著者
大林 準
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.71-79, 2016-12-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
24

医学統計において,多変量解析で用いられる統計手法の一つにロジスティック回帰分析がある.ロジスティック回帰分析は,目的変数が,「生存・死亡」や「陽性・陰性」といった名義変数の場合に用い,治療( 介入) の効果について,目的変数に関わる因子(共変量)が回帰式にどの程度関与しているかを解析するものである.ロジスティック回帰モデルでは,その結果に対する確率をP とし,共変量をx1,x2 ... とした場合, log ( P /(1-P )) =b0 + b1 x1 + b2 x2 ... といった式で表せる.無作為化されていない後ろ向き研究においては,交絡因子とされるものが,解析結果に対して影響を及ぼすことがたびたび見られる.交絡因子の調整方法として,近年,傾向スコア(propensity score) 解析が提唱され,この傾向スコアには,ロジスティック回帰分析で求めた予測確率を用いる.傾向スコア解析とは,潜在的な交絡要因となる様々な共変量を,傾向スコアという一つの合成変数に縮約( 一次元化) し,その傾向スコアを基準として,交絡因子の影響を除去するためにマッチングや層別化等を行うものである.
著者
大野 仁嗣
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.97-109, 2014-12-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
33

原発性中枢神経リンパ腫(PCNSL)は,病変が中枢神経に発生・限局し,他の臓器には病変を認めないものと定義されるであろう.大半の症例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の病理形態を示す.巣症状,精神神経症状,脳圧亢進症状,痙攣などで発症し,病変は脳室周囲に生じることが多い.MRI画像では,T1強調画像で等~低信号,T2強調画像で等~軽度高信号,造影によって強い増強効果を示す.PCNSLの初期治療は高用量メソトレキセート(HD-MTX)を含む化学療法である.化学療法に引き続いて40ないし45グレイの全脳照射を追加する.これらの化学・放射線治療による完全奏効率は30ないし87%,5年生存率は22ないし70%であるが,最も重篤な毒性は遅延性の神経毒性である.特に高齢者では認知機能が進行性に低下する.当院では直近の3年間に10例のPCNSL症例を診療した.HD-MTXを含む強力な化学療法,Ommayaリザーバーによる抗腫瘍剤の脳室内投与,自家造血幹細胞移植を併用した高用量化学療法,および全脳照射などの治療を行ったが,2年以上の長期生存者は1例に過ぎない.一方,悪性リンパ腫は,神経系のあらゆるレベルに浸潤・再発する.中枢神経再発のなかでは髄膜播種の頻度が最も高く,脳神経麻痺で発症することが多い.悪性リンパ腫の中枢神経再発にはPCNSLと類似の治療戦略を必要とするが,全身播種に対する治療も必要である.中枢神経再発後の生存期間中央値は2ないし5か月に過ぎないので,中枢神経再発リスクの高い症例には,初期治療に中枢神経再発予防を組み入れる必要がある.
著者
前谷 俊三 大林 準 西川 俊邦 小野寺 久
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.90-96, 2014-12-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
21

癌治療の進歩に伴い,その有効性や有益性を評価する尺度の妥当性を検証する必要性が高まっている.評価尺度としては,古くは5年生存率があり,最近では米国食品医薬品局(FDA)の推奨するエンドポイントがある.本稿ではそれぞれの評価尺度を簡単にレビューし,主として患者の立場から何が望ましい尺度かを再検討する.  対象とした尺度は,5年生存率,全治率(Boagモデル),生存期間の中央値と平均,log-rank統計量,ハザード比,FDAのエンドポイントである.各尺度を比較した結果; 1)5年生存率は患者や非専門家にとってわかりやすい尺度であるが,癌の全治率を過大視する傾向がある; 2)全治例は延命例に比べて一般に生存期間が長く,かつその間のQOLも優れている.更に全治例が増加している現今,全治の可能性がある患者集団が解析の対象であれば,評価尺度として延命期間よりも全治率を優先すべきである; 3)もし患者の延命期間が長ければQOLが逆に低下し,患者の希望に反する結果となる恐れもある.結論として,今後,癌治療の評価尺度は更に改善の余地がある.癌の性質や,治療法および患者の希望に応じて最適の癌治療を選択する必要がある.
著者
下村 大樹
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.81-89, 2016-12-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
40

我々は,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant; DOACs)が投与される患者のために,腎機能を簡便に評価するシステム,および抗凝固作用の評価として,PT およびaPTTの検査値に服用後経過時間を併記するシステムを構築した.DOACsは腎排泄率が高い薬剤であるため,重度腎機能障害の患者へ投与が禁忌とされている.DOACs投与時の腎機能評価は,Cockcroft-Gault計算式によるクレアチニンクリアランス(creatinine clearance; CCr)が採用されている.国内で頻用されている糸球体濾過量推算式(estimated glomerular filtration rate; eGFR)と比較すると,日本人に多い小柄な高齢者はCCrよりeGFRが高くなる傾向があり,eGFRでは代用できない.そのため,当院ではCCrを検査システムに取り入れ,禁忌症例の判断,処方前および定期的な腎機能評価に活用している.DOACsは固定用量の投与で,抗凝固作用評価(モニタリング)が不要とされているが,出血リスクの高い患者にはモニタリングすることが推奨されている.DOACsは半減期が短く血中濃度の変動が大きいため,服用からの経過時間により検査値が大きく異なる.当院では,検査技師が採血時に患者から聴取したDOACsの服用時間を検査結果に併記し,服用後経過時間を考慮してPTあるいはaPTTを評価することにより,DOACsのリスク管理を行っている.
著者
林野 泰明 福原 俊一 野口 善令 松井 邦彦 John W Peabody 岡村 真太郎 島田 利彦 宮下 淳 小崎 真規子 有村 保次 福本 陽平 早野 順一郎 井野 晶夫 石丸 裕康 福井 博 相馬 正義 竹内 靖博 渋谷 克彦
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-33, 2012-12-25 (Released:2013-02-26)
参考文献数
14

本研究の目的は,2004年の卒後医学教育改革前後の医療の質を比較することである.日本の8つの臨床研修指定病院において研修中の医師が本研究に参加した.参加した医師は,外来において頻度の高い疾患(糖尿病, 慢性閉塞性肺疾患,心血管疾患,うつ病)についての臨床シナリオに回答した.回答をエビデンスに基づいた診療の質の基準に照らしあわせて採点し,正答率スコアを算出した.ローテート研修が導入された前後でスコアの変化が生じたかを検証するために,2003年の参加者のスコアと,2008年の参加者のスコアを比較した.2003年では,141名(70.1%)が,2008 年には237名(72.3%)が参加に同意した.交絡因子を調整後も,両年の間にスコアの違いを認めなかった(2003 年からのスコアの変化 = 1.9%. 95% CI -1.8 to 5.8%).教育改革前の研修プログラムがストレート研修の施設ではスコアが 3.1% 改善しており,改革前にローテート研修を採用していた施設の改善度1.4% と比較して有意に高値であった.全般的には,2004 年の医学教育改革前後において,研修医の医療の質は変化していなかった.