著者
高山 憲之
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.3-31, 2015-12-18 (Released:2017-04-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

世代間問題研究プロジェクトが2011 年に実施した「くらしと仕事に関するインターネット調査」を利用して第3号被保険者の実態を調べた結果、次のような新たな知見が得られた。すなわち (1)女性の場合、年金加入期間の年金被保険者カテゴリー別構成をみると、若い世代では総じて第2号期間が最も長い。この第2号期間の相対比率は年配の世代ほど低い。 (2)年金加入期間のすべてが第3号ないし第1号であり、第2号期間がゼロであるという女性のサンプル割合は総じて5%程度であり、きわめて少ない。 (3)女性の場合、第3号被保険者割合は25 歳以降40 歳前後まで加齢に伴って上昇していき、その後、少しずつ低下する(加齢効果)。さらに同一年齢でみた第3号被保険者割合は総じて若い世代ほど低い(世代効果)。 (4)女性の場合、20 歳台前半時には第2号被保険者が最も多い。ただ、世代が若くなるにつれて20 歳台前半時の第2号被保険者割合は低くなってきている。25 歳以降40 歳直前まで第2号被保険者割合は加齢に伴い総じて徐々に低下していく。 (5)結婚または出産直後からしばらくの間は第3号となる女性が依然として少なくないものの、34 歳以前においては第2号が女性の多数派を占めている。女性のライフコースは多様化しており、第3号期間は全体として若い世代ほど短くなっている。 (6)男性の第3号被保険者は1999 年度からの16 年間に4 万人から11 万人強に増加した。その人数が最も多いのは50~59 歳層である。 (7)男性第3号は本人が倒産等で失職、あるいは健康を害して離職、その後も離転職を繰り返し、現在、パートやフリーランス・嘱託等で就業中または失業者として求職中 の人が多い。病気等で無職の人もいる。その世帯年収は全体として必ずしも高くない。 (8)税制上、103 万円の壁は今や存在しない。ただし、配偶者手当(配偶者控除ではない)の支給基準が実質的に103 万円の壁を形成している。さらに、通勤手当を考慮すると130 万円の壁も実在している可能性が高い。 (9)非正規で働く女性第3号は週20 時間勤務の人が突出して多い。 (10) 夫の年収が高いほど、妻の第3号被保険者割合も総じて高い(夫の年収600万円まで)。 (11)夫の年収は共働き世帯よりも専業主婦世帯の方が全体として多い。他方、世帯ベースの年収に関するかぎり、専業主婦世帯が共働き世帯よりも裕福であるとは必ずしも言えない。専業主婦世帯の中には世帯年収の低い世帯も、それなりに多く存在する。 (12)夫の年収が900万円以上になると、そのすべてを正確に把握していない妻が少なくない。
著者
大風 薫
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.54-83, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
16

すべての年代において生きがいが生き方を見直す重要な視点になっている。このことを踏まえ、本稿では、35歳から64歳の現役世代男女がどの程度、どのような生きがいを持っているのか、生きがいと階層・ライフイベント・資産形成の関わり、そして、生きがいとメンタルヘルスの関係について検討した。得られた結果は以下の通りである。 1)現役世代は65歳以上の高年世代に比べて生きがいを持たない割合が高く、生きがいの対象数も少ない。生きがいの主な対象は、男性では「仕事」、女性では「家族・家庭」「ひとり気まま」である。 2)生きがいの保有や生きがいの対象には階層による格差がある。高学歴や高収入層は「仕事」や「家族」が生きがいの対象だが、階層が低い場合は、「友人」や「SNSによる交流」、「ひとりで気ままに過ごすこと」を生きがいとしている。 3)自発的でない理由による退職経験は生きがいを損なう一方、自己の成長やキャリアアップにつながる自発的な理由による退職経験は生きがいをもたらす。 4)男性は、家族や自己の成長になるライフイベントを経験している場合、生きがいを持ちやすい。他方、女性は、自分の生活を大きく調整せざるを得ないイベントを経験している場合、生きがいを持ちにくくなる。 5)預貯金・保険商品・NISAによる資産形成は生きがいを高めることと関連しており、資産形成行動はメンタルヘルスの良好さと関係している。 本稿では、人生の充実期とみなされ、生きがい研究やライフコース研究において従来あまり注目されてこなかった中年を含む現役世代に注目し、生きがいの規定要因や生きがいとメンタルヘルスとの関係を明らかにしてきた。現在の現役世代の場合、高年世代になっても現在の高年世代ほどの生きがいを得ることは難しいおそれがあるものの、資産形成行動が生きがいやメンタルヘルスの向上につながる可能性はある。生きがいとの関わりの中で資産形成を位置づける適切なコミュニケーションが求められる。
著者
川村 憲章
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.14-16, 2016-09-09 (Released:2017-04-06)

金融広報中央委員会(事務局は日本銀行情報サービス局)は、わが国初の大規模調査として、「金融リテラシー調査」を実施した。「ミニ・ジャパン」とも言える、国の人口構成とほぼ同一の25,000 人の調査データに基づき、金融知識等の分野別・階層別分析、海外比較、行動経済学的分析など、多様な分析を行えるように設計している。本稿では、①高齢者の特性と、②長い老後への備えにフォーカスして説明する。なお、本稿における意見はすべて執筆者の個人的な見解である。
著者
平河 茉璃絵
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.29-53, 2020-01-28 (Released:2020-01-29)
参考文献数
16

本研究では、2009年に改正され2010年に施行された改正育児・介護休業法が、第一子出産後の母親の就業確率にどのような影響を与えたか分析した。分析の結果、①出産1年前に民間企業の正社員として働いていた女性のうち、2010年以降に出産した母親において出産1年後の就業確率が上昇していること、②「子どもが小さいうちは、特に3歳までは母親が子どものそばにいて、育児をすることが子どもにとって一番望ましい」という価値観をコントロールしても、2010年以降に出産した女性の出産1年後の就業確率が上昇していること、の2点がわかった。さらに、出産1年前に勤めていた企業の従業員規模別(100人以上、100人未満)に分析した結果、出産1年前に100人以上企業に勤めていた女性において、2010年以降に第一子を出産した女性で就業確率が大きく上昇したことを示した。2009年の育児・介護休業法の改正では、父母ともに育児休業を取得した場合に育児取得可能期間が1歳から1歳2か月まで延長できる「パパママ育休プラス」が制定され、短時間勤務制度・所定外労働の制限が義務化された。2010年以降に第一子が生まれた父親の育児休業取得率は非常に低い。よって、2010年以降における女性就業率上昇の要因の1つとして、短時間勤務制度や所定外労働の制限の義務化による子どもをもつ女性の働きやすさの向上が考えられる。
著者
丸山 桂
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.2-16, 2021-03-19 (Released:2021-03-19)
参考文献数
14

