著者
淀 太我 井口 恵一朗
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
no.12, pp.10-24, 2004 (Released:2011-03-05)

外来魚ブラックバスの釣り利用と駆除を巡る軋轢はバス問題と呼ばれ社会問題化している。バス釣りの普及には各時代の社会背景が強く影響しており、特にバブル景気を背景とした市場主義の導入は、バス釣りを釣りの一分野から手軽な一般娯楽へと変化させ、空前のブームを産んだ。バス問題で顕在化した多くの問題点は現代人の生活や自然との関わり方に深く根ざしており、その解決は人間社会の持続的な発展の可否を占う試金石である。
著者
増田 賢嗣 今泉 均 橋本 博 小田 憲太朗 古板 博文 松成 宏之 照屋 和久 薄 浩則
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.7-13, 2011-10
被引用文献数
2

現在ウナギ仔魚用飼料としてはアブラツノザメ卵を主体とする飼料 (SA)が用いられている。この飼料により飼育が可能になったが,サメ卵の中でも特に本積の卵が優れていることは確認されていなかった。加えて,シラスウナギ量産に対応するためには新たな飼料原料を見出す必要がある。本研究ではイタチザメ卵主体飼料(GC)およびアイザメ卵主体飼料(CA)を調製し、 SAとの初期飼育の比較試験を行った。その結果GC区、CA区ともにふ化後21日まで生残が認められ,GC区の生残率および両試験区の終了時全長はSA区に劣ったものの、CA区の生残率はSA区に匹敵した。これにより複数のサメ卵が飼料原料として利用可能であることが明らかとなった。
著者
増田 賢嗣 奥 宏海 野村 和晴 照屋 和久 田中 秀樹
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
no.2, pp.99-104, 2010 (Released:2011-07-26)

サメ卵主体液状飼料の開発と改良はシラスウナギまでの飼育を可能とし、研究の焦点はシラスウナギの大量生産法の確立に移っている。そのためには、大量生産への応用が困難な現行の給餌法を改良する必要があり、特に中層で給餌できる方法の開発が求められている。飼料が飼育水全体に拡散したコロイド型飼料はこの要請に応えられる可能性がある。本研究では、コロイド型飼料のモデルである海水希釈牛乳で満たされた水槽中では、牛乳が一定濃度以上で、十分な摂餌時間があればウナギ仔魚は摂餌でき、また一定期間生存できることを明らかにした。
著者
北村 章二 生田 和正 鹿間 俊夫 中村 英史 鈴木 幸成 棟方 有宗
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-10, 2005-12 (Released:2011-03-05)

2002年度から全域キャッチアンドリリース(C and R)制となった湯川において、C and Rによる魚類資源維持効果の判定を目的として釣り人へのアンケート調査及び釣魚期間前後における資源調査を2002年と2003年に行った。C and R制導入前の2001年と比較すると、釣魚者は27.4%(2002年)及び34.2%(2003年)増加し、フライ釣り人の割合はそれぞれ83.8%及び88.1%に増加した。時間当たり釣獲率も2003年には1.21と有意に上昇した。また、両年とも釣魚期間前よりも釣魚期間後にカワマス資源量が増加していた。これらから、元々C and Rを基本とするフライ釣りの割合の高かった湯川におけるC and R制の導入は、釣魚者には好意的に受け入れられ、カワマス資源の維持に効果的であったことが示された。
著者
北村 章二 生田 和正 鹿間 俊夫
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-10, 2005-12
被引用文献数
1

2002年度から全域キャッチアンドリリース(C and R)制となった湯川において、C and Rによる魚類資源維持効果の判定を目的として釣り人へのアンケート調査及び釣魚期間前後における資源調査を2002年と2003年に行った。C and R制導入前の2001年と比較すると、釣魚者は27.4%(2002年)及び34.2%(2003年)増加し、フライ釣り人の割合はそれぞれ83.8%及び88.1%に増加した。時間当たり釣獲率も2003年には1.21と有意に上昇した。また、両年とも釣魚期間前よりも釣魚期間後にカワマス資源量が増加していた。これらから、元々C and Rを基本とするフライ釣りの割合の高かった湯川におけるC and R制の導入は、釣魚者には好意的に受け入れられ、カワマス資源の維持に効果的であったことが示された。
著者
山本 敏博 井野 慎吾 久野 正博 阪地 英男 檜山 義明 岸田 達 石田 行正
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
no.21, pp.1-29, 2007 (Released:2011-12-19)

