- 著者
-
平河 茉璃絵
- 出版者
- 公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
- 雑誌
- 年金研究
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.119-165, 2021
<p> 2020年度に実施した第5回調査に関する主な調査結果は以下のとおりである。まず、40~64歳層の全体および男女別の結果を説明し、次いで、第5回調査で新たに調査対象になった60~64歳層のみを抜きだして整理した主要結果(60歳前後で変わったこと)を述べる。</p><p>(1) 仕事について</p><p> 男女ともに現在の従業上の地位は正社員の割合が最も高い。また、男性は専門職が多い一方、女性は事務的な仕事が圧倒的に多い。男女ともに6割以上の人が定年制があると回答。そして、男女ともに約8割の人が今後も仕事を続けたいか、現在、無職でも仕事に就きたいと考えている。そのうち、少なくとも年金を受給できるようになるまでは働きたいと考えている人が大半を占める。さらに、今後も就業意向がある人の7割以上が65歳以降も働きたいと考えている。キャリアアップのために何もしていない人が6割以上を占める。キャリアアップのための取り組みをしている場合、研修・職業訓練は職場の制度を利用し、仕事に関連するスキル・資格の取得は職場の制度を利用しない傾向が強い。現在の働き方として非正規雇用を選択した理由は、男性では「希望した仕事ではないが生活のため」という回答が多い一方、女性では「自分のやりたかった仕事だから」「労働条件が自分の希望とある程度一致したから」と回答した人が多い。現在、仕事をしていない理由としては男女ともに「病気、けが、障害等のため」が最も多い。女性では「親などの介護で手が離せないから」という理由が男性に比べて多い。</p><p>(2) ご家族・家計について</p><p> 本人のみの独居が最多であり、全体の44%を占める。同居相手で多いのは「母親」。生計維持の中心者は男性では「本人」、女性では「父親」が多い。誰かと同居している場合、その理由は「子どもの頃から同居しているため」が最も多く、次いで「自分の生活費を節約したいため」「自分の所得だけでは生活が難しいため」が続く。世帯の収入源としては「自分の仕事の収入」のある人が最も多く、70%以上を占める。次いで「親の年金収入」が続く。本人に仕事からの収入がある場合、「200万円以上~300万円未満」の割合が最も高い。さらに、自由に使える収入が年間100万円未満の人は約50%、自由に使える収入がない人は21%、貯蓄や資産形成に回した金額についても約半数が「ない」と回答した。10万円以上15万円未満の世帯も多い。9割以上の人は住宅ローンや住宅ローン以外のローンの残高が0円。資産形成の手段としては、男女問わず「預貯金」を選択した人が多い。</p><p>(3) 住まいについて</p><p> 現在の住まいは「親の持ち家」「賃貸住宅」「自分の持ち家」の順。家賃月額は「4万円~6万円未満」がトップ。老後の住まいは「現在の住まいにそのまま住み続ける」が全体の47.5%、「1人で暮らすつもり」が全体の40.7%を占めた。</p><p>(4) 不安・満足度等</p><p> 健康状態は「まあ健康」が全体の44.2%であり、トップである。8割以上の人は日常生活に支障がない。経済的に援助してくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性60%、女性41%、家事や看護を手伝ってくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性61%、女性44%、悩みを聞いてくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性65%、女性39%であった。老後においては、男女格差が小さくなるものの、「特にいない」人の割合は男女ともに高くなり、男性の場合、いずれも8割前後となっていた。現在の生活の満足度は「収入」「資産・貯蓄」が特に低い。その一方、「家族」「友人」に関しては満足度が比較的高い。老後の生活については「老後の生活全般」「自分自身の健康のこと」について、特に不安を感じている。現在における異性との交際については「交際相手も異性の友人もいない」と回答した割合が全体の52.5%を占め、今後「結婚するつもりはない」という回答も全体の過半数を占める。過去に介護経験があるのは全体の約2割である。介護経験がある場合、「母親」の介護が最も多く、次いで「父親」となっている。回答者の1割強は「仕事をやめて自分で介護」と回答した。親の介護が必要になった場合の主な対処方法としては、「ホームヘルプサービス、訪問看護などの在宅介護を利用」が全体の約20%を占め、次いで「会社の介護休業制度などを利用し自分で介護」となっていた。「仕事をやめて自分で介護」という回答は全体で13.7%であり、男女差はほとんどなかった。</p><p>(5) 老後の生活について</p><p> 老後の生活設計を「まだ考えていない」人が全体の3分の2近くを占めている。老後の生活設計を考えていない主な理由は「収入が少なく、今の生活で精一杯のため」にある。老後の収入源としては「公的年金」「仕事による収入」「預貯金」の3つを考えている人が多い。将来受け取ることができる公的年金の見込み額は、月額15万円未満としている人が全体の30%前後を占めている。公的年金の希望受給開始年齢は男女とも「65歳」が最も多い。66歳以降で公的年金を受給したい場合、その主な理由は「65歳以降も働くから」である。自分自身の介護が必要になった場合の対処についての回答は「自宅でホームヘルプサービス、訪問介護などの在宅介護・デイサービスを利用する」が男女とも約40%を占めていた。</p><p>(6) 独身生活のメリット・デメリットおよび新型コロナの影響</p><p> 独身生活を続けてきて感じたことについては、全体の40.2%が「自由に使える時間が多い」と答える一方、全体の39.9%は「老後のことを考えると不安」と回答した。さらに、結婚しなくてよかったという回答は男女とも20%強となっていた。</p><p> 新型コロナウイルスの流行による生活への影響については、全体の23.4%が「自分の仕事や収入が減少した」と回答。連日の報道や外出制限によって気鬱になった人は全体の31%であった。</p><p>(7) 60歳前後で変わったこと</p><p> 60歳を境にして60歳未満の人と変わる主な点は次のとおりである。まず第1に、仕事に就いていない人の割合が高くなり、男女とも40%強になっている。第2に、仕事に就いている場合、30人未満の事業所に勤務している人の割合が男女とも一段と上昇し、零細企業へのシフトが生じている。第3に、現在の仕事に30年以上にわたって就いている人の割合が男女とも20%程度となっており、長期勤続者のウェートもそれなりに高い。第4に、週4日以下の勤務日数者の割合や、1日8時間未満で働いている人の割合が上昇している。第5に、男性の場合、半数近くの人が今後は引退したい、あるいは無職のままで将来も仕事に就くつもりはない、と回答している。一方、女性の45%弱は現在の仕事を続けていきたい、としている。第6に、現在、仕事に就いていない主な理由が男女とも「自分が仕事に就かなくても、生活できるから」に変わる。第7に、女性の場合、生計維持の中心者が父親から本人に変わった人が多い。第8に、自分の年金収入がある人が男女とも増える一方、親の年金収入を失う人も少なくない。第9に、本人に仕事からの収入があっても、それが年間300万円未満の低所得者の割合が上昇している。第10に、保有している金融資産額2000万円以上の人は男女とも34%であった。多数派(40%弱)は500万円未満であった。第11に、60歳未満の人の方が遅めの公的年金受給開始(66歳以降)を希望する割合が高かった。</p>