著者
内山 真由美 亀山 嘉大
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.46-63, 2023 (Released:2023-07-28)
参考文献数
87

本稿では,株式会社スターフライヤーが実施しているペット同伴搭乗サービスを題材に, ペットを含む動物に関する法の先行研究および海外の航空会社のペット同伴搭乗サービスの 現状を整理し,国際線におけるペット同伴搭乗サービスの導入の可能性を検討した。具体的 には,2023 年1~2 月に実施したスターフライヤー台湾チャーター便のインバウンド旅行者 に対するアンケート調査をもとに,仮想市場評価法(CVM:Contingent Valuation Method) に基づくペット同伴搭乗サービスの評価額を計測した。その結果,アンケート調査の回答者 は,韓国のフルサービスキャリアの航空会社が実施しているペット同伴搭乗サービスの料金 と同等の評価を付けることがわかった。 今後のインバウンド戦略では,量よりも質を追求していく必要がある。そのため,観光事 業における新しい付加価値の創出や提供は不可欠なものとなる。ペット同伴搭乗サービスは, その一助になる可能性がある。ただし,ペット同伴搭乗サービスを導入するにあたり,日本 と対象国の双方において人獣共通感染症対策が十分にとられていることが前提となる。その ためには,福岡県が推進する「ワンヘルス」のさらなる進展が求められる。
著者
八田 達夫
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.19-36, 2014 (Released:2020-07-08)
参考文献数
4

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1 本当たりの発着数は,すでに日本一である。10 年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25 分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10 号の無信号バイパスの建設である。
著者
八田 達夫 保科 寛樹
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.01-14, 2020 (Released:2021-03-05)
参考文献数
9

「人口成長率の低下は生産性(1 人当たりGDP)の成長率を下げる」という因果関係は, 広く信じられており,地方への人口分散政策や外国人単純労働者受け入れ政策の与件とされ ていることが多い。この命題は,労働力投入の増大による集積の経済がもたらす生産性増大 効果が強く,その効果が,労働の限界生産力逓減の法則による生産性低減の効果を超えるこ とを,暗黙の内に前提としている。 本稿では,この因果関係が実証的に成り立っていないことを明らかにする。具体的には, OECD 加盟国,およびOECD にASEAN 加盟国・中国・インドを加えた各国の,1961~ 2019 年間のデータを分析対象として,次を示す。(1)この全期間において,人口成長率と1 人当たりGDP 成長率との間に,統計的に有意な正の相関関係は成り立たない。この間を10 年ごと・20 年ごとなどに分割したどの期間についても,同様である。(2)本稿で分析した大 多数のサンプルグループにおいて,統計的には有意でないものの逆の関係が回帰分析では観 察される。(3)特定の期間と国グループの組み合わせでは,負の関係が統計的に有意に成り 立つ。これらの事実は,一般に広く信じられているほどには集積の利益が強くないことを実 証的に示している。 「人口成長率の低下が生産性の成長率を下げる」という因果関係は,実証的に検証されて いないという事実は,広く政策担当者に認識されるべきであろう。
著者
片山 憲一
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.26-36, 2014 (Released:2020-04-03)
参考文献数
16

私は北九州市役所で長い間,地域開発の仕事に携わり北九州地域の発展過程,とりわけ産業の発達と交通の変遷,交通の拠点性と都市の盛衰に接し,これらが複雑に絡み合って今の北九州市が形成されてきたことに興味をもった。また,歴史的な街ではなかった地域が都市に成長するには地理的な要因に加え,国の地域開発計画などの何らかのきっかけと,結果として具体的な国のプロジェクトを地域に導入することが都市の発展に大きな役割を果たしてきたことを強く感じた。 特に,公共財の道路や港湾などは,その整備が国の予算に大きく左右される。北九州の都市形成は筑豊地域の石炭の存在に加えて官営八幡製鉄所立地に始まったといわれているが,北九州市の都市形成過程に交通がどのような役割を果たしたかを,一度立ち止まって整理しておくことは有意義と考えた。 ここでは鉄道,路面電車,バスといった都市内の交通機関や市街地形成に寄与した道路などに着目し,北九州における交通と都市の発展のかかわりについて明治期から現在までを,主なエポックで区分しながら整理し,考察を試みた。 市役所の先輩である出口隆氏が平成11 年にまとめられた博士論文「北九州工業地帯の形成と鉄道の役割に関する研究」(出口,1999)の中で,この問題について明治から大正期の北九州創成期における鉄道を中心とした状況について論じておられる。参考としたい。
著者
本間 正義
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.1-18, 2021 (Released:2022-02-04)
参考文献数
20

