著者
小野﨑 晴佳 小野 貴大 飯澤 勇信 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により,膨大な量の放射性物質が環境中に放出された。大気中に放出された放射性物質の一形態として,「Csボール」と呼ばれる放射性Csを含む球状微粒子が注目を集めている。Csボールは2011年3月14日から15日にかけてつくば市内で捕集されたエアロゾル中から初めて発見され1),燃料由来の核分裂生成物を含む非水溶性のガラス状物質であることが明らかとなっている2)。近年の調査により,同様の放射性粒子が福島県内の土壌3)を始めとする様々な環境試料中に幅広く存在することが示唆されているが,東京を含む関東地方における飛散状況は明らかではない。そこで本研究では,SPM(浮遊粒子状物質)が捕集された関東地方の複数の大気汚染常時監視測定局でのテープ濾紙を試料4)として,放射性エアロゾルの分離を行い,その化学・物理的性状を非破壊で分析した。SPring-8の放射光マイクロビームX線をプローブとして,蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により粒子の化学組成を,X線吸収端近傍構造分析(SR-µ-XANES)およびX線回折分析法(SR-µ-XRD)により化学状態を調べた。 本研究でSPM濾紙試料から分離された放射性粒子は,いずれも直径1 µm前後の球形という共通した物理的性状を有していた。134Cs/137Cs放射能比(約1.0)に基づき,これらの粒子は福島第一原発2号機または3号機から放出されたと予想される。これらの性状は,先行研究1,2)で報告されたCsボールの性状とよく一致しているが,約2 µmとされるCsボールに比べて直径がやや小さい。SR-µ-XRFにより,全ての粒子から核燃料の核分裂生成物由来とも考えられる様々な重元素(Rb, Mo, Sn, Sb, Te, Cs, Ba etc.)が共通して検出され,いくつかの粒子は微量のUを含むことが明らかとなった。さらに我々は粒子から検出された4種類の金属元素(Fe,Zn,Mo,Sn)についてSR-µ-XANESから化学状態を調べたが,いずれの分析結果も高酸化数のガラス状態で存在することを示唆していた。またSR-µ-XRDからも,これらの粒子が非晶質であることが確かめられた。このように,関東地方のSPM濾紙から採取された粒子とCsボールの間に化学的・物理的性状の明確な類似性が見られたことから,我々は3月15日の時点で関東広域にCsボールと同等の放射性物質が飛来していたと結論付けた。同時にこれらの分析結果は,燃料由来の可能性があるUが事故直後の時点で関東の広い範囲にまで到達していたことを実証するものである。当日の発表では,流跡線解析による放出時間・飛散経路の推定を通じて,関東地方へのCsボールの飛散について多角的な考察を行う予定である。謝辞:SPM計テープ濾紙を提供してくださった全ての自治体に感謝します。1) K. Adachi et al.: Sci. Rep. 3, 2554 (2013).2) Y. Abe et al.: Anal. Chem. 86, 8521 (2014).3) Y. Satou et al.: Anthropocene 14, 71 (2016).4) H. Tsuruta et al.: Sci. Rep. 4, 6717 (2014).
