- 著者
-
山本 隆太
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2019年大会
- 巻号頁・発行日
- 2019-03-14
日本のジオパークでは学校教育との定期的な教育連携活動が見られる。出前講座や実験演習といった比較的一回性の教育イベントとなりやすい教育活動に対して,地域学習(郷土学習,ふるさと学習)では,年間あるいは学校修学年限(3年・6年),場合によっては学校種を横断した一貫性あるカリキュラムが構想されている地域も少なくない。近年では持続可能な開発のための教育(ESD)の進展に伴い,ESDカレンダーのような体系的な教育カリキュラムが求められており,これまでの総合的な学習に加え,各教科の横断的なカリキュラムも認められている。こうしたカリキュラムを作成するにあたっては,学年配列と学習内容のマトリクスをたたき台としながらジオパークと関連する学習内容を当てはめていくことで,見かけ上のカリキュラムを作成することが従来は可能であった。しかし,新学習指導要領の最も基本的な転換点は,PISAに象徴されるようなコンピテンシーへの能力論的な展開であるといえ,つまりは育むべき能力と位置付けられた資質・能力(コンピテンシー)と,それを受けた各教科での見方・考え方が教育活動の軸に据えられるようになる。その結果,コンピテンシーはコンテンツ(学習内容)に先んじることとなり,カリキュラムも育成すべきコンピテンシーによって再構成されていく。ただし,学校現場レベルでは移行期間としてコンテンツベースが続くことも考えられるが,その場合でも,コンテンツに準じながらもコンピテンシーを意識せざるをえない状況に迫られる。そこで本発表では,ジオパークで育まれるコンピテンシーに関して,とりわけ地域学習のカリキュラム開発に資すると考えられるシステム思考とそのコンピテンシーの理論ついて取り上げた上で,コンテンツベースからコンピテンシーベースのカリキュラムへの移行についてシステム思考の援用を具体的に論ずる。システム思考コンピテンシーは,把握対象をシステムとして捉えるのみならず,システム的な問題解決の能力として教育分野で開発されてきた。日本の新指導要領でもコンピテンシーの問題解決能力に着目しており,その意味では地域学習も問題解決能力に資する部分を明示する必要がある。そのためには,問題解決能力の全体像を示すことが前提となるが,システム思考のコンピテンシーモデルが説明モデルとして適応できる。またジオパークの特性を生かすということは,ジオパークの持つシステマティックな特性とシステミックな特性を整理した上でカリキュラム開発に寄与することといえる。その際,システマティックな特性については従来のコンテンツベースカリキュラムでカバーしきれるためいわゆる内容の読み替えが適応可能である。一方,システミックな特性についてはESDやSDGsにおいて重視されているものの学校教育では扱いきれていない部分であり,この点についてはジオストーリーが概念的に近いが,地域学習カリキュラムの開発のためには,静的で固定されたジオストーリーではなく操作可能なジオストーリーの在り方が求められることが考えられる。