- 出版者
- 水産総合研究センター
- 雑誌
- 水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
- 巻号頁・発行日
- no.30, pp.1-104, 2010-06
2006〜2008年に亘るアーカイバルタグなどを用いた標識放流の研究から以下のことが明らかとなった。すなわち、日本海におけるブリ0〜1歳魚の移動範囲は、小規模であり、能登半島以西の0〜1歳魚は放流海域付近に滞留し、大きな移動は行わない。日本海北部となる能登半島以北の0〜1歳魚は能登半島(輪島)〜青森沖の範囲に留まり、越冬期にも寒冷レジームであった1980年代と異なり能登半島以西には移動しない。アーカイバルタグの水温履歴の解析から、最低水温期(3〜4月)に能登半島以北の海域を遊泳していた若齢魚が見出され、環境水温は10℃以上であった。よって、現段階では、最低水温期に10℃以上の海域がブリ幼魚の越冬可能な海域であると仮定することができるとみられた。これに基づき、ブリ幼魚の越冬可能な海域の範囲について経年変化を調べた結果、冬期(最低水温期3、4月)における水温分布の変化が年代による分布回遊の変動の主要因になっていた可能性があるとみられた。既往の知見および本研究の成果を総合すると、日本海側に来遊したブリ未成魚(0〜2歳)は各地の沿岸で小規模な季節回遊を行い、回遊範囲を拡大しながら成長するものの、現在の温暖レジーム下では、産卵期を迎える3歳までは能登半島を境にして北部海域と中西部海域のそれぞれの海域で回遊するものと推定された。日本海側の海域別・年齢別漁獲尾数の解析から、同一年級の0歳時の漁獲尾数と3歳時の漁獲尾数の間には高い正の相関がみられ、日本海側各海域において漁獲された0歳魚の尾数をキーとしてその後の同一年級群の漁況予報を行うことの可能性が示された。異なる水温でブリ仔魚を飼育し、18〜22℃の範囲では水温が高いほど耳石の成長が良いという傾向を明らかにした。この関係と、実際に東シナ海、日本海で採集された仔稚幼魚の耳石の初期成長試料とを付きあわせることで、ブリの産卵海域は、産卵初期の2月には水温の高い東シナ海南部、その後徐々に低水温域に移行し、産卵終期の6月には日本海西部付近であった可能性が示された。