著者
松永 康生 神田 径 高倉 伸一 小山 崇夫 齋藤 全史郎 小川 康雄 関 香織 鈴木 惇史1 4 木下 雄介 木下 貴裕
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

草津白根山は群馬県と長野県の県境に位置する標高2000mを越える活火山であり、その山頂部は2つの主要な火砕丘で構成されている。そのうち、北部に位置する白根山では、火口湖である湯釜を中心に活発な活動が観測されていることから、これまで地球化学的研究を中心に様々な研究が行われてきた。一方で、白根山の2kmほど南に位置する本白根山では、歴史時代に火山活動が観測されていないこともあり、幾つかの地質学的な研究を除いてほとんど研究されておらず、地下構造や火山熱水系については不明な点が多い。たとえば、本白根山の山麓には草津温泉、万代鉱温泉、万座温泉など湧出量が豊富な温泉が分布し、それらの放熱量は湯釜周辺からのものを大きく上回ることが知られているが、熱の供給源の位置については未だに不明である。また、本白根山は1500年前にマグマ噴火が起こったことが最近の地質学的研究で明らかにされたものの、マグマ溜まりの状態・位置についてはほとんど分かっていない。本白根山における噴火の発生可能性を議論する上でも、本白根山周辺のマグマ熱水系を解明することは重要である。そこで本研究では、白根山南麓を含む本白根山周辺の23点において広帯域MT観測を行い、地下比抵抗構造の推定を試みた。MT法は電磁気探査手法の一つであり、地下のメルトや熱水など高導電物質に敏感であるため、マグマ溜まりや熱水系の観測に適している。MT法データの3次元解析によって得られた最終モデルから、白根山から本白根山の地下1-3kmにかけて低比抵抗体が広がっていることがわかった。この上部に火山性地震の震源が分布することから、この低比抵抗体は流体に富んだ領域であり、ここから流体が浅部へと上昇し、地震を引き起こしていると考えられる。先行研究において、山麓温泉(草津温泉、万代鉱温泉、万座温泉)は、高温火山ガスと天水が混合してできた初生的な温泉水が、分別過程を経ずに湧出したものであると解釈されていること、この低比抵抗体の他に目立った火山性流体の存在領域が見られなかったことから、本研究ではこれを山麓温泉の流体供給源と考え、以下のようなモデルを提案する。(1)低比抵抗体の下深くには何らかの熱源が存在し、上部に熱と流体を供給する。(2)熱の供給を受けた低比抵抗体内の流体は山頂下へと上昇し、火山性地震を発生させる。(3)流体の一部は断層に沿って本白根山の東斜面へと上昇し、表層に変質領域を形成する。(4)この流体と天水が混同してできた温泉水は東斜面の溶岩中を流れ下り、万代鉱温泉、草津温泉として湧出する。一方、本白根山の直下では、マグマの存在を示すような特徴的な低比抵抗体は解析されなかった。しかし、現状では深部構造を詳細に議論できるほど測定・解析精度が十分ではないので、今回の解析結果からは火山直下にマグマ溜まりが存在しないと結論づけることはできない。今後、マグマ熱水系の推定精度を向上させるため、追加の観測やシミュレーションを実施していきたい。
著者
鶴田 治雄 大浦 泰嗣 海老原 充 大原 利眞 森口 祐一 中島 映至
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東電福島第一原子力発電所事故直後における大気中放射性物質の時空間分布の解明のため、大気環境常時測定局で使用されている、β線吸収法浮遊粒子状物質(SPM)計中の使用済みテープろ紙に採取された放射性セシウムの分析を、これまで東北地方南部と関東地方南部の99地点で実施して、その解析結果とデータ集を2つの論文(Tsuruta et al., Sci. Rep., 2014; Oura et al., JNRS, 2015)で公開した。その後、第一原発から約4km及び16km近傍に位置したSPM局2地点(双葉、楢葉)における事故直後のテープろ紙の提供を受け、SPM中の放射性セシウムを分析した結果の概要を報告する。まず、SPM計が東日本大震災直後も正常に作動していたかどうかを調べて慎重に検討した結果、信頼できると判断した。そこで、2011年3月12-23日(楢葉は3月14-23日)の期間、1時間連続採取されたSPM試料中のCs-134とCs-137濃度を分析した。また、これらのデータを総合的に解析するにあたり、福島県のモニタリングポスト(MP;上羽鳥、山田、繁岡、山田岡など)と第一・第二原発のMPの空間線量率、気象庁のAMeDAS地点と1000hPaの風向風速なども利用した。その結果、これまでの99地点のデータだけではわからなかった、原発近傍の大気中放射性セシウム濃度の詳細な時間変化が、初めて明らかになった。