- 著者
-
伊東 昌章
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- vol.46, pp.S24-5, 2019
<p> 無細胞タンパク質合成とは、生細胞を用いず、細胞抽出液に基質や酵素を加えるなどして生物の遺伝情報翻訳系を試験管内に取り揃え、目的のタンパク質をコードするmRNAを用いて、アミノ酸を望みの順番に必要な残基数結合させタンパク質を合成する方法であり、技術自体は古くから利用されてきた。現在、無細胞タンパク質合成には、大腸菌(再構成系も含む)、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、哺乳動物培養細胞、そして発表者らが開発した昆虫培養細胞由来の抽出液を用いた系が知られており、それらについては既に試薬キットとして市販されている。しかしながら、多くのメリットを有するにもかかわらず、未だ主要なタンパク質合成手段の一つとはなっていない。</p><p> そのような状況のもと、発表者らは、合成量が少ないなどの従来の不具合を解消するために、新たな細胞抽出液を用いた無細胞系タンパク質合成系の開発に着手した。そして、カイコ幼虫が繭の主成分であるフィブロイン(タンパク質)の高い生産能を有することに着目し、その生産器官である後部絹糸線を用いて研究開発を進めた。まず、5齢4日のカイコ幼虫より1頭あたり20秒以内と簡便・迅速に後部絹糸腺を摘出する方法を開発した。次に、高いタンパク質合成能を保持できるように温和な条件のもと抽出液を簡便に大量調製する方法を開発した。そして、大量調製した抽出液を用い、安定して約70 μg/ml以上の効率でのタンパク質合成に成功した。これらの技術開発により、カイコという安価な材料を用いて動物由来の抽出液で最高レベルの合成量を有する実用化可能な無細胞タンパク質合成系を構築することができた。</p><p> 本シンポジウムでは、カイコ無細胞タンパク質合成系の開発の経緯とその技術を用いた応用例を紹介する。</p>