ブリSeriola quinqueradiataは日本各地で定置網、巻き網などの重要な漁獲対象になっており、漁況予報の精度向上、適正な資源管理が求められている。本稿ではブリの産卵生態、回遊生態についてレビューを行い、併せて上記の要望に応えるためにはどのような研究をどのような手法で遂行するのが適当であるか検討を行った。ブリの産卵生態は、卵仔稚魚調査を中心とした既往知見の整理の他に、仔稚魚の成長、親魚の成熟状況から見た産卵生態についてまとめを行った。回遊については成長段階によって様式が異なり成魚では大規模な南北回遊がみられること、越冬域をはじめとする分布域は海洋環境に依存していると考えられた。漁況予報の精度向上のためには回遊と環境の関係を解明することが必要と考えられ、その研究を遂行するための手法についても検討を行った。
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 = Journal of fisheries technology (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.9-17, 2009-09

200、220、240、260経の目合のモジ網のコッドエンドを装着した船びき網により、2回の並行操業試験を実施した。得られた漁獲物について、重量、種組成およびカタクチイワシシラスの全長組成を調べた。この漁獲物をシラス干しおよび釜揚げに加工し、25のシラスの流通業者による模擬競りとアンケート調査を行い、目合別に単価と品質の評価を比較した。模擬競りによる単価と漁獲重量から求めた一網あたりの推定生産金額は、220、200、240、260経の順に高かった。200〜240経の目合を使用することにより、260経よりも品質と価格が向上し、収入の増大が期待できる。
著者
杉崎 宏哉 児玉 真史 市川 忠史 山田 圭子 和田 英太郎 渡邊 朝生
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.57-68, 2013 (Released:2014-06-11)

安定同位体比を用いた海洋の生態系構造の解析では,基礎生産者の安定同位体比の特定が困難なことが食物網解析の障害となっている。本研究では,摂餌過程における炭素・窒素安定同位体濃縮の歴史的経緯をまとめた上,生物種の安定同位体比を同位体マップ上に整理し,食物網構造や栄養段階の推定手法を紹介した。食物網に沿って炭素・窒素同位体比の関係は線形一次式で表せ,摂食過程における炭素・窒素の同位体分別をそれぞれ3.3‰,2.2‰,その比を1.5に設定することで対象とする動物の同位体比から同位体マップ上に食物網の直線を描くことが可能となった。その結果を用いて三陸沿岸と沖帯の食物網同位体予測モデルを提示した。さらに試料採取法・処理法について再考察し,安定同位体精密測定法の今後の展望についても触れた。
著者
松下 吉樹 本多 直人 藤田 薫 渡部 俊広
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
no.10, pp.15-17, 2004 (Released:2011-03-05)

3種類の刺網を千葉県館山湾奥部の水域に20~37日間設置した。その後潜水観察を行い、羅網した生物と網成りの変化を記録した。刺網には27個体の魚類と甲殻類が設置後14日以内に羅網し、その後は観察されなかった。網目が展開している網の面積は、いずれの刺網も時間経過とともに減少して0となった。これは刺網が持つ漁獲機能のうち、特定の層を遊泳する生物の通路を遮断する機能と、生物を網目に刺させる機能が無くなったことを意味する。
著者
井口 恵一朗 鶴田 哲也 山口 元吉 羽毛田 則生
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-6, 2011 (Released:2013-10-08)

長野県佐久地方で、営まれる稲田フナ養殖の現状把握を目的に,アンケート調査を実施した。就業者の平均年齢は70代に近づき,新規の参入は少なかった。フナ仔魚は圃場内の天然餌料で育ち,稲藁や鶏糞の投入によりプランクトンの発生を促す工夫があった。フナの健康が配慮され,抗菌剤や防虫剤の使用は控えられたが,除草剤使用に関して高齢者の間で容認の傾向があった。また,生産者は,低農薬・有機栽培のフナ米に,慣行栽培米にはない付加価値を意識していた。さらに,稲田養魚には,魚飼い喜びや食慣習の地域共有等,経済評価に馴染まない効用が見出された。
著者
井口 恵一朗 鶴田 哲也 山口 元吉 羽毛田 則生
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-6, 2011-10

長野県佐久地方で、営まれる稲田フナ養殖の現状把握を目的に,アンケート調査を実施した。就業者の平均年齢は70代に近づき,新規の参入は少なかった。フナ仔魚は圃場内の天然餌料で育ち,稲藁や鶏糞の投入によりプランクトンの発生を促す工夫があった。フナの健康が配慮され,抗菌剤や防虫剤の使用は控えられたが,除草剤使用に関して高齢者の間で容認の傾向があった。また,生産者は,低農薬・有機栽培のフナ米に,慣行栽培米にはない付加価値を意識していた。さらに,稲田養魚には,魚飼い喜びや食慣習の地域共有等,経済評価に馴染まない効用が見出された。
著者
溝口 弘泰 長谷川 勝男 古川 秀雄 宇野 秀敏 大貫 伸
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産技術 (ISSN:18832253)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.27-36, 2010-09
被引用文献数
1

