- 著者
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久保 吉人
- 出版者
- 日本ベンチャー学会
- 雑誌
- 日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, pp.47-61, 2018
本稿は、高級扇風機と呼ばれる新市場形成を、ほぼ同時期に成し遂げた家電ベンチャー企業2社の事例研究を通じて、次のようなことを明らかにした。両社の共通点は、「風の質感」改善のために、羽根車やモータを「新技術」へ置換することで、高級扇風機という製品カテゴリーを創出した点にある。その中で、2つの企業のデザインに対する思考には、次のような違いがあった。バルミューダは、新しい多翼二重構造の羽根開発に成功したにもかかわらず、「実用性への考慮」から既存の扇風機の外観デザインに固執した。しかしながらダイソンは、空気誘引技術を採用し、外観から羽根車を排除することに成功、羽根のない扇風機という「意味の急進的な変化」においてドミナントデザインには従わなかった。また本稿は、成熟市場での新市場形成プロセスにおいて、同じ戦略を採用した両社のその後の経営成果についても分析を行った。その結果、市場参入時にドミナントデザインに従ったか否かは、新市場形成には関係が無かった。しかし、その後の製品展開が異なることを明らかにした。