原発より北西方向に位置する双葉では、Cs-137が高濃度(>100 Bq m-3)となったピークは、3月12-13日、15-16日、18-20日に6回も測定され、その多くはプルーム/汚染気塊として、さらに北西~北方へ運ばれたことが明らかになった。また、原発より南側に位置する楢葉でも、高濃度のピークが、3月15-16日、20-21日に6回測定され、その多くは、プルーム/汚染気塊として、風下側の関東地方か福島県南部に運ばれた。これらのプルーム/汚染気塊は、これまでの論文で明らかにしたプルーム/汚染気塊と良い対応が見られたが、今回の測定で新たに見つかったものも、いくつか存在した。また、近くのMPの空間線量率のピークとCs-137濃度のピークとを比較した結果、両者のピーク時間がほぼ一致し、良い対応関係が見られた。とくに、3月12日午後3時における双葉でのCs-137の高濃度のピークは、近くのMPで期間中に最大となった空間線量率のピーク時間とよく一致し、放射性物質のFD1NPP近傍での動態が、詳細に明らかになった。謝辞:2地点のテープろ紙を提供してくださった福島県に感謝します。この研究は、文科省科研費「ISET-R」と環境省推進費「5-1501」で実施中である。
著者
加納 靖之 橋本 雄太 中西 一郎 大邑 潤三 天野 たま 久葉 智代 酒井 春乃 伊藤 和行 小田木 洋子 西川 真樹子 堀川 晴央 水島 和哉 安国 良一 山本 宗尚
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

京都大学古地震研究会では,2017年1月に「みんなで翻刻【地震史料】」を公開した(https://honkoku.org/).「みんなで翻刻」は,Web上で歴史史料を翻刻するためのアプリケーションであり,これを利用した翻刻プロジェクトである.ここで,「みんなで」は,Webでつながる人々(研究者だけでなく一般の方をふくむ)をさしており,「翻刻」は,くずし字等で書かれている史料(古文書等)を,一字ずつ活字(テキスト)に起こしていく作業のことである.古地震(歴史地震)の研究においては,伝来している史料を翻刻し,地震学的な情報(地震発生の日時や場所,規模など)を抽出するための基礎データとする.これまでに地震や地震に関わる諸現象についての記録が多数収集され,その翻刻をまとめた地震史料集(たとえば,『大日本地震史料』,『新収日本地震史料』など)が刊行され,活用されてきた.いっぽうで,過去の人々が残した膨大な文字記録のうち,活字(テキスト)になってデータとして活用しやすい状態になっている史料は,割合としてはそれほど大きくはない.未翻刻の史料に重要な情報が含まれている可能性もあるが,研究者だけですべてを翻刻するのは現実的ではない.このような状況のなか,「みんなで翻刻【地震史料】」では,翻刻の対象とする史料を,地震に関する史料とし,東京大学地震研究所図書室が所蔵する石本コレクションから,114冊を選んだ.このコレクションを利用したのは,既に画像が公開されており権利関係がはっきりしていること,部分的には翻刻され公刊されているが,全部ではないこと,システム開発にあたって手頃なボリュームであること,過去の地震や災害に関係する史料なので興味をもってもらえる可能性があること,が主な理由である.「みんなで翻刻【地震史料】」で翻刻できる史料のうち一部は,既刊の地震史料集にも翻刻が収録されている.しかし,ページ数の都合などにより省略されている部分も多い.「みんなで翻刻【地震史料】」によって,114冊の史料の全文の翻刻がそろうことにより,これまで見過ごされてきた情報を抽出できるようになる可能性がある.石本文庫には,内容の類似した史料が含まれていることが知られているが,全文の翻刻により,史料間の異同の検討などにより,これまでより正確に記載内容を理解できるようになるだろう.「みんなで翻刻」では,ブラウザ上で動作する縦書きエディタを開発・採用して,オンラインでの翻刻をスムーズにおこなう環境を構築したほか,翻刻した文字数がランキング形式で表示されるなど,楽しみながら翻刻できるような工夫をしている.また.利用者どうしが,編集履歴や掲示板機能によって,翻刻内容について議論することができる.さらに,くずし字学習支援アプリKuLAと連携している.正式公開後3週間の時点で,全史料114点中29点の翻刻がひととおり完了している.画像単位では3193枚中867枚(全体の27.2%)の翻刻がひととり完了している.総入力文字数は約70万字である.未翻刻の文書を翻刻することがプロジェクトの主たる目的である.これに加えて,Web上で活動することにより,ふだん古文書や地域の歴史,災害史などに興味をもっていない層の方々が,古地震や古災害,地域の歴史に関する情報を届けるきっかけになると考えている.謝辞:「みんなで翻刻【地震史料】」では,東京大学地震研究所所蔵の石本文庫の画像データを利用した.
