著者
小木曽 航平
出版者
現代文化人類学会
雑誌
文化人類学研究 (ISSN:1346132X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.12-36, 2021

<p> 20世紀以降、マラソンのような長距離走は人間の持久力の限界を見極めようとする科学的実験の対象となり、人間にとっての走ることの意味にそれまでとは異なる地位を与えてきた。</p><p> 本稿の目的は、マラソンのような長距離走を通じて人間の身体がスポーツ科学や種々のテクノロジーと協働しながら、いかにして走るという運動形態を変容させてきたのかについて検討することである。なかでもナイキが2017年以来、世に送り出してきた「Nike Zoom Vaporfly 4%」や「Nike Air Zoom Alphafly Next%」などのレース用ランニングシューズと、やはりそのナイキが主催した「Breaking 2」及びその後に続いた「INEOS 1:59 Challenge」というフルマラソン2時間切りを目指した2つの世界記録更新プロジェクトに着目し、そこにおけるアスリートとスポーツ科学の異種協働関係に焦点を当てた。</p><p> 結果として、スポーツにおける運動形態は身体の適切な使用によって、アスリートの身体から自ずと生まれるわけではなく、むしろ、道具やスポーツ科学との相互作用の中で共-身体的に発生してくると考えることができた。こうした考察から、現在のスポーツがeスポーツやデジタルテクノロジーの介入によってその在り様を変容させているとしても、それが示唆することは身体観や人間観の変容ではなく、異種協働による共-身体化によって、私たちがこれまで見たことのなかった運動形態がそこに発生してきているからであると示唆された。したがって,現在のスポーツを理解する上で必要なのは、身体観や人間観の概念的更新というよりは、スポーツする身体が見せる運動形態の生成過程に、人間の身体とそれ以外のどんな他者が関係しているのかをつぶさに観察していくことであるといえる。スポーツする身体の人類学を試みるとき、本稿の主たる主張はここにある。</p>

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こんな論文どうですか? スポーツする身体の人類学:――運動形態論的視点からみた走ることの異種協働――(小木曽 航平),2021 https://t.co/CKszkk0W4S <p> 20世紀以降、マラソンのような長距離走は人間の持久力の限界を見極…

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