著者
加納 靖之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

歴史地震の研究において,ある地震の有無(実在・非実在)や発生日時の認定は,もっとも基本的な作業といえる.しかしながら,文書の作成時から現代にいたる伝来(特に書写)の過程や,現代における解読や解釈などの各場面において,日時の取り違えが発生しうる.ここでは,規模が比較的小さい地震もふくめ,日時の取り違えのある地震を取りあげ,修正案を提示する.日時の取り違えは,次のような場合に発生すると考えられる.(1)史料そのものが違っている場合,(2)自治体史などの編集時に間違えた場合,(3)史料集の編集時に間違えた場合.(1)の史料そのものが違っている場合に該当するのは,天保二年の会津の地震である.これについては,史料が1点だけの場合,間違いの可能性に気づくことは困難である.史料の記述そのものに矛盾がないかを丁寧に検討することにより,あるいは,同じ日に複数の史料があれば,相互に矛盾がないかを検討することにより,間違いをみつけることができる可能性がある.(2)の自治体史などの編集時に間違えた場合に該当するのは,飛越地震の際の『天保一五年(弘化元年)御林山内取調箇所附帳』の扱いである.これは(1)と同様に記事そのものから間違いに気づくことは難しい.しかしながら,原史料にもどって検討できれば,記述を訂正することができ,それにより地震についての正しい情報を得られる可能性がある.(3)の史料集の編集時に間違えた場合には,宝永地震についての『南牟婁郡誌』の記事,享保の『月堂見聞集』の京都の地震,享和の畿内・名古屋の地震,文政の中部・近畿の地震,天保の佐賀の地震,善光寺地震の際の越後高田の記事が該当する.日記の省略部分を補う際に生じた年月日の取り違えが多い.本文はきちんと解読できており,場合によっては,史料集の他の部分に同文で収録されているにもかかわらず.編集の際に,いわば勘違いにより別の日付のところに入ってしまったものもあると考えられる.日付に関しては,干支でかかれることも多く,年月日との対応を確認することで間違いを防ぐことができるだろう.年月日の取り違えによって,単に発生年月日が間違って認定されるだけでなく,場合によっては実在する地震が複製されて,実在しない地震として認定されてしまうことがある.『月堂見聞集』に書かれた複数の地震や1847年2月15日の越後高田の被害のような例である.これらの間違いを放置すると,地震活動度を過大評価してしまう可能性がある.特に,無被害の中小地震もふくめた有感地震の活動度を検討するような場合,結果に大きく影響する可能性がある.

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