近年、老後の所得保障の自助努力として、私的年金制度、なかでも個人型確定拠出年金制度(iDeCo)が注目を集めている。しかし、その加入者に関する実証研究は、研究途上にある。本研究は、中年未婚者の個票データを用いて、iDeCo加入に関する実証分析と老後の低年金リスクが高い国民年金の保険料免除制度利用者との生活状況の比較を行った。主な分析結果は以下のとおりである。① 国民年金の保険料納付免除者は、仕事についていない者や非正規労働者の割合が高い。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、家計に深刻な影響があった者の割合は、国民年金保険料全額納付者や厚生年金加入者よりも、国民年金保険料滞納者、免除者に相対的に高かった。② iDeCoの加入状況を国民年金加入者と厚生年金加入者で比較すると、本来老後の年金額の上乗せ措置として加入が期待される国民年金加入者よりも厚生年金加入者に利用されている。iDeCo加入者は非加入者に比べ、収入や資産面でも余裕があり、NISA/つみたてNISAや個人年金制度も併用して、税制上の優遇措置を利用しながら、効率的に日常生活と老後の備えを行っている。③ 公的年金制度の繰り上げ制度/繰り下げ制度による給付額の減額・増額率を説明した上で希望する公的年金の支給開始年齢を尋ねた場合、国民年金の保険料免除者や滞納者は繰り上げ受給を望む者が相対的に多く、厚生年金加入者やiDeCo加入者には繰り下げ受給を選ぶ者が多い傾向が見られた。これは、現役時代にねんきん定期便で示される金額以上に、将来の高齢期の年金格差が拡大する可能性を示唆している。④ iDeCo加入について二項ロジスティック分析を行った結果、厚生年金加入者、金融資産額が高い者ほどiDeCoに加入する傾向にあり、個人年金やNISA/つみたてNISAを併用していることも明らかとなった。 今後とも、国民年金第1号被保険者に占める免除適用者数の増加が続き、経済的余裕のある者だけがiDeCoに加入し、税制上の優遇措置を二重三重に受け取る状況は老後の経済格差の拡大や所得再分配上の点から問題がある。公的年金の再分配機能とともに、本来加入すべき低年金者にいかにiDeCoの加入を促すか、金融リテラシーの形成支援も含めた検討を急がねばならない。
著者
横山 由紀子
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-29, 2018

<p>本稿では、厚生年金からの退出行動の要因およびその変遷について、5年前の状況と比較することで分析を行った。「ねんきん定期便」を利用した長期的な回顧データを利用し、1994~2011年における若年女性を対象とした。本稿で得られた主な知見は以下の通りである。</p><p>第1に、第1子出産により厚生年金から退出する女性が総じて多いものの、近年では継続加入する女性が増加傾向にある。過去5年以内に第1子を出産した女性が継続加入している割合は2004年以前は2割に満たなかったが、その後徐々に上昇し、さらに2009年以降のやや大きな上昇の結果、2011年では約3割が厚生年金に継続加入している。</p><p>第2に、1994~2011年の分析期間において、2000~2006年頃とそれ以外の期間では、厚生年金への継続加入あるいは退出行動の要因が大きく異なる。2000~2006年頃を除く期間において、5年以内に第1子を出産した女性においては収入水準が厚生年金への継続加入の要因となっている傾向がある。また、結婚している女性においては、夫が大卒者の場合には厚生年金から退出しやすい傾向がみられた。逆に、2000~2006年頃にはこうした効果はみられず、むしろ1960年代後半に生まれた世代であるかどうかが大きな要因となっており、こうした世代は他の世代に比べて厚生年金から退出しやすい傾向が確認できた。</p><p>第3に、1990年代後半では高所得者ほど第1子出産後も厚生年金に加入し続けていたが、2000年以降ではほとんどの高所得者が第1子出産後に厚生年金から退出している。一方、2000年代後半では、もともと一定程度の収入があった女性が第1子出産後も厚生年金に加入するような働き方を選択している。</p><p>第4に、新規結婚者の第1子出産率は1996年以降安定的であるが、既婚継続者では出産率に変動がみられた。子どもがいない既婚継続者の第1子出産率は1997年から2003年頃は低下しており、また、すでに子どもがいる既婚継続者では第2子以降の出産率が2002年以降上昇傾向にある。既婚継続者における出産行動が景気の影響を受けた可能性が示唆される。</p><p>第5に、2003年頃までは、すでに子どもがいる厚生年金加入者はその後も継続加入する傾向があったが、2004年以降は厚生年金から退出するケースが増加した。第2子以降を出産する女性の増加およびこうした女性が厚生年金から退出しやすい傾向にあったことが原因だといえる。</p>
著者
長野 誠治
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.3, pp.130-188, 2016

