著者
土屋 安見 石村 具美
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-16, 1991

15世紀初め頃に大陸から伝来したと推定されている枠付きの製材用縦挽鋸「大鋸」が、14世紀初頭の作とされる地獄絵、極楽寺蔵『六道絵』に描かれているとの情報を得て、この度、調査を行った。『六道絵』は、兵庫県立歴史博物館の総合調査で発見され、昭和61年(1986)に重要文化財の指定を受けている。伝世品や他の絵画資料中の大鋸との比較検討及び他の地獄絵に描かれた鋸の調査から、以下のことがいえる。(1)地獄の鬼の責め道具として、本来の木工以外の用途に描かれた地獄絵といえども、多くの場合その時代の鋸の形を反映している。(2)人間を挽き切ることを主眼に描かれた地獄絵の鋸の中でも、『六道絵』の大鋸は、明確に製材法を描いている点で特異な存在である。(3)しかも、その形状及び作業法の描写は正確で、かっリアリティを持っている。(4) 『六道絵』の大鋸は、1 4世紀初頭に大鋸が伝来していた可能性を示す現在唯一の資料として大きな意味を持つものである。(5) 『六道絵』と近い時期に描かれた他の地獄絵の中に、棒状の把手がついた大鋸が描かれており、これは横挽用の大鋸である可能性を持つ。しかし、地獄絵は先行する中国の図柄を参考に描かれることもあり、中国の資料との関連性など、今後さらに調査されねばならない課題も多い。

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