著者
津島 俊介 尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本のジオパークにおいて大気圏および水圏の地球科学的事象が十分に扱われていないことを踏まえ,気象気候と水に重点を置いたジオストーリーと,それに基づくジオツアー用のガイドブックを作成した。大東諸島の気候は,地理的に太平洋高気圧の影響を受けやすいことに加え,地形による上昇流が発生しにくいこと,放射冷却による接地逆転層が形成されやすいことなど,環礁が隆起した特徴的な地形の影響も強く受ける。地表面はほぼ全てが第四系の石灰岩に覆われるため,陸面の水循環もカルスト地形に制約される。これらの大気水圏科学的な事象を,大東諸島に特有の地史と組み合わせることによって,地球科学的事象をシームレスに理解させる教材になるよう心がけた。さらに,南大東島には「南大東島地方気象台」があり,自動放球装置による高層気象観測も行われ,一般観光客の見学も多い。こうした施設をジオツアーに組み込むことは,最新の研究に直接触れることができる点で,教育的な意義も大きい。
著者
Jonny Wu John Suppe Renqu Lu Ravi V.S. Kanda
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Seismic tomography has revealed enigmatic stagnant slab anomalies under Japan, Korea and NE China (i.e. the Japan slab). The stagnant slabs flatten near the mantle transition zone around ~410 to 660 km depths and extend >2000 km westward from the NW Pacific subduction zones. The location of the outboard stagnant slabs far inland under Eurasia cannot be explained by slab rollback alone and pose a challenge to our current understanding of subducted slab dynamics, in which slabs sink vertically over time with minimal lateral motion.In this study, we use new and recently published 3D slab mapping, slab unfolding and plate reconstruction constraints (Wu et al., 2016, JGR) from MITP08 and GAP_P4 global tomography (Li et al., 2008, G3; Fukao et al., 2013, JGR). We show that the Japan stagnant slabs are best reconstructed as Pacific slabs that subducted in the Cenozoic after Pacific-Izanagi ridge subduction between 60 to 50 Ma. Mantle flow forward models reproduce our Japan slab reconstruction results (Seton et al., 2015, GRL). Our reconstruction implies the Japan slabs moved laterally westwards within the upper mantle and transition zone after subduction at near-plate tectonic rates (~2 cm/yr over 50 Ma), indicating a greater lateral mobility of slabs within the upper mantle and transition zone than previously recognized.Using our Japan slab subduction model, we re-examine the enigmatic Vityaz deep earthquakes under the Fiji Basin, which are widely thought to be a globally-unique case of seismicity within a foundered and detached slab. Our Tonga slab mapping shows the Vityaz earthquakes are actually part of a >2500 km-long mega-Wadati-Benioff zone of the northern Tonga stagnant slab. Our slab