<p>(1) 仕事について</p><p> 男性の場合、50代後半で正社員の割合が激減する一方、無職や自営の割合が増加する。女性の場合、年齢階層が上がるにつれて非正規の割合が低下するものの、男性に比べると非正規の割合が高い。また、男性は専門職が多い一方、女性は事務的な仕事が圧倒的に多い。現在の仕事の継続期間は男女平均で12年4ヵ月。仕事の悩みのトップは「収入が少ない」であり、回答者の半数がそのように回答している。さらに、6割以上が定年制はあると回答。そして、「定年よりも前に適当な仕事があれば転職したい」という回答が男女全体では1 番多い。退職意向年齢は男女平均で63.7歳、男性の方が女性よりも2歳以上遅い。これまでの職歴では「最初の仕事と現在は異なる」が1番多く、過半数を占める。離職経験のある人の初職は男女ともに「正社員」が75%と1番多い。 ただし、初職が非正規だった人は男女ともに現在40代前半層が比較的多い。初職が非正規であった人で現在も非正規である人の割合が、現在は正社員である人の割合を大きく上回る。転職の回数は平均4回。現在、仕事についていない理由は「希望する仕事がない」が1番多い。女性では「親等の介護で手が離せない」が男性に比べて多い。</p><p>(2) 家族・家計について</p><p> 世帯人数は本人のみの独居が1番多く40%を占める。同居相手は「母親」がトップ。 生計維持の中心者は「本人」「父親」の順。女性のみに限定すると、生計維持の中心者は「父親」が第1位。世帯全体の年間収入額は「200万円以上300万円未満」が1番多い。世帯の収入源は「自分の仕事の収入」がトップで8割弱、次いで「親の年金収入」が40%強。本人の仕事の収入は平均275万円。女性の方が男性よりも60万円程度低い。 「厚生年金に加入」が40%、「国民年金保険料を全額払っている」が14.4%。社会保険の加入状況は「国民健康保険」が55.5%でトップ、次いで「健康保険・共済組合(本人)」が40.8%。1ヵ月の生活費は「10万円未満」が25.8%でトップ。住宅ローンの保有割合は7%であり、平均残高は1,400万円。住宅ローン以外のローンは男性の方が女性よりも保有割合が高い。老後のための資産形成手段は「預貯金」が66.5%でトップ、一方で老後の資産形成を「何もしていない」が全体で24.5%を占め、女性、特に非正規女性の場合、その割合が高い。</p><p>(3) 住まいについて</p><p> 現在の住まいは「親の持ち家」「賃貸住宅」「自分の持ち家」の順。家賃は月額平均5万2,000円。持ち家の築年数の平均は30年。老後の住まいと同居意向は、「現在の家に住み続ける」が6割、「1人で暮らす」が46%であり、それぞれ第1位。</p><p>(4) 今の生活について</p><p> 健康状態は「まあ健康」が43%、充実した気持ちを感じる時は「趣味やスポーツに熱中している時」が26%で、それぞれトップ。病気の時の看護や家事・介護、あるいは経済的援助に関して頼りにできる人は現在「特にいない」が、ほぼ過半数を占める。老後においては、その割合がさらに高まる。生活の満足度は、仕事の内容、職場の人間関係、趣味やスポーツ活動、家族、友人等に関しては「まあ満足」がトップ。一方で、収入や資産・貯蓄といった経済面については「やや不満」が第1位。今の生活については、生活全般、自分の健康、生活費、面倒をみてくれる人がいないこと、雇用の不安定さ、のいずれも「少し不安に感じる」がトップ。老後についても多くの項目で「少し不安に感じる」が第1位。ただし、住宅、趣味や友人との交際などでは「あまり不安でない」がトップ。結婚の意向については、「結婚するつもりはない」が50%でトップだが、僅差で「適当な人がいたら結婚したい」。過去または現在の介護経験では17%が「ある」と回答し、その対象は「母親」が最も多く、「同居家族が介護した(している)」という回答が比較的多い。将来、家族が介護状態になった場合は「在宅介護を利用」が20%であり、第1位。</p><p>(5) 老後の生活について</p><p> 老後の生活設計を考え始める時期は「まだ考えていない」が62%でトップ。老後に最低限の生活を営むために必要な1ヵ月の生活費は「10万円以上15万円未満」が33%、ゆとりある生活を営むのに必要な生活費は「20万円以上25万円未満」が27%であり、それぞれトップ。老後における収入源の2本柱は「公的年金」と「仕事による収入」。将来の公的年金の受取見込み額(月額)は平均9万5,000円。将来、自分が介護状態になった時の対処方法は「在宅介護」が34%でトップ。</p>
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-37, 2017

<p>1) 本稿では、個人住民税において配偶者控除を見直す場合の増減税効果、および所得税と個人住民税の双方において配偶者控除を同時に見直す場合の増減税効果、の2つを推計した。本稿は所得税のみの見直しを考察した高山・白石(2016)の続編である。</p><p>2) 利用したデータは『国民生活基礎調査』(2013年実施)であり、2012年分の所得データを使用した。個人住民税は2013年の制度を前提とした。ただし、その均等割部分は等閑視した。制度見直しに当たって、全体として増減税同額(税収中立)になるように配慮した。</p><p>3) 高山・白石(2016)では、専業主婦を「収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻」と定義していた。本稿では、その定義を最狭義に変更し、夫が被用者であり、かつ「収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻」に限定した。ただし、参考計数として高山・白石(2016)と同じ定義をした専業主婦の場合についても推計結果を掲載している。</p><p>4) 個人住民税を単独で見直す場合の主要な推計結果は次のとおりである。</p><p> ① 配偶者控除(配偶者特別控除を含む。以下、同様)を廃止すると、年間6600億円の税収増となる。全体として61%の世帯で税負担の増減はない。税負担が増えるのは39%の世帯であり、妻が専業主婦の世帯ないし非正規で就業している共働き世帯がその中核を占めている。税負担増は平均で年間3万2000円であり、世帯年収が高くなっても、この金額はほとんど変わらない。</p><p> ② 33万円の配偶者控除を廃止し、同額の夫婦控除(所得控除方式:世帯年収600万円までの所得制限つき)を導入すると、全体として15%の世帯が負担増、12%の世帯が負担減となる。負担増が負担減を世帯数で上回っており、所得税の見直し結果とは逆である。負担増が相対的に多いのは、世帯年収600万円以上の専業主婦世帯、および妻が非正規で就業している世帯年収700万円以上の世帯である一方、妻が正規で就業している共働き世帯では負担減組が多数派となる。</p><p> ③ 配偶者控除を廃止し、3万3000円の夫婦税額控除(世帯年収600万円までの所得制限つき)に移行しても、その効果は上記②で述べた所得控除方式の夫婦控除を導入したときと、全く変わらない。個人住民税が10%の比例税だからである。</p><p> ④ 個人住民税が累進税率を採用していれば、夫婦税額控除への移行で負担減組の方を負担増組よりも多くすることができる。</p><p> ⑤ 2017年度税制改正法は所得税と同様、パート主婦特権を中間所得層に限って拡大・強化する性格を有している。</p><p>5) 所得税と個人住民税を同時に見直す場合の主要な推計結果は以下のとおりである。</p><p> ① 所得控除方式の夫婦控除(所得税38万円、個人住民税33万円)に世帯年収制限(所得税800万円、個人住民税600万円)つきで移行する場合、税負担減となる世帯は15%、税負担増世帯14%となり、前者の方が後者より若干ながら多い。さらに、世帯年収400万円以上700万円未満の中間所得層では減税組が増税組を世帯数で圧倒する一方、年収700万円以上では逆に増税組の方が多くなる。また専業主婦世帯では増税組が減税組よりも多い一方、妻が正規または非正規で就業している世帯では総じて減税組の方が増税組よりも多い。</p><p> ② 夫婦税額控除(所得税3万8000円、個人住民税3万3000円)に世帯年収制限(所得税670万円、個人住民税600万円)つきで移行する場合においても、減税組(30%)が増税組(12%)を世帯数で圧倒する。この点は妻の働き方が違っても、質的に変わりがない。また、世帯年収100万円以上700万円未満の中低所得層では減税組の方が増税組より多い。所得税のみを見直す場合と同様に、所得税・個人住民税の双方を同時に見直す場合においても、「負担増=多数派」説「中間所得層=負担増」説は、いずれも事実に反していることが確認された。</p>
著者
坂本 純一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1, 2021-01-21 (Released:2021-01-23)
参考文献数
27
被引用文献数
1