日本の海岸に漂着する大量のゴミは年間約15万トンであり,美観を損ねるだけでなく生態系まで破壊する問題となっている。漂着ゴミ発砲スチロールを回収し油化することによって得られるスチレン油を,軽油と混合し漁船エンジン等で使用することができれば,新しい循環サイクルを構築することができる。本研究では,漂着ゴミ (発砲スチロール) から抽出されたスチレン油を軽油と混合し (5wt%,10wt%,15wt%,20wt%),エンジン試験を行い,燃焼特性,排気特性ならびに耐久性について比較検討した。スチレン油の動粘度が小さいため,混合率20wt%が使用限度となる。それぞれの混合油の燃費率,排気温度ならびにCO2濃度は軽油と比較して,特段の変化は見られなかった。混合油のNOx濃度とスモークは,軽油と比較して混合率が高くなるに従い増加傾向となった。混合油 (10wt%) 使用での32時間耐久試験を行い,エンジンヘッドを開放し燃焼室の汚れ具合を軽油使用後と比較した結果,カーボンの付着具合ならびに吸排気弁裏側の汚れについては同等であった。以上のことより,漂着ゴミ発砲スチロールを油化して生成されるスチレン油は,軽油と20wt%までの混合であればディーゼル機関の燃料として使用できる可能性があることが示唆された。
著者
森田 貴己
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.13, pp.35-77, 2004-12

ある種の深海魚は水圧が600気圧にも及ぶ深海に生息している。その高水圧適応機構については古くから関心が持たれてきたが、タンパク質構造と高水圧下での機能との関係を明らかにした報告はこれまでにない。本研究では、深海性ソコダラ類のヨロイダラCoryphaenoides armatusおよびシンカイヨロイダラC. yaquinaeの骨格筋α-アクチンを対象に高水圧適応機構を分子レベルで解明した。本論文の構成は次の通りである。第1章では、ホカケダラ属(Coryphaenoides)の分子系統樹の作成を行った。ホカケダラ属のソコダラ類は、浅海から深海と幅広い水深に生息する同属種が存在することから、深海魚の特性を探る様々な研究に用いられている。比較生化学研究を行う対象魚を選択することを目的として、ミトコンドリア12S rRNAおよびcytochrome oxidase subunit I(COI)遺伝子の部分配列を決定し、本属の分子系統樹を作成した。本系統樹から深海性および浅海性ソコダラ類がホカケダラ属の進化の初期の段階で分岐したことが示された。得られた系統樹を参考に、深海性ソコダラ類であるヨロイダラおよびシンカイヨロイダラの比較対象魚として、浅海性ソコダラ類からイバラヒゲおよびカラフトソコダラを選択した。第2章では、深海性ソコダラ類α-アクチンの高水圧下での性状変化を検討した。深海性ソコダラ類2種、浅海性のソコダラ類イバラヒゲ、淡水魚のコイおよび陸上動物のニワトリの骨格筋からα-アクチンを精製し、高水圧下で重合に要する時間、臨界濃度及び重合に伴う体積増加量を調べた。いずれの分析においても深海性ソコダラ類のα-アクチンは、大気圧下とほぼ変わらぬ性状を示した。第3章では、深海性ソコダラ類α-アクチンのcDNAクローニング及び高水圧適応に必須のアミノ酸の同定を行った。深海性ソコダラ類と浅海性ソコダラ類の骨格筋からα-アクチンのcDNAクローニングを行った結果、それぞれ2タイプずつのα-アクチンcDNAが単離された。ノザンブロット解析、定量RT-PCR法及び2次元電気泳動法から、これらα-アクチンmRNA及びタンパク質のいずれも骨格筋中に存在していること、その存在量は高水圧に適応しているタイプがいずれの形態でも多く存在していることが示された。演繹アミノ酸配列において、深海性ソコダラ類に特異的なアクチンのタイプは、浅海性ソコダラ類に特異的なタイプと比べてQ137K、A155SおよびV54AまたはL67Pの計3カ所にアミノ酸置換を示した。幾つかの生化学的実験から、Q137KおよびA155Sの両置換はα-アクチン分子内にCa2+とATPが高圧によって押し込まれるのを防ぎ、深海性ソコダラ類に高水圧適応を付与していることが示唆された。さらにdeoxyribonuclease I(DNase I)とアクチンの結合実験から、深海性ソコダラ類のα-アクチンが高水圧下で重合するためには、V54AまたはL67Pの置換が重要であることが推測された。第4章では、高水圧適応と低水温適応との関連などを含む総合的考察を行った。
著者
重田 利拓 薄 浩則
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-19, 2012 (Released:2013-10-08)

