことが、本鑑定書の作成後にわかった。このことはその捜査官によって車の詳細に関する誘導が行われた可能性を推察させる。
著者
金 秉俊
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.24-35, 2005-01

本論文は、1992年韓国で発生した殺人事件を素材にする。K警察官が犯人として逮捕されてから虚偽の自白をし、第1審および第2審において有罪判決(懲役12年)を受けた。その後上告し、最高裁の判決が下る前に真犯人が捕まった。Kが無罪で釈放されるまでの過程を通し、彼の虚偽自白をめぐる関係者たちの構造と、虚偽自白が発生し、真実が明らかにされるまでの心理過程をフランスの精神分析家であるJacques Lacanの理論に従い、理解しようとしたものである。Lacanは主体($)と支配記標(S_1)、知識(S_2)、対象(a)の位置を中心に真理と関連した4つの談論を提示している。本論文では、K警察官の虚偽自白は、取調べ官たちの「主の語らい」と「科学の語らい」、被告人の「ヒステリ-の語らい」が結合して虚偽自白の壁を形成していると解釈した。そして、このような虚偽自白の壁を崩すための談論として、「分析家の語らい」の必要性とその条件および内容について述べた。
著者
森 直久
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.81-91, 2005-01

被疑者に対する不当な取り調べの抑止のため、取り調べ状況の可視化の必要性が叫ばれている。しかし取り調べ状況の可視化、少なくとも対話体資料の作成と開示は、被疑者だけでなく、すべての供述者についてなされるべきであろう。本論文は、実際の刑事事件を題材に、供述心理学の立場からこの問題を考察した。わいせつ事件の被害者とされている女子学生の供述調書に加え、彼女が二人の教師との間で繰り広げた、捜査初期の会話テープが分析された。このテープには、後の捜査で明らかとなるわいせつ行為の大要が含まれていた。しかし、それらはしばしば、教師の度重なる同一質問や促しの結果語られていた。また後の捜査で登場する事項が否定的に語られたり、このテープ以外ではほとんど登場しない事項が語られていたりした。被害者の供述が、このようなコミュニケーションによって整形されていったとすれば、その信用性は低いと言わざるを得ない。他方これが例外的な事態であることが判明すれば、供述の信用性と取り調べの適切さが認められたであろう。取り調べ状況の可視化がなされていたら、どちらの事態が発生していたのかを判断することも、被害者の供述が信用できるか判断することも容易であったであろう。
著者
サトウ タツヤ
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.26-37, 2011-10

司法臨床は新しい概念であり有望ではあるが曖昧な概念であり本稿ではいくつかの視点から検討を行った。まず弁護士として家事事件を扱う立場、家庭裁判所の調査官の立場、加害者治療の立場、カナダにおける問題解決型裁判所の視察を行った立場からのそれぞれの司法臨床のあり方について検討を行った。次に司法臨床の根本にある問題解決を支えるために必要なシステム論、法と心理の協働のための理論であるモード論について紹介を行った。最後に、司法臨床と類似の考え方である犯罪心理学や治療法学と比較を行うことでその異同を明らかにしつつ、司法臨床の今後の可能性について論じた。
著者
田中 未央 厳島 行雄
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.85-94, 2007-07

不正確な目撃証言による記憶の変容は、証言者の意図が伴わずに生じる現象であり、その原因として事後情報効果などの様々な要因が明らかにされてきた。一方で、事件の加害者や容疑者が意図的に語った不正確な供述、つまり嘘の供述が後の記憶に及ぼす影響についての検討は、あまり行われていない。そこで、本研究では出来事を想起する際に嘘をついた場合、記憶がどのように変化するかを検討するために2つの実験を行った。実験1では、同じ出来事について嘘をついた後の記憶と嘘をつかなかった後の記憶を比較し、出来事を想起する際に嘘をついた場合でも出来事に関する正確な記憶が維持されること、また、嘘をつく際には2つの方略が用いられる傾向があることが示された。実験2では、嘘をつく際に採用される方略を統制し、後の記憶を比較したところ、嘘をつく際に知らないふりをする方略を用いた場合に正確な記憶が抑制されることが示された。実験1・実験2の結果から、出来事を想起する際の嘘の有無ではなく、採用される嘘の方略が正確な記憶を抑制する要因であると考えられる。また、知らないふりをすることでオリジナル(原現象)の想起が抑制されるので、オリジナル記憶のリハーサルが妨害され、正確な出来事を想起することが困難になると考えられる。
著者
山内 佑子 高橋 雅延 伊東 裕司
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.83-92, 2008-08

認知インタビュー(Cognitive Interview:以下CI)は認知心理学の実験的知見をもとにFisherとGeiselmanによって開発された記憶促進のための事情聴取方法である。想起方法としてCI技法を用いない標準インタビュー(Standard Interview:以下SI)とCIの2条件を設けて比較した従来の研究では、CIはSIよりも正確な情報を引き出すことが明らかにされている。本研究では2つの実験において、CIの有効性に及ぼす目撃者の性格特性の差異の影響を検討した。すなわち、参加者を向性テストの結果によって外向性高群と外向性低群に分けた後、銀行強盗の短いビデオを呈示した。実験1ではSI条件とCI条件を比較した。実験2では全員がCIを受ける前に、CI技法による想起の経験か、CI技法によらない想起の経験のいずれかを行った。その結果、CIの有効性は目撃者の性格特性によって影響を受けることが明らかとなった。これらの結果についてはCIにおけるラポール形成の面から考察した。
著者
藤原 映久 宮阪 敏章 鳥羽 幸恵
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.92-105, 2002 (Released:2017-06-02)

全国の中央児童相談所の職員、島根県内の保育所の職員(保育士)及び島根県内の病院職員(看護婦・士)を対象に、「父親・母親」、「子どもに"おまえが生まれてこなければよかった"と言う父親・母親」「子どもに食事を与えない父親・母親」「子どもを殴る父親・母親」の8概念について、SD法によるイメ-ジ調査を実施した。各概念は、親一般を意味する「父親・母親」を除いて、心理的虐待、ネグレクト、身体的虐待といった虐待を行う親を表している。集められたデ-タを因子分析にかけた結果、3つの因子が抽出され、それぞれの因子は、「明朗性因子」「情動性因子」「活動性因子」と命名された。さらに、児童相談所職員、保育士、看護婦の3職種全てが、親一般よりも虐待を行う親のイメ-ジをネガティブに評価するが、児童相談所職員は、保育士もしくは看護婦・士よりも、虐待を行う親を親一般のイメージに比較してネガティブに評価する傾向が弱いことが示された。本研究からは、虐待を行う親のイメージは職種間によってずれのあることが示唆されたが、このことは、異なる機関同士での連携を困難にする可能性を示している。よって、児童虐待事例において、異なる機関同士でのよりよい連携を目指すためには、それぞれの機関のそれぞれの職員が、これらのことを自覚する必要がある。