カナダの公的年金制度は大きく2 つの部分から成り立っている。ひとつは1952 年に導入された老齢保障制度 (OAS) と呼ばれる非拠出制の定額年金である。もうひとつは被用者や年収が一定以上ある自営業者などに適用される報酬比例年金で、ケベック以外の事業所に適用されるカナダペンションプラン (CPP) とケベックの事業所に適用されるケベックペンションプラン (QPP) がある。これらは1966 年 に導入された。OAS にはCPP/QPP が導入された際に、所得保障補足年金 (GIS) が付加された。CPP とQPP は完全に通算可能で、制度改正については連携することが確認されている。 わが国の公的年金制度は、まず報酬比例年金が創設され、それから国民皆年金になったが、カナダの場合は国民皆年金が最初で、そのあと報酬比例年金が導入された。そして、その際、報酬比例年金給付が無い者、もしくは低い者にはGIS が支給されることとなり、このことによってカナダの高齢者の貧困率は低い。 1980 年代からカナダの経済は不振に陥り、市場原理主義的なマネタリストの影響のもとに、一時、 社会保障制度は拡大路線から縮小路線に切り替わり、所得の高い年金受給者のOAS 年金を削減する措置 (clawback) が出てきたが、2007-8 年のリーマンショックによりマネタリストの影響が薄らぐと、この金融経済危機による高齢者の引退後の所得の落ち込みを防ぐために2016 年にCPP/QPP の給付水準の改善を行った。 本稿では、OAS が創設されるまでのいきさつや、CPP/QPP 導入の経緯、ベビーブーマーの引退とともに人口高齢化の見通しが厳しくなるなかで導入されたCPP/QPP の1998 年の財政規律、2016 年の CPP/QPP の給付改善に触れながら、カナダの公的年金制度の歴史を概観する。
著者
神原 理
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.3-26, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
5

本稿では、サラリーマンのワークライフバランスに焦点をあて、その影響要因(因果関係)と構造、及び、そこから導き出される課題を明らかにした。因子分析の結果、ワークライフバランスに影響を及ぼす主要因は、「就労環境」や「積極的な生活姿勢」であり、特に「仕事への満足度」が重要な存在であることが明らかになった。クラスター分析からは、「Clu01.低バランス層(30-40 代、未婚率が高く、世帯収入と金融資産が少ない)」「Clu02. 中バランス層(Clu01.とClu03.の中間値にある層)」「Clu03.高バランス層(50-70 代、既婚率が高く、世帯収入と金融資産が多い)」という3 層構造の存在が浮き彫りとなった。 サラリーマンの間で「ワークライフバランスの階層化」が生じている。
著者
谷内 陽一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.137-173, 2022-02-25 (Released:2022-02-25)
参考文献数
47

英国では、年金ダッシュボード(pensions dashboard)という自身の公的年金および私的年金の状況を一元的に把握できるオンライン・プラットフォームの開発に官民挙げて取り組んでいる。英国では、Automatic EnrolmentおよびPension Freedomという私的年金に関する2つの大きな改正が行われた結果、老後のための資金準備および生活設計における個人の意思決定の重要性が高まっている。年金ダッシュボードは、年金および老後生活への意識と理解を高め、老後資金準備のための資産形成・運用ならびに引退後の生活設計(リタイアメント・プランニング)における個人の意思決定を支援することを目的としている。 年金ダッシュボードがもたらす利便性は万人が認めるところだが、その実現のためには、カバレッジ(適用する年金制度の範囲)、データ規格、セキュリティ・個人情報保護、開発主体・ガバナンス、開発・運営コストの負担などの課題を乗り越える必要がある。また、年金ダッシュボードによる老後所得の「見える化」を推進するためには、年金だけでなくあらゆる老後の収入・支出をカバーすること、拡張性・任意性の確保、老後資金準備を促すための機能の搭載、DX(Digital Transformation)あるいはICT (Information and Communication Technology)への対応、既存の年金情報提供ツールとの連携等に配慮した施策が求められる。 併せて、現在開発中の年金ダッシュボード・アプリケーションを用いて、老後生活設計で現在注目されている①資産の取崩し(デキュムレーション)および②WPPモデルという2つの手法の効果について可視化を試みた。特にWPPモデルでは、公的年金を増額するために手元資金をあえて取り崩すという合理的判断が求められるが、その有効性が可視化されることで今後更なる普及・活用が期待される。
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.38-100, 2017

