- 著者
-
加藤はるみ
向後千春
- 雑誌
- 日本教育心理学会第58回総会
- 巻号頁・発行日
- 2016-09-22
背景と目的 21世紀の柔軟な雇用形態と流動的な組織を基盤とする社会の仕組みは,労働者に柔軟な対応を求めることとなった(Kalleberg 2009)。働く人が流動化している社会において,これまでのキャリアマッチング理論や,職業への適合理論といった考え方では,不安定で急激な変化に対応できないとして,サビカスは,キャリア構成主義の視点とナラティブ・アプローチの手法を提案している。このキャリアストーリー・インタビューはアドラー心理学をベースとしている(Savicas 1989)。 サビカスのキャリア構築理論に基づく手法を使ったキャリア支援の研究はまだ少ない。本研究では,サビカスのキャリアストーリー・インタビューによる新たなキャリア支援の方法を検討する。方 法 キャリアストーリー・インタビューは以下の手続きに従って実施した。サビカスのインタビューフォームを使用し,幼少時の思い出をインタビューした。インタビューは自己を定義づける瞬間や人生が変化するような経験における重要な人物,重要な出来事に注目する。幼少期の思い出について考察し,キャラクター・アークの根底にある捉われを特定した。各々がもつキャリアへの理想像,プライベートセンス(私的感覚)を明らかにした。相手とコモンセンス(共通感覚)をもつには,各自が各々のプライベートセンスに気づくことが必要である(向後 2016)。具体的には,「上司の立場,部下の立場」という立場の違いにおける課題と各自の描くロールモデル,理想とするキャリア像を確認し,そのギャップを明らかにした。 調査協力者:有職者(求職者含む)の4名であった。 調査方法と倫理的配慮:半構造化面接によるキャリアストーリー・インタビューを実施した。質問を実施する前に書面にて,健康状態の確認と,回答は任意であり回答を中断することが可能であることを明記した。質問項目に関して,自由に語るよう促した。 調査期間:2016年1月~2月に実施された。 調査内容:上記サビカスのインタビューフォームに,上司・部下に関する独自の質問を追加した。結果と考察 キャリアストーリー・インタビューでの幼少期の思い出と感情がナラティブとして語られた(Table 1)。幼少時の記憶は今現在も大切にするもの,教訓となり,プライベートセンスの言葉の中にあらわれていた(Table 2)。各自がそれぞれのプライベートセンスに気づくことは,新たなキャリア形成につながる。今後はインタビュー数を増やし,キャリア構成主義によるキャリア支援の方法を展開したい。