著者
秦 兵
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.37-48, 2013

中国では現在,工業化が急速に進行し,ここ数年で経済規模が大きくなり「世界の工場」といわれるようになった。産業構造と産業発展が地域経済と国民経済に重大な影響を与えつつある。内需拡大と地域格差是正などの問題を解決するためには,適切な産業発展戦略と産業政策が求められている。産業構造とその発展戦略は中国全体および地域の経済発展に重要な影響を与え,地域経済の競争優位にとって極めて重要である。工業化するに伴って,業種構造の傾向を知ることが重要である。そして中国ないし各地域はその傾向の中で如何なる位置にあるのかを判断して,先手を打つことが効果的と考えられる。 産業構造に関する理論は多数存在するが,工業内部の産業構造に関してはホフマン法則がよく知られている。Hoffmann(1958)は,経済発展とともに消費財に対する生産財の比率が上昇することを説いた。次に,宮沢(1975)は経済発展につれて,工業の産業構造が軽工業から重化学工業へ移行すると指摘した。また,吉村(2008)は,産業構造変化の世界標準パターンを,三角形ダイヤグラム(三角形図)を用いて数量的に導出し,それに基づく修正ペティ=クラーク法則を示し,産業構造の収斂傾向を実証的に明らかにした。吉村の修正ペティ=クラーク法則によれば,経済発展につれて,産業構造は,第1 次産業から,第2 次産業・第3 次産業へと移行し,さらに経済発展すれば第2 次産業のウエイトは減少に転じるということである。中国の経済発展に関する研究,文献資料は多数存在する。また,産業構造に関する研究も増えているが,その実証研究は,まだ十分ではない。中国における産業構造の傾向を,統計データを用いて実証的に解明した分析は乏しい。 ここでは,工業3 分類(生活関連型,基礎素材型,加工組立型)からみた中国の経済発展と産業構造について分析する。中国の工業発展においては,1949 ~ 78 年の伝統工業化段階と1978 年~現在までの新型工業化段階の2 段階に分けられる(汪,劉,2009)。しかしながら,1987 年以前の連続した詳しいデータが入手できないので,それ以前のものは,本稿では扱わない。本稿では,工業3 分類とは,中国産業分類に基づき,工業を次のように,生活関連型工業,基礎素材型工業,加工組立型工業の3 つに分類することを指す。生活関連型工業は消費財産業(軽工業)に属しており,基礎素材型工業と加工組立型工業は投資財産業(重工業)に属する。○生活関連型工業:食品加工,食品製造,飲料,タバコ,紡績,製紙○基礎素材型工業:石油加工煉焦,化学工業,医薬品,化学繊維,非鉄金属鉱物,黒色金属加工,金属製品○加工組立型工業:機械,専用設備,交通設備,電器・機器,電子・通信,計器類遼寧社会科学院世界経済研究所助理研究員 秦 兵 そこで,工業構造は,生活関連型→基礎素材型→加工組立型に変化するという仮説を設定する。この仮説を検証するために,経済発展理論と三角形ダイヤグラム分析を用いて,中国における経済発展と産業構造との一般的な傾向を検証し,さらに省レベルのデータを用いて,各省の経済発展と産業構造との関係を示す。吉村(2008)は,種々の方法で産業構造を表現できるものの,ぺティ=クラーク法則のように産業3 分類を扱う場合には,「三角形ダイヤグラム」が3 産業の構成比を平面上の1 点に表示できるので,有効であることを指摘した。3 つの座標のうち,第1 座標,第2 座標,第3 座標をそれぞれ第1 次産業,第2 次産業,第3 次産業の構成比(%)とすれば,ある地域のある時点の産業3 分類の産業構造を三角形ダイヤグラムの中の1 点として表すことができる。この三角形ダイヤグラムを用いれば,ある地域が三角形内のどこに位置するかによってその地域の産業構造の特徴を把握することができる。 本稿では,この三角形ダイヤグラムを工業3 分類に適用して,中国の工業構造を分析する。また,中国および中国 31省市自治区の工業就業者構造( 注1 ),工業生産額構造について分析し,それに基づいて工業3 分類からみた中国の経済発展と産業構造の傾向を明らかにする。その結果,「工業構造は,生活関連型→基礎素材型→加工組立型に変化する。」という仮説が成立することを示す。

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【投稿論文】工業3分類からみた中国の経済発展と産業構造 -1987年以後の就業者と生産額の分析を中心として- https://t.co/tmXHxK4iNS

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