著者
筒井 稔
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

京都産業大学では以前から地中で電磁波が励起されるかどうかを確かめるための観測研究を行ってきたが、周波数が数kHz については殆ど全てが雷放電によるもので、地中起源の電磁波は全く見つける事が出来なかった。それは地中媒質の電気伝導度が高いために、励起された電磁波は遠距離まで伝搬出来ないためであった。そこで2011年の12月から検出しようとする周波数を25 Hz以下にしたところ、電磁波観測点での震度が1以下であっても地震波により励起された電磁波を検出できる事を確認した。即ち、地震波が伝搬している近傍では常に電磁波が励起されている事を示した。これは地震波の波頭に電磁波放射源が載っていて、電磁波を放射しながら地震波の速度で移動している形を採っていると考えられる。放射された電磁波の地中を進む距離は短いが、容易に放射されている事が確実となった。これがMT法での測定でもco-seismic 信号として検出される理由である[1]。上記の電磁波は地震発生後のS波の伝搬時に発生しているものであって、解明したいのは地震発生以前に電磁波が発生するかどうかという問題である。これまでの電磁波観測データを調べたが、地震発生時には電磁波パルスが検出されていない。また岩石破壊実験でもマイクロ波の雑音は検出されているが、低周波の電磁波の励起は見られていない。そこで地震発生以前でも地中において電磁波が励起される可能性がある状況を考え、その検証のための研究を進めた。地下で電磁波が励起される機構としては岩盤内でのP波成分による一種の共振効果が作用していると考えている。そこで、岩盤からの電磁波放射を検証するために実験室でその模擬実験を行った。頑丈な木製の台の上に長さが50 cm程度の花崗岩の柱を2本直線状に並べ、その接触面にガラス玉を挟んだ状態としてセットする。そしてこの2本の花崗岩柱の軸に沿って外側から圧力を加えていくと、ある圧力を超えるとガラス玉が破壊される。この時、それまで花崗岩の軸に沿って掛かっていた圧力が急激に無くなる。この時、ガラス玉に接触していた面では負の衝撃が加わった事になる。この衝撃によって、花崗岩内の軸方向にはP波が伝搬する。ある程度の長さを有する花崗岩である場合はP波の振動での共振現象を引き起こす可能性がある。その振動によって強い圧電効果が生じ電磁波が放射されると考えられる。この時、電界と磁界成分の両方を検出した。この実験結果を紹介する。上記実験状況は実際の活断層を中心とした領域でも生じていると考えられる。活断層の接触面には破砕帯と呼ばれる領域があるが、そこには以前の地殻変動により岩盤から崩れた小岩石が多く存在すると考えられる。このような状況の下で、破砕帯の両側の岩盤に新たな圧力が加わり始めた場合、その圧力が地震を引き起こすよりもはるかに弱い圧力であっても、まず破砕帯にある小岩石が破壊されると考えられる。この時、両側の岩盤には負の衝撃が印加されるので、それにより岩盤内にP波が伝搬する。このP波の振動で岩盤内では圧電効果により電磁波が励起され、外部に放射される。岩盤に掛かる圧力が更に増加していくと、破壊される小岩石の数も増えてきて多くの電磁波パルスが放射される可能性がある。そうして最終的には地震を引き起こす。以上が、地震発生前に観測される電磁波パルス発生の可能性を持った仮説である。電磁波観測点から西南西の約24 kmの地点で地震が発生した。それによる地震波を電磁波観測点では検出しており、地上の電磁波センサーは磁界成分を検出した。そこでこの日の観測データを精査したところ、地震発生の約7時間前に地上センサーによって一つの電磁波パルスを検出していた。この事から、地震発生の7時間前に検出した電磁波は地震の前での小岩石の破壊時に励起されたものではないかと考えられる。今後はこの種の電磁波の検出データを集め、その強度とその後に発生する地震の規模やその発生するまでの時間との関係等を定量的に調べ、統計的な時間変化の傾向を確立すれば、地震予知の実現に繋がるものと考えている。[1] Minoru Tsutsui, Behaviors of Electromagnetic Waves Directly Excited by Earthquakes, IEEE Geoscience and Remote Sensing Letters, Vol. 11, No. 11, pp. 1961-1965, 2014.

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