著者
薄井 達雄
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.31-46, 2019

<p>旧優生保護法下におけるいわゆる強制不妊手術については、当事者からの提訴などもあり、その補償問題が大きな社会問題になっている。そこで問題になったのが、当事者をどのように特定するのかという点である。本人同意の必要がない強制不妊手術は、都道府県に設置される優生保護審査会でその適否を決定することになっていたので、その関係資料が残されていれば特定は可能なはずである。しかし実際は、文書の保存期間が満了したなどの理由で廃棄されたため、残存率は低い。その事情は、筆者の勤務していた神奈川県立公文書館でも同様であるが、現在の公文書の選別基準に照らせば法定の審査会の会議記録は当然残すべきものであり、当時の文書管理が不十分であったことは否めない。</p><p>国公立の組織アーカイブズ機関は、様々な形で親機関から文書の移管を受けて歴史的に重要な公文書を保管、整理、提供しているが、それぞれ評価選別のルールを設け客観的で公正な選別ができるよう努力している。その本分に徹して、残すべきものは確実に残し、個人情報等真にやむを得ない情報以外は閲覧に供することで、過去の行政施策遂行状況の検証や今回の例のような被害者の救済の一助にもなるよう努めるべきと考える。</p><p></p>

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