- 著者
-
小野 友紀
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.1, pp.207-223, 2021
バイキング方式による食事提供を行っているサクラ保育園(仮名)において,対象児アカネが自分の食事量を盛り付けるようになる過程をエスノグラフィーの手法を用いて縦断的に観察し,配膳(盛り付け)活動に着目して検討した。分析枠組みには,ロゴフの「導かれた参加」の概念を借用し,文化的道具の使用と意味の橋渡しに注目して分析した。その結果,社会文化的集団としてのサクラ保育園における固有の食事提供方法と,そこで展開されたアカネと保育者の相互作用の過程が明らかになった。具体的には,文化的道具としての「食器」は単なる器というだけでなく,盛り付けられる「料理」そのものを示すこともあれば,盛り付け分量の目安を「測る容器」や,保育者との「意思疎通の道具」にもなっていたことが窺われた。配膳(盛り付け)活動における保育者や他児との相互作用では,アカネは「食べたい分量を盛り付ければよい」というメッセージを受け取っていたと考えられ,この点で「意味の橋渡し」が行われていたと考えられた。