著者
江島 由裕 藤野 義和
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.25-39, 2019-03-15 (Released:2021-02-21)

本稿は、発達障害特有の資質がアントレプレーシップというコンテキストで大きく開花する可能性を学術的な視点から捉え展望している。世界では著名な起業家がADHD をかかえていることが逸話として知られているが、学術的な視点からの実態とメカニズムの解明は途に就いたばかりといえよう。本研究はこの開拓途上の領域に一石を投じる。実証分析に際しては、まず日本の発達障害をもつ起業家の現象と特徴を俯瞰した上で、次にそこから2 つのケースを抽出しその実態を描写し分析を加えている。起業や事業を軌道に乗せるプロセスで、発達障害という資質がどのように影響を与えているのかについて、探索型リサーチによる分析結果から5つの学術的含意とプロポジション(命題)を示す。
著者
松井 克文 牧野 恵美 馬田 隆明 菅原 岳人 吉田 塁 栗田 佳代子 長谷川 克也
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.29-43, 2020-09-15 (Released:2022-01-12)

本研究の目的は、起業家によるゲスト講義を中心とした起業家教育プログラムの効果検証である。ゲスト講義は、ロールモデルや代理経験の効果を通して起業における自己効力感を向上させ、起業意思が醸成されて起業につながると期待されてきた。本研究では、同一環境にある非受講のコントロールグループを設定した準実験を実施し、差分の差分法を用いてゲスト講義の効果を検証した。対象のプログラムはゲスト講義を4回含む7週間の大学の大規模授業である。検証の結果、受講の効果による起業意思と起業における自己効力感の向上は確認されなかった。また、受講前の起業意思が高い学生ほど、受講後に起業意思が低下する結果が示された。以上のことから、ゲスト講義中心の教育プログラムは期待した効果が得られていないと考えられる。一方、受講前に起業意思が高い学生は、起業への向き不向きを再考する機会を得て、自らの適性を見つめ直したと考えられる。
著者
吉田 満梨
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.15-30, 2022-03-15 (Released:2023-04-26)

本研究の目的は、近年アントレプレナーシップ研究において注目される「エフェクチュエーション(effectuation)」に関するこれまでの研究潮流を確認し、今後の研究可能性について考察を行うことである。はじめに、エフェクチュエーションとは何かについて概要を確認した上で、Academy of Management Review 誌で同概念を発表したSarasvathy(2001)以降のエフェクチュエーションに関する研究のレビューを行い、いくつかの先行研究に共通する研究課題や、学会誌における論争を踏まえながら整理した。そうした研究の蓄積は、エフェクチュエーションの有効性についての経験的証拠を提供し、その構成要素に関する理解を深め、適用範囲の境界条件を明らかにすることを通じて、さらなる研究発展に貢献してきたと言える。最後に、アントレプレナーシップ研究におけるエフェクチュエーション研究の意義を、Simon(1996)の「人工物の科学」との関連性から整理し、今後の研究可能性について検討する。
著者
西田 慎太郎
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.3-17, 2021-09-15 (Released:2022-12-01)

本研究の目的は、ベンチャー企業のリスクテイキングと企業業績の関係を明らかにすることである。リスクテイキングの指標は、先行研究でも最も利用されているEBITDA/TA の標準偏差とした。また、リスクテイキングと企業業績はタイムラグを考慮し、加えて業種別収益性に着目し、リスクテイキングと企業業績の関係を明らかにした。定量分析の結果、ベンチャー企業においては、リスクテイキングと企業業績の関係は有意な結果が導かれなかった。しかし、業種別収益性が高い(投下資本利益率(ROIC)の平均値が高い)業種において、ベンチャー企業はリスクテイキングと企業業績の関係はタイムラグを考慮しても、概ね正の影響の存在を確認することができた。本研究は、ベンチャー企業やベンチャーキャピタル等の企業に関わる組織に対して、ベンチャー企業が収益化するためには、どのような条件のもとリスクテイキングをするべきかの示唆となる。
著者
内田 彬浩 伴 正隆
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.31-45, 2022-03-15 (Released:2023-04-26)