<p>本稿では、給与所得者として20年以上、勤務した実績を有し、2012年度末の年齢が56~69歳の男性1253人を対象として、年金と高齢者就業の関係を分析している。主な使用データは世代間問題研究プロジェクトが2012年に実施したパネルデータ「くらしと仕事に関する中高年インターネット特別調査」である。分析によって得られた主要な知見は以下のとおりである。</p><p>(1)2012年度における法定の年金受給開始年齢は男性の場合、定額部分が64歳、報酬比例部分が60歳であった。本稿で分析の対象とした男性にとっては報酬比例部分だけで月額10万円前後(平均値)の年金を受給することができたので、定額部分64歳受給開始にもかかわらず、60歳から年金を受給しはじめた人が多かった。ただ、60歳時点では失業給付(求職者給付)を、まず受給し、その受給期間が満了した後から年金を受給しはじめた人も少なくなかった。</p><p>(2)2012年12月時点における年金受給率は60~64歳層で64%、65~69歳層では89%であり、総じて高齢になるほど年金受給率は高くなっていた。</p><p>(3)60歳以降、減額なしで老齢年金を受給する人が圧倒的に多かった。2012年12月時点で60~64歳層の場合、在職により老齢年金が減額されていた人は9%、全額支給停止となっていた人は12%にすぎない。65歳以上では、在職者が減る一方、在職による減額がはじまる屈折点も28万円超が65歳から比較的高めの47万円超に変わるので、減額つきの在職老齢年金受給者や全額支給停止者はきわめて少なくなっていた。</p><p>(4)2012年12月時点で56~59歳だった人については正社員または役員の割合が50%超となっていたが、60歳だった人の正社員割合は24%、さらに61~64歳層では11%、65~69歳層では、わずか2%であった。一方、60~64歳層の非正規就業者割合は約4分の1、無職者42%となっていた。なお、60歳であった人の失業者割合は22%となっており、この年齢層だけ失業者割合が異常に高かった。</p><p>(5)2012年4月時点における厚生年金保険加入率は60歳で50%割れとなっていた。さらに、61~64歳では24%弱、65歳11%弱、66~69歳4%弱と、その加入率は高齢になるほど低くなっていた。</p><p>(6)同時点で厚生年金保険に加入していた人の総報酬月額は56~60歳層で平均50万円前後であったが、61~65歳層30万円台、さらに66~69歳層20万円台であった。ただし、60~64歳で厚生年金保険に加入していた在職者の80%前後が「総報酬月額+年金受給月額」の合計額を28万円以下に調整し、減額なしで年金を受給していた。</p><p>(7)次に、コーホート別の加齢効果を調べたところ、まず、56~59歳時点の正社員割合は、かつて80%であった(または80%に近かった)が、1948年度生まれの世代から低下しはじめ、1952年度生まれ(2012年度には60歳)になると60%強になっていた。60歳を超えるとともに、いずれの世代でも正社員割合は30%前後あるいは、それ以下へ急減しており、被用者だけに限定すると、正規の人より非正規の人の方が総じて多かった。そして、64~65歳時点では無職者が過半数を占めるようになっていた。</p><p>(8)総報酬月額の中央値は、いずれの世代においても59歳時点で50万円以上となっていたが、61歳時点では30万円台または、それ以下に低下していた。ただ、その分布のばらつきは比較的大きく、61歳以降においても月額47万円超の人が30%以上いた(ゼロデータは除いている)。</p><p>(9)いずれの世代においても年金受給率は加齢とともに上昇しており、総じて62歳時点で50%を超え、65歳時点で80%超となっていた。とくに、1949~1951年度生まれについては定額部分に係る法定の受給開始年齢が65歳になっていたにもかかわらず、60歳受給開始者が40%台を占め、さらに61歳時点の年金受給率は60%台に上昇していた。これらの年金受給率は、1948年度生まれ以前の世代のそれより10%程度あるいは、それ以上高かった。</p><p>(10)年金受給者に着目すると、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳に据えおかれていたときに関するかぎり、定額部分に係る法定の受給開始年齢が段階的に65歳へ引き上げられても60歳から年金を受給しはじめた人が最も多かった。ちなみに、定額部分の法定受給開始年齢引き上げにぴったり合わせて実際に年金を受給しはじめた人は受給者の4分の1あるいは、それ以下にとどまっていた。</p><p>(11)他方、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳から61歳に引き上げられたとき、該当する厚生年金加入歴20年以上の男性は、その過半が60歳時にも厚生年金に加入していた。そして60歳から老齢年金を受給しはじめる人の割合は激減した。報酬比例部分の受給開始年齢引き上げは多大な雇用促進効果と年金受給開始先送り効果の2つをもっていたことになり、定額部分の受給開始年齢を引き上げたときとは明らかに違っていた。</p><p>(12)60歳時点に関するかぎり、在職によって年金給付が減額される、または全額支給停止となる人が、かつては多かった。ちなみに1948年度以前に生まれた世代の場合、その割合は60%台であった(全額支給停止者を含む)。しかし、1949年度以降に生まれた世代の場合、その割合は50%前後あるいは、それ以下になっていた。その割合は61歳以降、加齢にともなって急激に低下し、65歳時点では10%未満までダウンしていた。</p><p>(13)2012年12月時点で年金を受給していた60~69歳の男性について受給開始前後の就業状況等を調べた結果によると、まず、受給開始1年前の時点では正社員ないし役員が48%、非正規就業20%、失業中8%、無職者17%等であったが、受給開始直後には正社員ないし役員が17%となり、30%近いダウンとなる一方、無職者が36%、失業中15%、非正規就業25%へと、それぞれアップしていた。さらに受給開始2年後になると、正社員ないし役員は10%まで減る一方、無職者割合は48%へ上昇していた。受給開始直前に正社員ないし役員であった人に限定すると、受給開始直後も正社員ないし役員にとどまった人は3分の1にすぎず、無職者27%、失業者17%(無職者と合わせると40%超)、非正規就業21%へと就業状況が大きく変わっていた。</p><p>(14)就業状況が変わると週あたり労働時間も変わる。年金受給開始1年前には労働時間40時間以上の人が52%を占めていたが、年金受給開始直後には27%へと、ほぼ半減していた一方、労働時間ゼロが52%となった。年金受給開始とともに労働時間を減らしたり、勤務を辞めてしまったりした人が、それなりに多く、就労を抑制したり、早期引退を促進したりする効果が年金受給にあることが、パネルデータによって計量的に確認された。</p><p>(15)年金受給開始1年前の総報酬月額および「その他の月収」(報酬や週30時間未満の勤務から得られた賃金等)と、年金受給開始1年後の「年金+総報酬月額+その他月収」の合計額を比較すると、年金受給開始後、大幅に収入を減らした人が圧倒的に多かった。ちなみに、後者の前者に対する割合は20%未満の減が6%、20%以上40%未満の減8%、40%以上60%未満の減18%、60%以上80%未満の減25%、80%以上の減19%となっていた。</p><p>(16)実際に年金受給を開始した年齢が60~64歳であり、かつ年金受給開始直後においても総報酬を手にしていた人に限定すると、受給開始1年前の総報酬月額は15万円未満の人が13%、30万円未満40%であったが、受給開始直後になると、総報酬月額15万円未満の人は40%となっていた。そして、受給開始直後における「総報酬月額+年金給付(基本月額)」の合計額は20万円未満が21%、20万円以上28万円以下が31%、28万円超40万円未満29%、40万円以上10%となり、20万円以上28万円以下のところに、それなりの塊りがあった。総報酬月額と年金給付月額の合計額を28万円以下に制御し、年金を減額なしで受給するために総報酬月額を下方に調整した人が30%弱に及んでいた。</p><p>(17)生存時間解析をした結果によると、総じて、老後資金に余裕があったり、就業継続によって稼得が期待される賃金が従前賃金の60%未満であったりすると、早めに就労を停止し、年金を受給し始める傾向がある。さらに、無配偶者の方が有配偶者より就労を早期に停止する確率が高い。</p>
著者
平河 茉璃絵
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.15, pp.119-165, 2021