新型コロナ禍の中で,食料の流通が狭隘になったり,一部の食料価格が高騰したりして, 食料の安定供給への関心が高まった。国際的には食料自給率を向上させる動きもある。これ らは食料の安全保障に関わる問題であるが,その考え方や切り口は様々である。本稿では, 食料の安全保障を定義することから始め,食料自給率と食料安全保障の関係,指数化された 食料安全保障水準でみた各国の特徴,農業政策に関わる食料安全保障の論点などを通じて, 東アジアの食料の安全保障について考察する。 食料の安全保障の概念は,食料生産としての食料の存在から,その安定供給,食料供給へ の物理的,社会的,経済的アクセスの確保,さらには食料が体内でそのすべての栄養価を摂 取されるまでの広い範囲に関わっており,食料の供給経路のどこにボトルネックがあっても 食料の安全保障は確保されない。世界ではサブサハラ地域が,東アジアでは北朝鮮が栄養不 足に陥っている人口の比率が高く,食料の安全保障が脅かされている。 一方,英国の研究組織が開発した食料の安全保障指数でみると,2020 年で対象となる 113ヵ国中,日本は8 位,韓国は32 位,中国は34 位となる。日本は食料自給率が37%と低 いが,58 項目におよぶ調査項目で他の項目が高い評価を得ている。また,食料の安全保障は 農業政策と深く関わっており,国内農業を保護する措置は直接支払いなど,市場に影響しな い施策が望ましいが,日本,韓国,中国ともに市場を歪める価格政策への依存度が高い。 東アジアにおける食料の安全保障に最も影響を与えるのは中国であり,中国の農業には生 産性の向上や生産体制の安定化,そして様々な衝撃に対して回復する能力が求められる。こ れらは,中国に限らず,日本をはじめとする東アジア諸国にとっても実現すべき課題である。
著者
岸本 千佳司
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.52-70, 2016 (Released:2020-02-03)
参考文献数
29

1990 年代以降,半導体産業における「設計と製造の分業」というビジネストレンドの中 で,日本企業が凋落し,かわって台湾企業が台頭してきている。台湾は,ファブレス(IC 設計専門企業)とファウンドリ(ウェハプロセス受託企業)の分業を核とする垂直分業体制を構築し,主に特定用途向けロジックIC(およびシステムLSI)の分野で市場シェアを伸ばしていった。本稿では,台湾半導体産業におけるファウンドリ・ビジネスの発展について(主に業界トップのTSMC の事例を念頭に),発展経緯を解説する。その発展史は少なくとも3 段階に分かれる。即ち,①ファウンドリ・ビジネスの初期モデル(1987 年~1990年代半ば),②ファウンドリ・ビジネスの発展:技術力・生産能力の発展(1990 年代後半頃から),③ファウンドリ・ビジネスの成熟:ソリューション・ビジネスへ(2000 年代以降),である。それを踏まえて,一橋大学・楠木健教授の『ストーリーとしての競争戦略』(楠木,2010)が提唱する手法を採用し,台湾ファウンドリの戦略を「ストーリーとして」描き出した上で,それが概ね「筋の良いストーリー」のイメージに近いことを示す。
著者
鳥丸 聡
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.53-61, 2014