本研究では、購入型クラウドファンディングによる資金調達の複数の成功パターンと望ましい価格設定に関する定量的なエビデンスを提示する。購入型クラウドファンディングは市場規模の拡大や活用方法の多様さから、学術的・実務的な関心が高まっており、特に資金調達の成功要因に関する実証研究の蓄積が進んでいる。しかし、従来は資金調達が成功に至るパターンは単一であるという暗黙の仮定のもと実証分析が行われてきた。本研究では、日本の大手購入型クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」のデータと潜在クラスモデルを用いて、資金調達の成功パターンを類型化し、望ましい価格設定に関する示唆を導出した。また従来の研究と比較して、より良く資金調達の成功要因を説明するモデルを提案した。この結果は購入型クラウドファンディングの性質に対する理解を深めることに加え、資金調達における個別具体的な指針の立案に活用可能である。
著者
奥田 聡 更田 誠 大江 建
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.41-55, 2021-03-15 (Released:2022-12-01)

株式会社浜野製作所(浜野製作所)は1993年に3名で売上高3,000万円の東京都墨田区の零細企業であった。主業である金属加工も日本の中小零細ものづくり企業の典型であるといえよう。浜野製作所はその後、社員数50名、関東圏の金属加工業としては有名な1社として認知されるようになり、天皇陛下(現上皇)が視察にいらっしゃるような会社に成長した。市場規模が右肩下がりの中でなぜ浜野製作所が成長できたのであろうか?その原因を探ることで日本の中小零細企業の活性化の鍵が隠されていると考えた。本稿では中小ものづくり企業の生き残り戦略を明らかにするうえで、浜野製作所の事例分析を行った。下請けを中心としたものづくり企業からものづくり総合支援サービスを形にしたことは中小ものづくり企業経営者の一助になるであろう。 中小企業が生き残るうえでは起業家としての強さと新規事業の創出両面が必要であると考え、エフェクチュエーション理論を戦略遂行と中小企業社長の行動理論の説明として用い、両利きの経営を新規事業の創出戦略を明らかにするために使用した。産学連携で実践的に深化事業から探索事業をくみ上げ、エフェクチュエーション理論に基づく熟達した起業家としての力をもつ中小企業社長が深くコミットし、事業の深化及び探索両面を推進することが確認できた。
著者
小野 正人
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.45-53, 2011-09-15 (Released:2019-04-12)

本稿では、米国のベンチャーキャピタルの行動とパフォーマンスを個別ファンドに踏み込んで実証分析を試みた。米国のVCファンドで一般に言われる高い収益率はインターネットバブル期に限られたものであり、2001年以降は全体として収益率がマイナスとなっている。また、高いリターンを上げた一部のファンドがVCファンド全体の収益の大半を占めており、ファンド間で収益の偏りが大きい構造にあることが確認された。この偏在は、IPOやM&AによってVCが実現する売却額(投資先の企業価値)に大きな格差があるためであることが、投資モデルと史的分析により推定できる。さらに、好成績をあげたファンドは一流と評価されるVCファームに偏在し、その成績は次回以降も続く傾向がある。このような特定のVCが持つ競争力は、その実績、評価、ネットワークによって形成された可能性が高い。今後、VCファンドの収益の大幅な回復は期待しにくく、他方でVC以外からの資金調達で成長するベンチャーも存在感を高めているなど、米国のベンチャー投資は大きな転換点にある。
著者
谷口 正一郎
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.79-93, 2022-03-15 (Released:2023-04-26)

