著者
尾鍋 史彦
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.350-353, 2021

<p>古代ギリシアの時代から現代まで,「存在」という問題は対象が認識できるか否かに関わらず哲学の根本概念であり主題であり続けている。紙という日常的かつ即物的な対象を敢えて「存在」という視点から捉えると何が見えてくるのだろうか。直立二足歩行という動物として優位な特性をもつ人類は道具を生み出し,紙を発明し,機能別に分化させ現代に至っているが,この過程を「存在と生成」という思考の枠組みから捉えてみた。</p><p>現代哲学は多様だが,戦後フランスの実存主義,構造主義,ポスト構造主義という変遷の文脈の中で紙という存在を解釈してみたが,サルトルのアンガジュマン(engagement)は実存である人間が対象である紙に働きかけることにより紙を進化させ,また存在理由をraison d'être(レゾンデートル)と表現している。ポスト構造主義のレジス・ドブレによるメディオロジーでは思考の対象に紙を取り上げ,「紙の力」(Pouvoirs du Papier)として,記号としての文字を支える紙の支持体としての役割を強調し,伝達における歴史性・文化性の維持の重要性を強調し,暗にデジタルを批判しているとも解釈できる。</p><p>デジタルが優勢な世界でも記憶を基盤とする知的形成,初等教育,文化の形成には親和性と感情価の高い紙というメディアは今後も不可欠である。紙と印刷の世界へのコンピュータの登場は近代への決別というポストモダン的な捉え方があるが,21世紀になり現代哲学の地殻変動の中から新たな思考の枠組みで「モノの知」を探ろうという動きがあり,新たな紙の捉え方が生まれる可能性がある。</p>

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