- 著者
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武田 知也
- 出版者
- 京都工芸繊維大学
- 巻号頁・発行日
- 2017
日本人は挨拶・感謝・謝罪の場面などで頻繁にお辞儀をする。本論文においてお辞儀を取り上げる理由は多くあるが、まず、日本人はビジネスをするうえでコミュニケーションの第一歩として挨拶を重んじ、挨拶儀式の中心にお辞儀を位置づけていることが挙げられる。その他にもビジネス界で謝罪のお辞儀の仕方が年々重要になってきていることや、訪日外国人の急増により「おもてなし」が注目されていることなどもお辞儀を研究対象とした理由として挙げられる。 日本人ほど頻繁にお辞儀をする国民は世界で他にないが、お辞儀の動作は頭頂を見せることで相手に服従の心を示すことであるから、世界でもお辞儀は古代から変遷がありながらも現代まで残存している。第1章では地域・宗教別にお辞儀を紹介し、我が国の古代から現代までのお辞儀の変遷について述べる。さらに小笠原流礼法や茶道裏千家、神道礼法、本論文のベースとなるビジネスマナー教育におけるお辞儀について述べる。 第2章では動作解析によって熟練者のお辞儀(立礼)の特徴を捉えることができた。一般に敬礼は腰を30度に曲げるものというが、熟練者の腰の角度の変化量は実際に熟練者が置かれている指導の状況が角度の変化量に影響しており、敬礼といえども指導テキストにある「30度」という一定したものではないことが示された。また、首の角度の変化量が屈曲で負の値をとることが多いことは相手への視線をすぐに外さないことを示していることの現れであり、時間と角度速度について、屈曲と伸展時間が同等あるいは伸展のほう時間が長く、角度速度は同等か伸展がゆっくりした速度となるのは、「お辞儀が終わっても相手への感謝などの心を残す」ということの実践の結果、丁寧な動画となって伸展がゆっくりと表現されるためであることが分かった。 第2章の結果は第3章で明らかになった非熟練者の特徴と照らし合わせると意義深い結論とすることができる。自己流においては個人間のバラつきが大きい非熟練者のお辞儀であるが、熟練者のお辞儀を撮影した動画による自己学習によると、首の角度と腰の角度の同調が解消される効果が認められ、角速度はゆっくりとなり、さらに指導を加えると角速度をさらにゆっくりとすることができるが、第2章で明らかになった「首の角度の変化量が屈曲で負の値をとる」「屈曲と伸展時間が同等あるいは伸展のほう時間が長い、角速度は同等か伸展がゆっくりした速度となる」という点は習得できないことが分かった。 第4章では非熟練者のお辞儀動画から得られた動作指標と熟練者による評価評点との相関を調べた。熟練者の評価の視点は一様でなく、時間、首・腰の角度、角速度などの中で熟練者の評価に特色が現れることが分かった。またクラスター分析において非熟練者のおじぎの類型を5つに分類できた。 第5章では、接客サービスという場面設定で非熟練者が陥りやすいお辞儀の特徴の印象評価への影響について明らかにすることができた。60度と30度のお辞儀の比較では30度のお辞儀の評価が高く、接客サービスの場面に適しているという点が分かった。同様に手の位置については横や後ろよりも手を前に組むほうが場面に適していること、速すぎるお辞儀をするよりは深いお辞儀をするほうが場面に適していることが分かった。さらにエキストラがいない場合に最も高い評価であった敬礼の印象評価がエキストラの存在によって低下し、深すぎるお辞儀と有意な差がみられないことが分かった。 第6章では座礼における印象を動画とアンケートによって調査したところ、角度の深さが丁寧な印象に関係していることが分かった。一方静止時間との関係をみると静止時間がない場合は丁寧さの評価は低いが、1秒以上の静止時間をとると丁寧さの評価は向上することが分かった。また静止時間0秒から1秒にすると自然な印象を与えるが、1秒以降静止時間が長くなると、その印象が急激に低下する。 第7章では、本論文のまとめを述べた。