著者
鳥越 淳一
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.111-120, 2020 (Released:2020-04-01)

本論は拒絶感受性(RS; rejection sensitivity)に関する,近年の海外の研究動向をレビューし,今後日本における RS の研究展望について明確にすることを目的としている。RS は拒絶の手がかりに対して,不安気に予測し,すぐに知覚し,強烈に(否定的に)反応する傾向と定義され,この20 年間,海外では様々な視点から研究がなされてきた。しかし,心理学的研究のデータベースで確認する限り,日本ではさほど多くの研究はなされていない。アメリカを中心とする海外では,近年,神経画像研究の進歩も相まって,RS は特定の精神疾患や精神障害の中核特性として研究され,高RSを有する人と低RS を有する人では脳の機能の仕方が異なっていることが分かってきている。そのような違いは,精神病理間の質的な違い,ひいては,効果的な治療計画,治療過程(治療的介入),治療結果(予後)を検討する重要な指標となると考えられる。たとえば,非定型うつ病の一種である,いわゆる“新型うつ”と呼ばれる難治性のうつ病にはパーソナリティ障害が関与していると考えられており,うつ病およびその亜型とも目される境界性パーソナリティ障害を通して確認できる RS を治療ターゲットとすることで,新たな理解が生まれるかもしれない。また,RS の変容プロセスは,治療プロセスにとっても示唆深く,技法や理論にも新しい視点が導入されることが期待される。このように,精神病理のリスク因子,治療評価,予後の予測因子として幅広く検討が可能な RS が,今後,日本においても有用な臨床概念の指標として研究され,活用されていくことが期待される。
著者
鳥越 淳一
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要
巻号頁・発行日
vol.19, pp.99-110, 2020

本論は,カンバーグが発展させた対象関係論をベースに米国で開発された転移焦点化精神療法 Transference-Focused Psychotherapy(TFP)を概観し,日本の臨床に導入する際にどのような文化的修正が必要になるかの研究的展望を論じたものである。TFP は,境界性パーソナリティ障害の治療のためにデザインされた力動的精神療法であり,「実証的に支持された療法(EST)」(APA・アメリカ心理学会)としてリストアップされている。境界性パーソナリティ障害を有する患者の破壊的行動(自傷行為や自殺企図など)の減少に有効である他,リフレクティブ機能が向上することが実証されており,日本で既に実践・研究されている DBT(弁証法的行動療法),SFT(スキーマ焦点化療法),MBT(メンタライゼーション・ベースド療法)と並んで効果的な精神療法とされている。対面式で週2回ないし 1 回の面接を最低 1 年間継続するという面接形式は現代日本の臨床実態にも合っており,形式的には導入可能かもしれない。しかし,日米のセラピストのトレーニング形式の違い,文化差,および各文化特有の対人関係における考え方,感じ方,振舞い方の違いは,TFP が治療ターゲットとしている境界性パーソナリティ障害の病理の捉え方に影響を及ぼすかもしれず,今後日本の臨床により適合するような文化的修正の研究・検討が必要になると思われる。