著者
金 甫榮
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.4-29, 2020-06-30 (Released:2021-07-16)

本研究では、アーカイブズ資料のためのオープンソースソフトウェアであるAtoM(Access to Memory)を事例とし、アーカイブズ資料情報システムを構築・運営する際に考慮すべき点について考察する。すでにAtoM を利用して構築された複数のサイトを分析した結果では、利便性向上のために必要な点として専門用語やアクセスポイントの適切な活用など、いくつかの課題が明らかになった。また、AtoM を用いた組織アーカイブズ閲覧システムを構築し、2019 年に運用を開始した渋沢栄一記念財団の事例では、AtoM を活用する際に考慮すべき点を具体的に述べる。最後には、この二つの研究結果に基づき、アーカイブズ資料情報システムのあり方について考察する。
著者
安江 明夫
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.30-43, 2016-06-30 (Released:2020-02-01)

蘭書は江戸時代、西洋文明の受容において格別の役割を果たした。しかし明治維新以降、蘭書は英書等にとって替わられ、かつての蘭書蔵書は軽視されるようになった。浅草文庫所蔵蘭書もその1つである。日本最初の官立公共図書館である書籍館を引き継いだ浅草文庫は、9,000冊余の江戸幕府旧蔵蘭書を所蔵していた。浅草文庫停止により同文庫蔵書は博物館に継承されたが、内閣文庫設立(明治17年)に伴う政府機関所蔵図書の移管事務のなかで、浅草文庫旧蔵蘭書の殆どが行方不明となった。歴史的に重要な浅草文庫旧蔵蘭書の行方を、東京国立博物館(博物館の後継)及び国立公文書館(内閣文庫蔵書を所管)に現存の蘭書並びに明治期の記録・文書等の調査により、探索した。その経過と結果を報告する。
著者
崔 元奎 金 耿昊 李 相旭 金 慶南
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.118-138, 2015-06-30 (Released:2020-02-01)

本稿では、大韓帝国末期から日本によって植民地化された直後の時期にあたる19世紀から20世紀初頭に韓半島で実施された土地調査事業に着目する。これまで本事業の過程を示す資料としては、慶尚南道金海郡庁で1980年代に発見されたものと、筆者が2000年に慶尚南道馬山市庁において見つけ出した昌原郡土地調査事業資料の存在が明らかになっているのみで、資料の発掘が進んでいないのが現状である。そこで本稿では、土地調査に関する本格的な研究を行う前に、昌原郡土地調査事業に関する資料を分析する。なかでも、帳簿の変化と事業推進過程、調査事業前後における帳簿の共通点と相違点を分析することで、この時期における土地調査事業の性格の一端を明らかにしたい。
著者
青山 英幸
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.23-46, 2015-06-30 (Released:2020-02-01)

この覚書は、2013年1月から2014年7月までに、公文書管理法体系の一部改正――閣議議事録の作成など――が検討された経緯を跡づけ、旧情報公開法体系の「車の両輪」遺産を継承したこの法体系につぎの問題があると指摘した。a)この法体系の「行政文書」の範疇に含まれないドキュメント/レコードとして、1)ドキュメント/レコードの一部として機能している市販刊行物など、2)公文書管理法以外の法律にもとづく「法定ドキュメント/レコード」、3)非「共用文書」としての「メモ」ドキュメント/レコードがあること、b)特定秘密保護法により2)のドキュメント/レコードの領域が一層拡張されたこと、c)閣議議事録などの真正性が3)の「メモ」ドキュメント/レコードと位置づけられ会議構成員の確認行為の欠落により損なわれていること、それとともに、閣議議事録作成のあらたな「神話」が発生しつつあると示唆した。これら諸課題を解決する方途として、各府省庁ドキュメント/レコードは国民の財産であるという観点から、公文書管理法と情報公開法の見直し、「行政文書」と上記1)から3)を「パブリック・ドキュメント/レコード」“Public Docurments/ Records”へ統合し、これら国民の財産を適正にコントロールするArchives Records Management: ARM を強力に推進する機関の創出に言及した。
著者
平井 孝典
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.12-30, 2005-11-15 (Released:2020-02-01)

2001年に情報公開法が制定され、国立大学法人でも適正な文書管理が試みられてきているといわれる。しかし、多くの国立大学には非現用文書の受け入れ先がなく、歴史的あるいは学術的に重要な文書等が失われる可能性がある。歴史的に重要かどうか検討されることなく、保存期間の満了した文書が廃棄されているかもしれない。従って、公開できないとされる個人情報の含まれた歴史的に重要な文書が、永遠に見られないかもしれない。本稿では、卒業論文を例としてとりあげ、将来それが歴史的資料として見られるかどうかについて考える。最初に国立大学法人での卒業論文の実際の扱いについて見ておきたい。次に、情報公開法における個人情報について説明し、最後に法人文書に含まれる著作物について考える。
著者
古賀 崇
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.62-76, 2018-12-31 (Released:2020-02-01)

政府・自治体の情報公開とアカウンタビリティ(説明責任)との関係につき、日本の現状をもとに論じる。まず、この点に関する行政学での議論・位置づけ、特に「広義の情報公開」について、西尾勝の教科書での記述をもとに概観する。その上で、「情報のストックと長期的利用のための機関」としてのアーカイブズ(公文書館)・図書館などが、「広義の情報公開」にどのような役割を果たしうるか、また政府・自治体の情報の電子化・多様化に対してどのような課題があるか、といった点を記述する。最後に、自治体法務といった近年の行政活動の動向にも触れつつ、アカウンタビリティを「遡及的検証の実現」という観点で位置づけ直す必要性を論じる。
著者
尾崎 泰弘
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.60-82, 2008-11-10 (Released:2020-02-01)

写真を豊かに活用していくためには、文書などと同様コンテクスト情報が重要である。特にこれまで意識されていなかった撮影の目的・動機や、写真撮影技術が写真師にほぼ独占されていた時代においては、撮影依頼者にも注目していく必要がある。しかし、歴史的な価値が高く地域史料として収集されている台紙付写真においては、これらの情報は伝存の過程で失われていることが多い。そこでその撮影年代を復元するために、写真台紙を史料学的に分析し、その特徴と撮影年代との関係を明らかにした。今後、このデータをより精緻にしていくためには、史料保存機関で写真台紙のデータを共有化していくことが必要である。そのための共通の基盤として写真史料学が今求められている。
著者
川島 真
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.51-61, 2018-12-31 (Released:2020-02-01)

本稿は、公文書とアカウンタビリティについて、三つの論点を取り上げ、時間軸から考察した。第一に、公文書の作成・保存・公開というサイクルにおいて、特に作成段階での議論が十分でなく、作成者、つまり官僚の目線で議論しなければ、今後、合法的に公文書が多く残されないのではないかとの懸念を示した。第二に、外交文書には将来へのアカウンタビリティだけでなく、国家の構成員以外へのパブリック・ディプロマシーとしての要素があると指摘した。だからこそ、外交史料館には公文書館とは異なる機能があると言える。第三に、昨今東アジアでも採用されている移行期正義では公文書が事実認定上の重要な根拠とされるが、そこではかつての私文書が公文書とされるなど、文書の公私が時間軸で変化する可能性があることを示した。