2014 年4 月1 日,17 年ぶりに消費税増税が実施された。みずほ総合研究所の試算によると,夫婦と子ども2 人,年収500 万円の世帯で増税による2014 年度の負担増は8 万3,482 円に達し,経済対策による子育て世帯向けの現金給付を考慮しても,年間7 万円程度の実質負担増になるという。新年度の家計防衛の観点から「駆け込み需要」が活発化したのも道理である。2013 年末までの「駆込み需要」と言えば,百貨店で100 万円もする高級腕時計が月に100 個以上売れたとか,大都市圏で億ション着工が活発化しているとか,高級輸入車販売が活況を呈しているといった富裕層のバブリーな話題ばかりが目立っていたが,増税目前となった2014 年入り後は,公共料金や鉄道,路線バス,高速バス,都市高速料金,はたまた福岡市営渡船や三瀬トンネル通行料金等々の値上げが発表・検討されているというニュースを見聞きするようになって,定期券や回数券,トイレットペーパーに代表される日用消耗品のまとめ買いなどが見られるようになり慌ただしくなった。3 月上旬に,駆け込み需要とは縁がないように思える「甲冑」生産全国シェア9 割を誇る「丸武産業」(鹿児島県薩摩川内市)を訪ねたら,2 月下旬から端午の節句用の兜の受注が例年以上に増えたという。NHK 大河ドラマ「軍師 官兵衛」関連のイベント用甲冑も「GWの博多どんたくで着用したいが,増税前の3 月中に納品して欲しい」といった注文まで舞い込んで大童だった。ハンドメイドで受注生産する伝統工芸品は,熟練職人の数に限りがあるため,駆け込み需要への対応には限界がある。このような駆け込み需要は,様々な中小企業に影響を与えたようだ。しかし,これらの駆け込み需要は,何れも「需要の先食い」に違いはない。新年度に消費税率が物価に上乗せされる(一般には「増税率-1%ポイント」程度のインフレになると予想されている)ので,賃上げが小幅にとどまる場合は,駆け込み需要の反動に加えて物価高による需要の低迷によって,再びデフレ時代に逆戻りすることも十分考えられる。
著者
秦 兵
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.37-48, 2013

中国では現在,工業化が急速に進行し,ここ数年で経済規模が大きくなり「世界の工場」といわれるようになった。産業構造と産業発展が地域経済と国民経済に重大な影響を与えつつある。内需拡大と地域格差是正などの問題を解決するためには,適切な産業発展戦略と産業政策が求められている。産業構造とその発展戦略は中国全体および地域の経済発展に重要な影響を与え,地域経済の競争優位にとって極めて重要である。工業化するに伴って,業種構造の傾向を知ることが重要である。そして中国ないし各地域はその傾向の中で如何なる位置にあるのかを判断して,先手を打つことが効果的と考えられる。 産業構造に関する理論は多数存在するが,工業内部の産業構造に関してはホフマン法則がよく知られている。Hoffmann(1958)は,経済発展とともに消費財に対する生産財の比率が上昇することを説いた。次に,宮沢(1975)は経済発展につれて,工業の産業構造が軽工業から重化学工業へ移行すると指摘した。また,吉村(2008)は,産業構造変化の世界標準パターンを,三角形ダイヤグラム(三角形図)を用いて数量的に導出し,それに基づく修正ペティ=クラーク法則を示し,産業構造の収斂傾向を実証的に明らかにした。吉村の修正ペティ=クラーク法則によれば,経済発展につれて,産業構造は,第1 次産業から,第2 次産業・第3 次産業へと移行し,さらに経済発展すれば第2 次産業のウエイトは減少に転じるということである。中国の経済発展に関する研究,文献資料は多数存在する。また,産業構造に関する研究も増えているが,その実証研究は,まだ十分ではない。中国における産業構造の傾向を,統計データを用いて実証的に解明した分析は乏しい。 ここでは,工業3 分類(生活関連型,基礎素材型,加工組立型)からみた中国の経済発展と産業構造について分析する。中国の工業発展においては,1949 ~ 78 年の伝統工業化段階と1978 年~現在までの新型工業化段階の2 段階に分けられる(汪,劉,2009)。しかしながら,1987 年以前の連続した詳しいデータが入手できないので,それ以前のものは,本稿では扱わない。本稿では,工業3 分類とは,中国産業分類に基づき,工業を次のように,生活関連型工業,基礎素材型工業,加工組立型工業の3 つに分類することを指す。生活関連型工業は消費財産業(軽工業)に属しており,基礎素材型工業と加工組立型工業は投資財産業(重工業)に属する。○生活関連型工業:食品加工,食品製造,飲料,タバコ,紡績,製紙○基礎素材型工業:石油加工煉焦,化学工業,医薬品,化学繊維,非鉄金属鉱物,黒色金属加工,金属製品○加工組立型工業:機械,専用設備,交通設備,電器・機器,電子・通信,計器類遼寧社会科学院世界経済研究所助理研究員 秦 兵 そこで,工業構造は,生活関連型→基礎素材型→加工組立型に変化するという仮説を設定する。この仮説を検証するために,経済発展理論と三角形ダイヤグラム分析を用いて,中国における経済発展と産業構造との一般的な傾向を検証し,さらに省レベルのデータを用いて,各省の経済発展と産業構造との関係を示す。吉村(2008)は,種々の方法で産業構造を表現できるものの,ぺティ=クラーク法則のように産業3 分類を扱う場合には,「三角形ダイヤグラム」が3 産業の構成比を平面上の1 点に表示できるので,有効であることを指摘した。3 つの座標のうち,第1 座標,第2 座標,第3 座標をそれぞれ第1 次産業,第2 次産業,第3 次産業の構成比(%)とすれば,ある地域のある時点の産業3 分類の産業構造を三角形ダイヤグラムの中の1 点として表すことができる。この三角形ダイヤグラムを用いれば,ある地域が三角形内のどこに位置するかによってその地域の産業構造の特徴を把握することができる。 本稿では,この三角形ダイヤグラムを工業3 分類に適用して,中国の工業構造を分析する。また,中国および中国 31省市自治区の工業就業者構造( 注1 ),工業生産額構造について分析し,それに基づいて工業3 分類からみた中国の経済発展と産業構造の傾向を明らかにする。その結果,「工業構造は,生活関連型→基礎素材型→加工組立型に変化する。」という仮説が成立することを示す。
著者
カレイラ松崎 順子
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.17-25, 2014 (Released:2020-04-03)
参考文献数
19