reconstruction suggests the northern Tonga slab moved laterally westward in a similar fashion to the Japan slabs, but at a faster rate of >5 cm/yr over 15 Ma within the upper ~660 km. Our results suggest that earthquakes can be produced thousands of kilometers away from a subduction zone from lateral movements of still-attached but mobile stagnant slabs within the uppermost ~660 km mantle.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本のジオパークでは,地形学的事象,特に地形プロセス学的な事象が,適切に扱われていない事例がある。火山活動や地殻変動といった内的営力の解説は正確で充実していることが多いが,風化・侵食・運搬・堆積プロセスといった外的営力の解説が正確になされていることは少ない。また,現代の地形学では認めがたい古典的すぎる解説がなされている場合も散見される。それらの問題は,ジオパークに限らず,地形学のアウトリーチ全般に共通する可能性もあり,専門家は正しい知見の普及に努めなければならない。発表では,NHK総合「ブラタモリ」における,地すべり地形(#32沖縄・首里)および隆起準平原(#67奄美の森)を事例に,地形学的事象の解説手法について報告・議論したい。
著者
熊本 雄一郎 青山 道夫 濱島 靖典 岡 英太郎 村田 昌彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日に発生した巨大地震とそれに引き続く大津波は、福島第一原子力発電所(FNPP1)の核燃料露出と炉心損傷を引き起こした。その結果、多くの放射性セシウム(134Csと137Cs)がFNPP1より漏えいし北太平洋に放出された。これまでの観測研究によって、日本近海の北太平洋に大気沈着および直接流出した放射性セシウムは北太平洋海流に沿って中緯度表層を東に移行しつつあることが明らかにされた(Kumamoto et al., 2016)。また、黒潮・黒潮続流の南側に大気沈着した放射性セシウムは亜熱帯モード水の亜表層への沈み込みによって、2014年末までに西部亜熱帯域のほぼ南端に相当する北緯15度まで南下したことが確認されている(Kumamoto et al., 2017)。一方、2011年から2015年の約4年余の間、北海道西部、新潟、石川、福井、島根、佐賀、鹿児島、愛媛、静岡県の各原子力発電所の沿岸域では、海水中放射性セシウムの継続な濃度上昇が確認されている(規制庁, 2016)。また、Aoyama et al.(2017)も2015/2016年に同沿岸海域における表面水中濃度の上昇を報告している。放射性セシウム濃度の上昇が観測された海域は黒潮系水の影響が比較的大きい沿岸海域であり、これらの結果はFNPP1事故で西部亜熱帯域全体に拡がった放射性セシウムが、時計回りの亜熱帯循環流によって日本沿岸に回帰していることを暗示している。しかしながら、西部亜熱帯循環域におけるFNPP1事故起源放射性セシウムの時空間変動は明らかではない。我々は2015年および2016年に黒潮・黒潮続流南側の西部亜熱帯域において、表面から深度約800mまでの海水中溶存放射性セシウムの濃度を測定したのでその結果を報告する。海水試料は、新青丸KS15-14(2015年10月)、白鳳丸KH16-03(2016年6月)、および「かいめい」KM16-08(2016年9月)の各観測航海において、バケツ及びニスキン採水器を用いて各10~20リットルを採取された。陸上の実験室(海洋研究開発機構むつ研究所)において硝酸酸性にした後、海水中の放射性セシウムをリンモリブデン酸アンモニウム共沈法によって濃縮し、ゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウムの濃度を測定した。濃縮前処理と測定を通じて得られた分析の不確かさは、約8%であった。北緯30-32度/東経144-147度で得られた134Cs濃度(FNPP1事故時に放射壊変補正済)の鉛直分布を、同海域において2014年に得られたそれ(Kumamoto et al., 2017)と比較した。その結果、深度100m程度までの表面混合層においては、2014年には約1 Bq/m3であった134Cs濃度が、2015/2016年には1.5-2.5 Bq/m3に増加したことが分かった。一方、深度300-400mの亜表層極大層におけるその濃度は、2014年から2016年の3回の観測を通じてほとんど変化していなかった(約3-4 Bq/m3)。この134Cs濃度の亜表層極大層は、亜熱帯モード水の密度層とよく一致していた。一方、同じく黒潮続流南側の北緯34度/東経147-150度における放射壊変補正済134Cs濃度は、2012年から2014年の約3年間に、表面混合層では検出下限値以下(約0.1 Bq/m3)から約1 Bq/m3に増加し、亜表層の300-400mでは約16 Bq/m3から約3-4 Bq/m3に低下したことが報告されている(Kumamoto et al., 2017)。