野外での魚類によるアサリ食害実態に関する知見を取りまとめレビューするとともに,食害魚種に閧するリストを作成した。トビエイ科からフグ科の12科23種がリストアップされた。このうち,日本には12科21種が,瀬戸内海には12科18種が生息する。アサリの被食4部位区分では,稚貝を食害する魚種が多く,このうち,ナルトビエイ,クロダイ,キチヌ,キュウセン,クサフグの5種が親貝をも食害すること,イシガレイやマコガレイの稚魚・未成魚など8種が水管を食害すること,クロダイとキュウセンは,足を除く,全ての区分で食害が認められること等を明らかにした。
著者
有瀧 真人
出版者
水産総合研究センター
雑誌
水産総合研究センター研究報告 (ISSN:13469894)
巻号頁・発行日
no.37, pp.147-197, 2013-03

異体類の多くは,有用な水産資源として沿岸漁業や養殖漁業に深く関わっており,栽培漁業の対象種としても取りあげられてきた。代表的なヒラメやマコガレイをはじめ,わが国において種苗生産が試みられた異体類は12種にもおよぶ。しかし,どの種類においても白化や両面有色に代表される体色異常ならびに眼位や頭部骨格などに現れる形態異常が多発し問題となっているのに加え,その要因や発現機構については,ヒラメなどごく一部の種を除いて十分な検討がなされていない。本研究は,特に形態異常が多発するカレイ科魚類について基礎的な知見を収集し,それらをもとに形態異常の発現の機序や防除方法を明らかにすることを目的とした。第1章. 飼育したカレイ科魚類の変態に関わる形態異常 カレイ科魚類をふ化仔魚から人工環境下で飼育した場合,多くの種で変態期に形態異常魚が高い頻度で出現し,種苗生産の現場において大きな問題となっている。本章では,マガレイやホシガレイを中心にカレイ科魚類8種について有眼側と無眼側の眼位,体色,上顎,胸鰭,両顎歯,鱗を測定・観察し,天然魚と比較することにより,形態異常魚にどのような変化が生じているかを検討した。その結果,全ての魚種において変態後の形態は,正常魚,白化魚(2タイプ),両面有色魚の4タイプに区分することが可能であった。また,それらの両体側形質の比較から,正常魚は天然魚と同様の変態を完了しているのに対し,白化魚は両側が無眼側の形態に,両面有色魚は両側が有眼側の形態に変態していることが明らかとなった。このことから,本研究で取り上げた仔魚期の形態異常は変態に関連した異常,すなわち"変態異常"であると結論づけた。第2章. 飼育したカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期 変態異常を防除するには,その発現にどの発育期が最も深く関わっているかを解明することがきわめて重要である。異体類の中で,変態異常に関する試験・研究が先行して行われているヒラメでは,ブラジル産アルテミア(BA)を給餌することにより,ほぼ全ての個体が白化魚になることや,変態始動期の発育ステージにおいて最もその感受性の高いことが明らかにされている。本章では,マガレイとホシガレイをモデル魚種として,BAの給餌開始時期を変えて飼育を行い,白化魚の出現状況からカレイ科魚類における変態異常発現の決定時期を検討した。その結果,上記両種はBA給餌によって90~100%の個体が白化魚となった。また,BAを給餌した影響は,マガレイでは全長8mm,ホシガレイでは全長10mmまでであり,影響を受ける発育期は両種ともステージE(変態初期)までであると判断された。すなわち,両種ともにステージF以降の仔魚では変態異常の発現は決定しており,ステージE以前がカレイ科魚類の変態異常発現にとって重要であると考えられた。第3章. 飼育したカレイ科魚類の変態異常と仔魚の成長および発育 異体類種苗生産のモデル種であるヒラメでは,変態異常に関して様々な研究が行われ,その発現の機序についても部分的に解明が進められている。しかし,カレイ科魚類では体系的な研究はこれまで全く行われていない。本章では,カレイ科魚類における変態異常の出現機序の一端を明らかにすることを目的に,ふ化から変態までの時間が大きく異なるマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの仔魚をそれぞれ6~24℃の水温下で飼育し,変態異常魚の出現状態と発育・成長の関係について検討した。上記3魚種ではともに,飼育水温の上昇に伴い発育・成長が促進された。その相対的な速度はマガレイ,ホシガレイ,ババガレイの順に早く,既存の知見に合致した。正常魚,白化魚,両面有色魚の出現率と飼育水温の関係は,種ごとに特有の傾向を有し,再現性もきわめて高かった。このうち正常魚の出現率が最も高くなる着底までの日数は,マガレイで最も早く,ホシガレイ,ババガレイの順に遅くなった。これら着底日は耳石微細輪紋より推定されている天然魚の値に近似した。このことから,変態異常の発現は,飼育環境では発育・成長過程が天然魚と大きくずれることに一因があると推察された。