<p> 2020年度に実施した第5回調査に関する主な調査結果は以下のとおりである。まず、40~64歳層の全体および男女別の結果を説明し、次いで、第5回調査で新たに調査対象になった60~64歳層のみを抜きだして整理した主要結果(60歳前後で変わったこと)を述べる。</p><p>(1) 仕事について</p><p> 男女ともに現在の従業上の地位は正社員の割合が最も高い。また、男性は専門職が多い一方、女性は事務的な仕事が圧倒的に多い。男女ともに6割以上の人が定年制があると回答。そして、男女ともに約8割の人が今後も仕事を続けたいか、現在、無職でも仕事に就きたいと考えている。そのうち、少なくとも年金を受給できるようになるまでは働きたいと考えている人が大半を占める。さらに、今後も就業意向がある人の7割以上が65歳以降も働きたいと考えている。キャリアアップのために何もしていない人が6割以上を占める。キャリアアップのための取り組みをしている場合、研修・職業訓練は職場の制度を利用し、仕事に関連するスキル・資格の取得は職場の制度を利用しない傾向が強い。現在の働き方として非正規雇用を選択した理由は、男性では「希望した仕事ではないが生活のため」という回答が多い一方、女性では「自分のやりたかった仕事だから」「労働条件が自分の希望とある程度一致したから」と回答した人が多い。現在、仕事をしていない理由としては男女ともに「病気、けが、障害等のため」が最も多い。女性では「親などの介護で手が離せないから」という理由が男性に比べて多い。</p><p>(2) ご家族・家計について</p><p> 本人のみの独居が最多であり、全体の44%を占める。同居相手で多いのは「母親」。生計維持の中心者は男性では「本人」、女性では「父親」が多い。誰かと同居している場合、その理由は「子どもの頃から同居しているため」が最も多く、次いで「自分の生活費を節約したいため」「自分の所得だけでは生活が難しいため」が続く。世帯の収入源としては「自分の仕事の収入」のある人が最も多く、70%以上を占める。次いで「親の年金収入」が続く。本人に仕事からの収入がある場合、「200万円以上~300万円未満」の割合が最も高い。さらに、自由に使える収入が年間100万円未満の人は約50%、自由に使える収入がない人は21%、貯蓄や資産形成に回した金額についても約半数が「ない」と回答した。10万円以上15万円未満の世帯も多い。9割以上の人は住宅ローンや住宅ローン以外のローンの残高が0円。資産形成の手段としては、男女問わず「預貯金」を選択した人が多い。</p><p>(3) 住まいについて</p><p> 現在の住まいは「親の持ち家」「賃貸住宅」「自分の持ち家」の順。家賃月額は「4万円~6万円未満」がトップ。老後の住まいは「現在の住まいにそのまま住み続ける」が全体の47.5%、「1人で暮らすつもり」が全体の40.7%を占めた。</p><p>(4) 不安・満足度等</p><p> 健康状態は「まあ健康」が全体の44.2%であり、トップである。8割以上の人は日常生活に支障がない。経済的に援助してくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性60%、女性41%、家事や看護を手伝ってくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性61%、女性44%、悩みを聞いてくれる人が現在「特にいない」と答えた人は男性65%、女性39%であった。老後においては、男女格差が小さくなるものの、「特にいない」人の割合は男女ともに高くなり、男性の場合、いずれも8割前後となっていた。現在の生活の満足度は「収入」「資産・貯蓄」が特に低い。その一方、「家族」「友人」に関しては満足度が比較的高い。老後の生活については「老後の生活全般」「自分自身の健康のこと」について、特に不安を感じている。現在における異性との交際については「交際相手も異性の友人もいない」と回答した割合が全体の52.5%を占め、今後「結婚するつもりはない」という回答も全体の過半数を占める。過去に介護経験があるのは全体の約2割である。介護経験がある場合、「母親」の介護が最も多く、次いで「父親」となっている。回答者の1割強は「仕事をやめて自分で介護」と回答した。親の介護が必要になった場合の主な対処方法としては、「ホームヘルプサービス、訪問看護などの在宅介護を利用」が全体の約20%を占め、次いで「会社の介護休業制度などを利用し自分で介護」となっていた。「仕事をやめて自分で介護」という回答は全体で13.7%であり、男女差はほとんどなかった。</p><p>(5) 老後の生活について</p><p> 老後の生活設計を「まだ考えていない」人が全体の3分の2近くを占めている。老後の生活設計を考えていない主な理由は「収入が少なく、今の生活で精一杯のため」にある。老後の収入源としては「公的年金」「仕事による収入」「預貯金」の3つを考えている人が多い。将来受け取ることができる公的年金の見込み額は、月額15万円未満としている人が全体の30%前後を占めている。公的年金の希望受給開始年齢は男女とも「65歳」が最も多い。66歳以降で公的年金を受給したい場合、その主な理由は「65歳以降も働くから」である。自分自身の介護が必要になった場合の対処についての回答は「自宅でホームヘルプサービス、訪問介護などの在宅介護・デイサービスを利用する」が男女とも約40%を占めていた。</p><p>(6) 独身生活のメリット・デメリットおよび新型コロナの影響</p><p> 独身生活を続けてきて感じたことについては、全体の40.2%が「自由に使える時間が多い」と答える一方、全体の39.9%は「老後のことを考えると不安」と回答した。さらに、結婚しなくてよかったという回答は男女とも20%強となっていた。</p><p> 新型コロナウイルスの流行による生活への影響については、全体の23.4%が「自分の仕事や収入が減少した」と回答。連日の報道や外出制限によって気鬱になった人は全体の31%であった。</p><p>(7) 60歳前後で変わったこと</p><p> 60歳を境にして60歳未満の人と変わる主な点は次のとおりである。まず第1に、仕事に就いていない人の割合が高くなり、男女とも40%強になっている。第2に、仕事に就いている場合、30人未満の事業所に勤務している人の割合が男女とも一段と上昇し、零細企業へのシフトが生じている。第3に、現在の仕事に30年以上にわたって就いている人の割合が男女とも20%程度となっており、長期勤続者のウェートもそれなりに高い。第4に、週4日以下の勤務日数者の割合や、1日8時間未満で働いている人の割合が上昇している。第5に、男性の場合、半数近くの人が今後は引退したい、あるいは無職のままで将来も仕事に就くつもりはない、と回答している。一方、女性の45%弱は現在の仕事を続けていきたい、としている。第6に、現在、仕事に就いていない主な理由が男女とも「自分が仕事に就かなくても、生活できるから」に変わる。第7に、女性の場合、生計維持の中心者が父親から本人に変わった人が多い。第8に、自分の年金収入がある人が男女とも増える一方、親の年金収入を失う人も少なくない。第9に、本人に仕事からの収入があっても、それが年間300万円未満の低所得者の割合が上昇している。第10に、保有している金融資産額2000万円以上の人は男女とも34%であった。多数派(40%弱)は500万円未満であった。第11に、60歳未満の人の方が遅めの公的年金受給開始(66歳以降)を希望する割合が高かった。</p>
著者
丸山 桂
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.15, pp.2-16, 2021