韓国は日本以上の学歴社会であり,親の子どもに対する教育熱は高く,教育費の増大が社会問題となっている。英語教育に関しては,1997 年に英語が小学校に導入され,それに伴い早期英語教育が過熱化し,所得による教育格差,即ち所得が多い家庭の児童は英語塾に通い,また,早期留学に行くことができるなど親の所得が子どもたちの学校以外での英語学習への参与,さらには英語力に影響を与えるなどの問題が生じてきた。そのため韓国政府では,所得による格差から生まれる英語力の格差を軽減するために,様々な政策を行っており,近年ではその格 差も徐々に軽減されつつある。 一方,日本においても,近年不景気が続き,子どもの教育に十分投資できない家庭も増えており(小林,2008),教育格差ということが徐々に問題になりつつある。ゆえに教育格差を軽減するために様々な対策を講じている韓国の事例から日本は多くのことを学ぶことができると思われる。よって,本稿では最初に韓国の英語教育を所得による格差の観点から考察し,次に韓国政府や自治体がそのような格差をなくすためにどのような対策を行ってきたのかを論じていく。
著者
今井 健一
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.21-30, 2016 (Released:2020-01-06)
参考文献数
4

本稿では,少子高齢化がエネルギー消費,特に電力,都市ガス,プロパンガス,灯油といった家庭用エネルギーの消費にどのような影響をもたらすかについて分析した。北九州市と県庁所在都市を含む九州8 都市のデータに基づく分析結果は,少子高齢化の下で世帯数が増加している結果,「1世帯当たりの構成人員」が減り,家庭用エネルギー消費における規模の経済が失われつつあること,すなわち,「1 世帯当たりの構成人員」が減少している結果,「世帯構成人員1 人当たりの家庭用エネルギー消費量」が増えているということがわかった。この結果は,家庭用エネルギーの効率的な利用という点において好ましくない。今後,少子高齢化がさらに進んだ場合,家庭用エネルギー消費における規模の経済がさらに失われていく可能性がある。世帯内だけでなく,世帯間,あるいは複数の世帯から成るコミュニティ内でエネルギーを共有していくという視点が必要となってくる。
著者
田村 一軌 韓 成一 戴 二彪
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-46, 2015 (Released:2020-03-03)
参考文献数
20

日本で毎年様々な祭りが国内各地で開催されている。日本の祭りは,従来は宗教色の強い伝統行事というイメージが強かったが,1980 年代以降,都市コミュニティの連帯感を増強するために,多くの市民の参加を引き付ける娯楽性を重視する祭りが増えた。近年では,少子高齢化が進むなかで地方圏都市の商業・飲食サービス業の低迷状況が続いており,観光や商業振興の起爆剤として祭りの経済的な役割にも期待が集まっている。地方自治体は地域活性化における祭りの役割を重視しつつあるが,自治体の財政事情が厳しくなるなかで,祭り運営に対する積極的な関与が財政状況の悪化に繋がるリスクがあるとも懸念されている。 本研究は,北九州市における祭りの歴史と近年の開催動向,祭り運営の取り組みを紹介したうえで,同市の都市振興戦略における祭り開催の位置づけとその実際の効果を考察する。また,北九州ならびに類似の地方都市における祭り運営のあり方について若干の提言を行う。