著者
堀 兼明 福永 亜矢子 浦嶋 泰文
出版者
農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター
雑誌
近畿中国四国農業研究センター研究報告 (ISSN:13471244)
巻号頁・発行日
no.1, pp.77-94, 2002-03
被引用文献数
5

中山間地域における野菜の有機栽培ビニルハウスの作土及び下層土の,主として化学性の実態を調査した結果,以下の土壌管理上の問題点・特徴が摘出された。1 中山間地域の水田利用野菜栽培圃場の特徴として,礫層の出現により有効土層が浅い圃場が多かった。2 土壌のpHは高めであり,EC,交換性陽イオンはほとんどが診断基準値を超えて高く,塩基バランスが悪化している圃場が多かった。3 土壌のリン酸はビニルハウス建設年次の古い圃場で著しく含量が多く,これらの圃場では水溶性リン酸も検出され,下層土までリン酸が溶脱・集積している圃場が認められた。重金属類は土壌汚染防止に関する基準値を超えている例はなかったが,過剰に含まれているリン酸によると推定される,亜鉛欠乏の恐れが認められる圃場があった。塩素は単独で過剰障害の恐れが認められる圃場があった。化学肥料を主とした施肥体系の場合とは異なり,硝酸カルシウムが主成分ではなく,硫酸イオンが水溶性陰イオンのうちで最も多く,ECを高めている主要因の1つであった。同時に,炭酸イオンの寄与率が高いことが推察された。4 カリ,石灰,苦土が過剰に蓄積している圃場が多く,このうちカリ,苦土は水溶性の含量も高いことから,下層土まで溶脱・集積している圃場が認められた。ただし,化学肥料を主とした施肥体系の場合と比較すると,カルシウムが主成分ではあるものの,その寄与率は低くカリ,マグネシウムの寄与率が高かった。5 作土の硝酸は多くの圃場で過剰であり,下層まで溶脱・集積している圃場が認められた。亜硝酸がガス障害発生の恐れのあるレベルに蓄積している圃場,及び潜在的にその恐れがある圃場が認められた。可給態窒素の含量は概して多く,数作を無窒素で栽培可能なほど蓄積している圃場も認められた。6 環境保全の面から窒素の収支の推定を行ったところ,投入窒素の30-90%が野菜に利用されず,溶脱・蓄積・揮散されていると推定された。7 また,当町内で流通・使用されている主な堆肥中の肥料成分等の実態が明らかとなり,適正施用法確立のための基礎資料が得られた。8 以上の結果,有機栽培土壌では,化学肥料主体の場合と比較して化学性が大きく異なることが判明し,同時に小規模な中山間地域における有機栽培では,比較的画一的な対策で対応できる,大規模な平野・台地・丘陵地における化学肥料主体の場合とは異なる土壌・施肥管理指針が必要であることが明らかとなった。

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