本論文は、大企業がベンチャー企業と協同して事業創造に取り組むコーポレート・アクセラレーター・プログラムのプロセスを明らかにすることを目的とする。コーポレートベンチャリングの先行研究が提示した分析枠組みを援用し、森永製菓株式会社を対象とした事例分析を行った。大企業が、コーポレート・アクセラレーター・プログラムを導入した結果、提携を擁護する新たな組織コンテキストが形成され、ベンチャー企業との事業創造を促す。しかし他方では、事業創造に対する淘汰圧も生じるのである。これらを解消するためには、トップマネジメ ントのサポートのみならず、部門間交渉や利害調整が必要となる。さらに、組織メンバーが、CAPの目的を満たすために、事後的に事業創造を作り込み、多様な成果に結実する可能性を見出した。本論文は、これらの発見事実を通じて、事例企業におけるコーポレート・アクセラレーター・プログラムのプロセスを提示した。
著者
髙見 啓一
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.63-77, 2022-03-15 (Released:2023-04-26)

全国に遍在する「商業高校」は、幅広い学力の生徒が学べ、アントレプレナーシップ教育(Entrepreneurship Education, 以下「EE」)を地方や起業無縁層へ広げる拠点として期待できる。本稿の目的は、学校外部との協働をベースに展開される商業高校のEE の成功要因を、「実践共同体」を中心とした枠組みから明らかにすることである。学校内株式会社と地域創生の取組みを行っている先進事例2校のEEを分析したところ、ともに連携先との互酬的なコミュニティを構築し、非公式性や自発性が担保された「第3の場所」となるコミュニティを作っていた。それにより、非規範的(非常識的)な学びによるアイデンティティやパースペクティブの変容を促し、新商品開発などのイノベーションにつなげていた。そのマネジメントには、熟達したキーパーソンとのつながり作りや、コーディネーター役の教員が動きやすくなるような組織サポートが重要となることが明らかとなった。
著者
足代 訓史
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.47-61, 2022-03-15 (Released:2023-04-26)

近年、ネットワーク効果を享受できるはずの既存プラットフォーム(platform: PF)が、市場でのドミナントな地位を失うケースが散見される。本稿では、リーダーシップ段階にあるPFにおけるユーザーのエンゲージメント行動に着目することで、既存PFが市場地位を低下させる論理と、その際のマネジメント上の要諦を検討する。具体的には、情報市場のPFであるミクシィの事例研究を通じて、以下の結論を主張する。既存PFは、ネットワーク効果を背景として機能改善や機能追加を行い、ユーザー数や補完者数を増加させる。その際、市場でドミナントな地位を占めているPFであるがゆえに、競合への同質化行動を取る。しかし、その施策は、当該PFのユーザーのエンゲージメント行動の独自性を変化させ、ひいては、元来有していたPF の独自性をも変容させる。これが一つの要因となって、ドミナントな地位にあったPFの市場地位は低下に向かう。
著者
松原 日出人
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.5-13, 2022 (Released:2023-04-26)

本稿の目的は,地域と企業家活動に関する多様な議論を整理し,企業家活動に関わる議論領域の確認・検討を行うことである。本研究の問題意識には,地域というキーワードから連想される研究の幅広さがある。そこで,本稿では,多様な議論を整理する糸口として研究者を取り巻く時代背景に着目した。それにより,企業家活動を論じるにあたって地域がなぜ,どのように問題になるのか,あるいはならないのかを,代表的な議論の検討を中心に据えつつ3つの観点に整理し論じた。この整理に基づき,企業家活動の議論において地域に着目する意義や,これまで果たしてきた役割,議論領域を総括した。
著者
伊藤 博之 筈井 俊輔 平澤 哲 山田 仁一郎 横山 恵子
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.11-24, 2021-03-15 (Released:2022-12-01)

企業家研究は多元的な概念の発展を通して興隆してきたが、シュンペーターが当初描いた、意志の力を伴って創造的破壊に突き進むという企業家像よりも,富やイノベーション創出のための道具的存在としての企業家像が敷衍している。これに対して、本論文は、フーコーのパレーシア概念を援用することで、「既存の体制と異なる真理を語り、勇気をもって、リスクを冒し挑戦するという企業家の生き方」を「パレーシアステースとしての企業家」と捉える。小倉昌男の事例研究を通して、企業家的真理ゲームとして展開される企業家活動の政治的・倫理的実践のあり方を明らかにする。