著者
木下 真紀
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.88-95, 2020

<p>異常ヘモグロビンは,ヘモグロビンを構成するグロビン鎖にアミノ酸置換が生じたものである.高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography; HPLC) を用いたヘモグロビンA1c (Hb A1c) 測定においては,異常ヘモグロビンは荷電状態が変化しているため,正確なHb A1c 値を得ることができない.当検査部では, 2015 年5 月にアークレイ社製Hb A1c 分析装置HA-8180V を導入した.本分析装置の測定原理はHPLC 法である が,従来の測定モード(Fast モード)に加え,一部の異常ヘモグロビンを検出するモード(Variant モード)を搭載している.本分析装置で得られたクロマトグラムのパターンから異常へモグロビンを疑い,遺伝子検査でヘモグロビン異常症と診断した症例は, Hb Q-Iran(α2 グロビンのcodon 75 GAC [Asp] がCAC [His] に置換)が2 例, Hb St. Luke's(α2 グロビンのcodon 95 CCG [Pro] がCGG [Arg] に置換)が1 例,Hb Toranomon(βグロビンのcodon 112 TGT [Cys] がTGG [Trp] に置換)が1 例であった.東南アジア国籍の4 人ではHb E に合致するクロマ トグラムパターンを認めた.それぞれのHb A1c 値は,Hb Q-Iran とHb St. Luke's 症例ではVariant モードが正値, Hb Toranomon 症例ではいずれのモードも偽低値,Hb E 症例ではHA-8180V による補正値が正値であると考えら れた.我々臨床検査技師は,異常ヘモグロビンを疑う検査結果を得た場合には,異常ヘモグロビンによるHb A1c 値への影響と,Hb A1c 以外の検査項目を用いた血糖コントロールの必要性を医師に報告し,すべての患者が正しい診断と治療を受けられる体制を構築する必要がある.</p>

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