<p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif"> 近年、老後の所得保障の自助努力として、私的年金制度、なかでも個人型確定拠出年金制度(iDeCo)が注目を集めている。しかし、その加入者に関する実証研究は、研究途上にある。本研究は、中年未婚者の個票データを用いて、iDeCo加入に関する実証分析と老後の低年金リスクが高い国民年金の保険料免除制度利用者との生活状況の比較を行った。主な分析結果は以下のとおりである。</font></span></font></tt></p><p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif">① 国民年金の保険料納付免除者は、仕事についていない者や非正規労働者の割合が高い。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、家計に深刻な影響があった者の割合は、国民年金保険料全額納付者や厚生年金加入者よりも、国民年金保険料滞納者、免除者に相対的に高かった。</font></span></font></tt></p><p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif">② iDeCoの加入状況を国民年金加入者と厚生年金加入者で比較すると、本来老後の年金額の上乗せ措置として加入が期待される国民年金加入者よりも厚生年金加入者に利用されている。iDeCo加入者は非加入者に比べ、収入や資産面でも余裕があり、NISA/つみたてNISAや個人年金制度も併用して、税制上の優遇措置を利用しながら、効率的に日常生活と老後の備えを行っている。</font></span></font></tt></p><p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif">③ 公的年金制度の繰り上げ制度/繰り下げ制度による給付額の減額・増額率を説明した上で希望する公的年金の支給開始年齢を尋ねた場合、国民年金の保険料免除者や滞納者は繰り上げ受給を望む者が相対的に多く、厚生年金加入者やiDeCo加入者には繰り下げ受給を選ぶ者が多い傾向が見られた。これは、現役時代にねんきん定期便で示される金額以上に、将来の高齢期の年金格差が拡大する可能性を示唆している。</font></span></font></tt></p><p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif">④ iDeCo加入について二項ロジスティック分析を行った結果、厚生年金加入者、金融資産額が高い者ほどiDeCoに加入する傾向にあり、個人年金やNISA/つみたてNISAを併用していることも明らかとなった。</font></span></font></tt></p><p><tt><font face="roman"><span style="font-variant: small-caps;"><font face="sans-serif"> 今後とも、国民年金第1号被保険者に占める免除適用者数の増加が続き、経済的余裕のある者だけがiDeCoに加入し、税制上の優遇措置を二重三重に受け取る状況は老後の経済格差の拡大や所得再分配上の点から問題がある。公的年金の再分配機能とともに、本来加入すべき低年金者にいかにiDeCoの加入を促すか、金融リテラシーの形成支援も含めた検討を急がねばならない。</font></span></font></tt></p>
著者
高山 憲之
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-67, 2021

<p><tt>・日本では公的年金制度に何歳まで加入する義務があるかという設問に対して、「</tt>64<tt>歳まで」と回答した人が全体(</tt>30<tt>~</tt>59<tt>歳の男女)の</tt>8<tt>割近くに達しており、制度を誤解していた人が圧倒的に多かった。</tt></p><p><tt>・上記以外に、老齢年金を受給するために拠出することが必要となる保険料の最低納付年数は何年か、老齢年金の繰り上げ受給に伴う給付減額は何歳まで行われるか等、年金制度のイロハに相当する基本的内容についても、誤解していた人や「分からない」と回答した人が少なくなかった。</tt></p><p><tt>・公的年金に関する知識の伝達手段として今後、期待が大きいのは「ねんきん定期便」である。それを、年金に関連する各種情報の集約場所として最大限に活用してはどうか。</tt></p><p><tt>・年金情報の提供手段として利用価値が高い媒体は世代によって異なる。現時点における中高年世代は</tt>TV<tt>の積極的活用を依然として望んでいる一方、若年世代は利用時間や距離に制約がなく、最新情報を得やすいインターネット(ねんきんネットを含む)や、コミュニケーションのツールとして使うことができる</tt>SNS<tt>への期待が大きい。</tt></p><p><tt>・年金加入者が最も知りたがっているのは、加入者本人にカスタマイズされた年金コンテンツである。自分が受給できる年金月額はどの位になるのか、そして、その金額をもっと増やす具体的方法は何か。この点に関する年金計算のシミュレーターを開発する必要性は大きい。</tt></p><p><tt>・年金広報では、分かりやすさ優先の情報提供を要望する声が最も多い。</tt></p><p><tt>・年金制度の具体的内容、あるいは、その周知方法等が改められた場合、その旨を可能なかぎり速やかに加入者・受給者に伝達する必要がある。</tt></p>
著者
杉田 健
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.68-90, 2021-07-15 (Released:2021-07-15)
参考文献数
37

本稿はナイジェリアにおける年金制度の現状と課題を論じるものである。1981年から2014年の間に世界31か国が公的年金の全部または一部の民営化(DC化)を実施したが、18か国は民営化を全面的または一部やめ、また民営化を続けている国でもチリのように公営部分を拡充させた国がある。現在民営化を続けている国の中でもっとも人口の多い、アフリカのナイジェリアは、2004年に民営化が行われ、2014年の改正を経て現在に至っている。本稿は先行研究および公表資料を基に歴史的経緯・制度内容および課題を解説する。公務員年金の歴史は植民地時代にさかのぼるが、民間被用者の年金も含めて、2004年の改正前は給付と負担のバランス、年金記録が不十分で、積立金の横領、給付の遅延が発生していた。2004年の改正によりチリに倣った確定拠出型年金に移行し、2014年以降は若干の修正が行われている。ナイジェリアの年金の課題は、適用率の低さ、インフレに資産運用利回りが追いついていないこと、利息を嫌うイスラム教徒の加入者対応、不正防止があげられる。さらに、COVID-19による失業率の上昇により拠出中断が増え、将来の年金額への影響が懸念されている。
著者
菅谷 和宏
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2-60, 2017

<p> 本稿では1991年の第1回調査から2016年の第6回調査までの25年間におけるサラリーマンの生活と生きがいの変化について追う(第1節)。生きがいの保有率は、第2回調査の78.4%から一貫して減少し、第6回調査では初めて5割を切り43.6%(前回比▲12.3%)まで低下した。生きがいの意味合いとして、「生きる喜び」「生活の活力」「生きる目的」「自分自身の向上」が減少し、「生活のリズム」「心のやすらぎ」が増加している。生きがいを感じる事柄は、「仕事」が32.5%から18.0% に減少し、「ひとりで気ままにすごす」が7%から17.5%に増加している。くわえて、心の安らぎが得られる場が減少し、「どこにもない」とする人が増えている。生きがいを得られる場は「仕事」から「家庭」に移る一方で、「家族の理解・愛情」は減少している。さらには、自ら他人とのつながりを求めない人が増えている。新たな生きがいの場を自ら見い出す積極性も持たず、ただ、生きがいの喪失に繋がる現状が浮かび上がる。</p><p> このような中、団塊の世代が本格的に就業から引退し、高齢者の仲間入りを始める。そこで、次に第1回調査(40~44歳)から第6回調査(65~69歳)まで団塊世代の生活と生きがいの変化を追ってみた(第2節)。驚くことに、他の世代とは異なり、生きがいの保有率は第1回調査から第6回調査では59.0%と同じ水準を維持していた。定年退職後も「経済的ゆとり」を持ち、仕事に代わる「趣味」などに生きがいを見い出している団塊の世代がいる。 生きがいの意味や内容は年齢と共に変化し、男女では生きがいの意味や内容が異なっていた。 人口減少による労働力不足が懸念される中、高齢者の知識と経験を社会へ活用することが求められる。また、雇用形態が多様化する中、生きがいを持ち続けられるような社会の仕組み作りが必要で あり、今後の日本の超高齢化社会への対応と活性化に繋がるものと考える。</p>
著者
藤森 克彦
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.3, pp.78-111, 2016

