著者
駒井 信勝
出版者
智山勧学会
雑誌
智山学報 (ISSN:02865661)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.219-234, 2020

<p> 本稿では,<i>Vajrapāṇyabhiṣekatantra</i>(以下VPA)に見られる金剛灌頂曼荼羅,並びに画像法の中央に画かれる世尊大転輪がいかなる尊格であるのかを,『大日経』との比較や,経典の内容から検討してきた.</p><p> 尊容に関しては,『大日経』「転字輪曼荼羅行品」の世尊毘盧遮那と酷似しており,この視点からみるならば,世尊大転輪は毘盧遮那と言える.</p><p> VPAにおける世尊大転輪の位置付けに注目すると,あらゆる尊格の中でも最高位の存在であることが読み取れた.このような位置付けから見ても,世尊大転輪を毘盧遮那とすることは可能であろう.</p><p> 最後に,VPAでの転輪者がいかなる存在であるのかを検討した.VPAでは,秘密の教説と金剛杵が,釈迦—普賢—文殊というふうに相承されていく.そして,これは毘盧遮那—金剛手—妙施金剛と置き換えることができた.金剛灌頂曼荼羅では,世尊大転輪の上下に普賢と文殊が,画像法では世尊大転輪の左右に金剛手と妙施金剛が配置された.このように,教説と金剛杵の相承と,曼荼羅の配置を比較すると,世尊大転輪は毘盧遮那ということができよう.</p>

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