- 著者
-
田部 知季
- 出版者
- 日本近代文学会
- 雑誌
- 日本近代文学 (ISSN:05493749)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, pp.33-48, 2018
<p>本稿では、従来看過されてきた短詩形文学と日露戦争の関わりを、井上剣花坊と河東碧梧桐の動向に即して検証した。剣花坊の川柳革新は『日本』の「新題柳樽」欄を舞台に展開し、戦争の時流に乗って躍進する。その中で彼は既存の「文学」に欠ける「滑稽趣味」を拠り所に、川柳というジャンルを「興国的文学」として価値づけた。一方、戦時下の俳壇では国威発揚を企図した「武装俳句」が試みられるも、実作上の成果を得られずにいた。他方、従軍の計画が頓挫した碧梧桐は、安易に俳句を戦争と結びつけることなく、自立的な「文学」としての俳句像を堅持した。彼はそうした反動の延長線上で全国行脚へ乗り出し、新傾向俳句を鼓吹することとなる。</p>