<p> 本稿では、40 代・50 代の未婚の男女を「2人以上世帯」と「単身世帯」に分けて、生活実態、未婚者における2人以上世帯の規定要因、老後リスクとその備え、現在及び老後の生活不安、を考察した。特に、2人以上世帯に属する中年未婚者――中年未婚者の6割を占める――の生活実態などは、これまであまり考察されてこなかった。本調査では、以下の点が明らかになった。</p><p> 未婚者が属する2人以上世帯の構成をみると、未婚者の9割強は親と同居している。</p><p> 2人以上世帯の未婚者は単身世帯よりも正社員の比率が低く、無職者の比率が高い。また、2人以上世帯の未婚者は単身世帯よりも低所得者の比率が高い。</p><p> 一方、未婚者が属する2人以上世帯の「生計維持の中心者」をみると、未婚男性の4割、同女性の7割弱が生計維持の中心者は親となっている。特に、本人年収100 万円以下の未婚者では、その7~8割は親が生計維持の中心者である。</p><p> 住まいの状況をみると、単身世帯の6割強が「借家住まい」なのに対して、2人以上世帯では男性の5割強、女性の7割弱が「親の持ち家」に住んでいる。</p><p> 次に、未婚者について2人以上世帯の規定要因を分析すると、①年収が低いこと、②家族に要介護者がいること、③職場で社会保険に入れないこと(女性のみ)、があげられる。</p><p> 老後への備えをみると、2人以上世帯に属する未婚者の6割強は国民年金加入者(第1号被保険者)であり、厚生年金に加入していない。単身世帯の同割合は5割程度である。</p><p> 国民年金加入者で借家住まいの人は単身世帯の3割、2人以上世帯の1割程度である。</p><p> これらの世帯の場合、老後の公的年金は基礎年金のみであることが想定されるので、高齢期に家賃負担が重くなる可能性がある。</p><p> 2人以上世帯の未婚者は親などと同居しているので、経済援助や看護・家事などで「頼れる人がいない」という人の比率は低い。しかし、老後は親などの同居人が死亡する可能性があるので、「頼れる人がいない」という人の比率が単身世帯に比べて著しく高まる。</p>
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-25, 2016

<p>1)本稿では、まず第1に、所得税における配偶者控除を夫婦控除に切りかえる場合の税負担増減効果を、『国民生活基礎調査』(2013 年実施)のマイクロデータを利用して推計した。その際、全体として増減税同額(税収中立)になるように配慮した。想定したのは2012年の所得税制である。次いで、2017年度税制改正大綱における配偶者控除の見直しについても同様の推計を試みた。</p><p>2)いわゆる103万円の壁は税制上、存在しない。</p><p>3)配偶者に年間65 万円超141万円未満の給与収入がある場合、現行税制は配偶者の給与収入に対して、いわゆる「二重の控除」を認めている。この「二重の控除」は事実上、妻のパート就業に税制上の恩典を与えるものである。</p><p>4)配偶者控除だけでなく基礎控除も併せて考えると、現行税制は専業主婦(収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻)世帯を一切、優遇していない。世帯合計の控除額は妻が正規(より厳密にいうと年間給与収入141万円以上)の共働き世帯と変わりがないからである。「配偶者控除は専業主婦世帯を優遇するシンボルだ」というのは誤解だ。</p><p>5)配偶者控除(配偶者特別控除を含む。以下、同様)を廃止すると、全体として38%(2000万世帯)の世帯で税負担が増える(負担増は平均で年間3 万6000円)。特に、妻が非正規または専業主婦の場合、その約4分の3の世帯(1600万世帯)が税負担増となる。</p><p>6)現行の配偶者控除(38 万円)を所得控除方式の夫婦控除(38 万円。夫の年収800万円までの所得制限つき)に切りかえても、負担増減のない世帯が全体の76%に及ぶ一方、負担増組は9%(480 万世帯)、負担減組15%(800万世帯)となる。負担増組は多数派とはならない。ちなみに、世帯年収400万円以上800万円未満の中間所得層については、負担減組の方が負担増組より多い。ただし、負担減は高所得層ほど多額となる。</p><p>7)他方、年額2 万7500円の夫婦税額控除に移行すると、全体の32%(1700万世帯)が負担減、16%(850万世帯)が負担減となる一方、残りの52%は負担が変わらない。ここでも負担減となる世帯の方が負担増世帯より多く、中間所得層においても減税組が増税組を世帯数で圧倒している。負担減は大半の共働き世帯に及ぶとともに、専業主婦世帯でも負担減組の方が負担増組より多い。特に世帯年収300万円以上500万円未満の中低所得層に位置する専業主婦世帯では負担減となるケースがほぼ70%となっている。</p><p>8)夫婦税額控除への移行により、有配偶世帯に関するかぎり、配偶者(その大半は女性)の働き方に中立な税制が実現する。</p><p>9)2017年度税制改正大綱はパート主婦が享受している税制上の特権を中間所得層に限って拡大・強化する性格を有し、それは、働き方に中立な税制の実現という改革理念に背馳している。</p>
著者
福山 圭一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.26-45, 2016

<p> EU職域年金基金指令の改正が欧州議会で可決された。ただし、まだ EU理事会での審議が残っており、成立はしていない。改正内容は固まっており、早い段階で成立すると見込まれる。</p><p> 予定される改正は、従来の指令を全面的に改める大幅なものである。わが国企業年金への影響という観点から、無視しえないと考えられる。</p><p> 中でも、ESG投資関連の事項が多く規定されることが特筆される。ESG 投資に対するこれまでの規制スタンスの変更を加盟各国に迫るものということができる。</p><p> 年金基金のガバナンスに関して新たに各種の規制が導入される。具体的には、有効なガバナンスシステムを有するようにすること、ガバナンス方針を文書化すること、リスク管理・内部監査・(DB 年金についての)アクチュアリーが「主要機能」(key function)と位置づけられること、年金基金の運営に当たる主な役職員の人的資質要件を明らかにし、主要機能保有者の適性を加盟国所管当局が評定(assess)すること、年金基金は自らリスクアセスメントを行い文書化すること、運用基本方針を公開することなど、様々な規定が新設される。</p><p> また、年金基金は、加入者・受給者に、積極的かつ幅広い内容の情報提供を行うことが義務付けられる。とりわけ、各加入者に対し、予想年金給付額(経済シナリオによる場合はベストと好ましくないシナリオによる)などを記載した年金給付ステートメントを年に1回提供することが義務付けられる。</p><p> その他、国境を超える年金資産等の移換、監督に関する諸規定など、実施に当たってかなり要求レベルの高いと思われる規定が数多く盛り込まれる。</p><p> 単一市場を企図する EUの意欲の表れと見ることができるが、一方で、Brexitなど今後の EUのあり方自体も不透明なところがある。今後の加盟各国での対応や実施状況などを注目していきたい。</p>