これらの観測結果は、FNPP1事故から5年以上が経過した2016年までに、亜熱帯モード水によって南方に輸送されたFNPP1事故起源の放射性セシウムが同モード水の時計回りの循環によって、日本南方の西部亜熱帯域北部に回帰してきたことを強く示唆している。その他の起源(例えば陸水)の影響が小さいと仮定できるならば、表面混合層における2012年から2016年の間の134Cs濃度上昇(0.1 Bq/m3以下から1.5-2.5 Bq/m3)は、亜表層極大の高濃度水がentrainmentによって表面水に取り込まれたためと推測される。講演では、日本沿岸域の2015/2016年の観測結果速報も報告する予定である。この本研究はJSPS科研費24110004の助成を受けた。
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

地球惑星科学に関する教育内容は,教科間・科目間,また同一の教科内・科目内でも教科書間で用語や解説内容が異なっている場合がある。加えて,地球惑星科学の成果が適切に反映されていない内容も散見される。将来の地球惑星科学教育をよりよいものにするためには,日本における地球惑星科学と学校教育との関係を議論することが必要である。
著者
前澤 裕之 松本 怜 西田 侑嗣 青木 亮輔 真鍋 武嗣 笠井 康子 Larsson Richard 黒田 剛史 落合 智 和地 瞭良 高橋 亮平 阪上 遼 中須賀 真一 西堀 俊幸 佐川 英夫 中川 広務 笠羽 康正 今村 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

近年、火星では赤外望遠鏡やキュリオシティなどによりメタンが検出され、その起源については、生物の可能性も含めた活発な議論が展開されている。また、2010年には、ハーシェル宇宙望遠鏡に搭載されたHeterodyne Instrument for the Far Infrared(HIFI)により、低高度で酸素分子の濃度が増加する様子が捉えられ謎を呼んでいる。系外惑星のバイオマーカーの挙動を探る上でも、こうした分子の変動を大気化学反応ネットワークの観点から詳細理解することが喫緊の課題となっている。現在、東京大学航空工学研究科の中須賀研究チームが火星への超小型深宇宙探査機/着陸機の検討を進めており、我々はこれに搭載可能な簡易なTHz帯のヘテロダイン分光システムの開発検討を進めている。火星大気の突入速度とのトレードオフの関係から超小型衛星に搭載できる重量に制限があるため、現時点で観測周波数帯は450 GHz帯、750 GHz帯の2系統で検討しており、地球の地上望遠鏡からでは地球大気のコンタミにより観測が難しいO2やH2O,O3や関連分子、それらの同位体の同時観測を見据えている。これにより、昼夜や季節変動に伴う大気の酸化反応素過程に迫る予定である。これらの分子の放射輸送計算も実施し、バージニアダイオード社の常温のショットキーバリアダイオードミクサ受信機(等価雑音温度:4000 K)、分光計にはマックスプランク研究所が開発したチャープ型分光計(帯域1GHz)を採用することで、火星の地上から十分なS/Nのスペクトルが得られる見込みである。重量制限から追尾アンテナなどは搭載せず、ランダーではホーンアンテナによる直上観測を想定している。着陸はメタン発生地域近傍の低緯度の平原を検討中であるが、現時点ではまだランダーとオービターの両方の可能性が残されている。ランダーによる観測の場合は、off点が存在しないため、通常のChopper wheel法による強度較正が行えない。そこで、局部発振源による周波数スイッチと、2つの温度の黒体/calibratorを用いた較正手法を検討している。システムを開発していく上でPlanetary protectionも慎重に進めていく必要がある。本講演では、これら一連のミッションの検討状況について報告する。システムや熱設計の詳細は、本学会において松本他がポスターにて検討状況を報告する。
著者
小山 真人 早川 由紀夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1986年噴火は、地層として残る降下スコリアをカルデラ外に降らせたこと、カルデラ外で側噴火を起こしたこと、の2点で過去の伊豆大島の「大噴火」(Nakamura,1964,地震研彙報)と類似し、1986年と同程度の噴出量であった1912〜14年噴火や1950〜51年噴火とは異なっている。しかしながら、数年間にわたって継続的に火山灰を降らせる時期(火山灰期)がないこと、総噴出量が大噴火にしては小さいこと、の2点で過去の大噴火と異なっていたため、これらの欠損条件を満たすためにやがて火山灰期が始まると当初は予想された。ところが1987年11月18日の噴火をきっかけに火口直下のマグマはマグマ溜りに戻り(井田ほか,1988,地震研彙報)、 火山灰期は訪れなかった。1986年噴火は、カルデラ形成以降の過去1500年間に一度も起きたことのない特殊な噴火だったのか、それとも前提となる大噴火の概念に問題があるのか、の疑問が残された。