著者
鳥越 淳一
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要
巻号頁・発行日
vol.19, pp.99-110, 2020

本論は,カンバーグが発展させた対象関係論をベースに米国で開発された転移焦点化精神療法 Transference-Focused Psychotherapy(TFP)を概観し,日本の臨床に導入する際にどのような文化的修正が必要になるかの研究的展望を論じたものである。TFP は,境界性パーソナリティ障害の治療のためにデザインされた力動的精神療法であり,「実証的に支持された療法(EST)」(APA・アメリカ心理学会)としてリストアップされている。境界性パーソナリティ障害を有する患者の破壊的行動(自傷行為や自殺企図など)の減少に有効である他,リフレクティブ機能が向上することが実証されており,日本で既に実践・研究されている DBT(弁証法的行動療法),SFT(スキーマ焦点化療法),MBT(メンタライゼーション・ベースド療法)と並んで効果的な精神療法とされている。対面式で週2回ないし 1 回の面接を最低 1 年間継続するという面接形式は現代日本の臨床実態にも合っており,形式的には導入可能かもしれない。しかし,日米のセラピストのトレーニング形式の違い,文化差,および各文化特有の対人関係における考え方,感じ方,振舞い方の違いは,TFP が治療ターゲットとしている境界性パーソナリティ障害の病理の捉え方に影響を及ぼすかもしれず,今後日本の臨床により適合するような文化的修正の研究・検討が必要になると思われる。

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