その後、伊豆大島のカルデラ外に地層として確認できるテフラとそれを挟む噴火休止期堆積物の層序と分布を注意深く検討した小山・早川(1996,地学雑誌)は、明瞭な噴火休止期間に隔てられた24回の中〜大規模噴火を識別した上で、降下スコリアと降下火山灰の両方をともなう12噴火(Type 1)、降下スコリアのみをともなう7噴火(Type 2)、降下火山灰のみをともなう5噴火(Type 3)、の3類型に分類した。Type 1には噴出量1億トン以上の大規模な噴火が多く、1986年噴火はType 2のひとつである。また、Nakamura (1964)の提唱した降下スコリア→溶岩流出→火山灰期の噴火サイクルを厳密に満たす噴火は、Type 1の12噴火中の7つにすぎないこともわかった。こうして1986年噴火が伊豆大島の噴火史上とりたてて特殊な噴火でないことが明らかとなったが、肝心の噴火類型の成因は未解明のままであった。また、先述した1912〜14年噴火や1950〜51年噴火などの非爆発的な小〜中規模噴火の位置づけも十分できていなかった。中村 (1978,岩波新書)は、1)噴火末期に主火道内のマグマ頭位が低下すると、火道壁の崩落などでマグマ頭部のガス抜けが阻害されるために爆発的噴火が繰り返して火山灰を放出する火山灰期となり、2)さらにマグマ頭位が低下する場合には、火道内に地下水が浸入して水蒸気マグマ噴火が起きると考えた。噴火末期にマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞する場合には火山灰期が訪れるだろうが、すみやかに地下深部へ低下してしまえば火山灰期がないまま噴火が終了するだろう。主火道のマグマ頭位をすみやかに低下させる原因としては、側方へのマグマ貫入が考えやすい。貫入から約1年のタイムラグはあったが、実際にそれが起きたのが1986-87年噴火と考えることができる。三宅島2000年噴火でも、マグマの側方貫入によって主火道のマグマ頭位が約2ヶ月間かけて低下し、その後8月18日や29日の爆発的噴火が生じたが、火山灰期に相当する噴火は起きずに噴火が終了した。一方、カルデラ外に堆積物が確認できない1876年から1974年までの伊豆大島の一連の小〜中規模噴火は、全般的にマグマ頭位が高かった期間(火道内の赤熱したマグマ頭部が断続的に目視された期間)に発生した。この視点にもとづいて、カルデラ外に堆積物を残さなかった小規模噴火も含む伊豆大島の噴火の特徴とその成因を、統一的に次の5類型に再分類することができる。すなわち、(1)マグマ頭位が高い時期に生じた非爆発的な小〜中規模噴火(1974年、1950-51年など:旧類型の対象外)、(2)マグマの側方貫入が起きず、マグマ頭位低下が緩慢かつ限定的であったため短い火山灰期が生じた5つの中規模噴火(Y0.8、Y3.8、N3.0など:旧類型のType 3)、(3)マグマの側方貫入が起きてマグマ頭位低下がすみやかに進行したため火山灰期が生じなかった7つの中規模噴火(1986年、Y5.2、N3.2など:旧類型のType 2)、(4)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞して長い火山灰期が生じた9つの中〜大規模噴火(1777-78年=Y1.0、Y4.0、N4.0など:旧類型のType 1)、(5)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に地下水位付近で停滞し、大量の地下水浸入にともなう水蒸気マグマ爆発や岩屑なだれが生じた3つの中〜大規模噴火(S1.0、S1.5、S2.0:旧類型のType 1)。
著者
西岡 拓哉 北 和之 林 奈穂 佐藤 武尊 五十嵐 康人 足立 光司 財前 祐二 豊田 栄 山田 桂太 吉田 尚弘 牧 輝弥 石塚 正秀 二宮 和彦 篠原 厚 大河内 博 阿部 善也 中井 泉 川島 洋人 古川 純 羽田野 祐子 恩田 裕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

背景・目的東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、原子炉施設から多量の放射性物質が周辺地域に飛散・拡散し土壌や植生に沈着した。地表に沈着した放射性核種が今後どのように移行するか定量的に理解していくことが、モデル等により今後の推移を理解する上で重要である。重要な移行経路の一つとして地表から大気への再飛散がある。我々のグループのこれまでの観測で、山間部にある高線量地域では、夏季に大気中の放射性セシウムが増加していることが明らかになっている。夏季の森林生態系からの放射性セシウム再飛散過程を明らかにすることが本研究の目的である。観測2012年12月より浪江町下津島地区グラウンドにおいて約10台のハイボリュームエアサンプラーによって大気エアロゾルを高時間分解能でサンプリングし、Ge検出器で放射能濃度を測定している。この大気エアロゾルサンプルの一部を取り出し化学分析及び顕微鏡観察を行っている。2015年よりグラウンドおよび林内で、バイオエアロゾルサンプリングを月に1-2回程度実施している。また、感雨センサーを用い、降水時・非降水時に分けたサンプリングも行っている。200mくらい離れた林内でも同様の観測を行っている。さらに、パッシブサンプラーによる放射性核種の沈着フラックスを測定するとともに、土壌水分と風速など気象要素を自動気象ステーション(AWS)にて、エアロゾル粒子の粒径別濃度を電子式陰圧インパクタ(Electric Low-Pressure Impactor, ELPI)、黒色炭素エアロゾル濃度および硫酸エアロゾル濃度をそれぞれブラックカーボンモニタおよびサルフェートモニタにて連続的に測定している。結果と考察2015年夏季に行った観測と、そのサンプルのSEM-EDS分析により、夏季の大気セシウム放射能濃度は炭素質粒子濃度と正相関していることが分かった。夏季には粒径5μm程度の炭素質粒子が多く、バイオエアゾルサンプリングとその分析の結果、真菌類の胞子、特にキノコが主な担子菌類胞子が多数を占めていることが分かった。但し、降水中には、カビが多い子嚢菌類胞子がむしろ多い。大気粒子サンプルの抽出実験を行った結果、夏季には放射性セシウムの半分以上が純水で抽出される形態(水溶性あるいは水溶性物質で付着した微小粒子)であることもわかった。そこで、2016年夏季には、大気粒子サンプル中の真菌類胞子の数密度と大気放射能濃度の関係を調べるとともに、キノコを採取してその胞子の放射能濃度を測定して、大気放射能濃度が説明できるか、また大気粒子サンプルと同様に、半分程度の純水抽出性を持つか調べた。その結果、大気放射能濃度と胞子と思われる粒子の個数とは明瞭な正相関を示し、降水時には子嚢菌類が増加することが示された。また、採取したキノコ胞子の放射性セシウムは、半分以上純水で抽出され、大気粒子サンプルと同様に性質を示すこともわかった。但し、採取した胞子は放射能は高いものの、それだけで大気放射能を説明できない可能性がある。
著者
箕輪 はるか 北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 二宮 和彦 稲井 優希 大槻 勤 木野 康志 小荒井 一真 齊藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 高宮 幸一 竹内 幸生 土井 妙子 上杉 正樹 遠藤 暁 奥村 真吾 小野 貴大 小野崎 晴佳 勝見 尚也 神田 晃充 グエン タットタン 久保 謙哉 金野 俊太郎 鈴木 杏菜 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 髙橋 賢臣 竹中 聡汰 張 子見 中井 泉 中村 駿介 南部 明弘 西山 雄大 西山 純平 福田 大輔 藤井 健悟 藤田 将史 宮澤 直希 村野井 友 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 山守 航平 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【はじめに】日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした研究グループにより、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の陸域での大規模な調査が2011年6月に実施された。事故より5年が経過した2016年、その調査結果をふまえ放射性物質の移行過程の解明および現在の汚染状況の把握を目的として本研究プロジェクトを実施した。2016年6月から9月にかけて、のべ9日間176名により、帰還困難区域を中心とする福島第一原子力発電所近傍105箇所において、空間線量率の測定および土壌の採取を行った。プロジェクトの概要については別の講演にて報告するが、本講演では福島県双葉郡大熊町・双葉町の土壌中の放射性セシウム134Csおよび137Csのインベントリ、土壌深部への移行、134Cs/137Cs濃度比、また空間線量率との相関についての評価を報告する。【試料と測定】2016年6・7月に福島県双葉郡大熊町・双葉町の帰還困難区域内で未除染の公共施設36地点から深さ5 cm表層土壌を各地点5試料ずつ採取した。試料は深さ0-2.5 cmと2.5-5 cmの二つに分割し、乾燥処理後U8容器に充填し、Ge半導体検出器を用いてγ線スペクトルを測定し、放射性物質を定量した。【結果と考察】137Csのインベントリを航空機による空間線量率の地図に重ねたプロットを図1に示す。最大濃度はインベントリで137Csが68400kBq/m2、比放射能で1180kBq/kg・dryであった。インベントリは空間線量率との明確な相関がみられた。深部土壌(深さ2.5-5.0 cm)放射能/浅部土壌(深さ0-2.5 cm)放射能の比はおおむね1以下で表層の値の高い試料が多かったが、試料ごとの差が大きかった。また原子力発電所より北北西方向に134Cs/137Cs濃度比が0.87-0.93と明確に低い値を持つ地点が存在した。
著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

小山(2017,科学)は、かつて箱根火山防災マップ作成検討委員会委員をつとめた外部専門家の立場から、箱根山の火山防災に関連した歴史をふりかえるとともに、2015年噴火への当事者や社会の対応を記録し、気づいた点を論じた。本講演では、そのエッセンスを紹介するとともに、紙数の関係で書けなかった総括的な考察と評価をおこなう。箱根火山の2015年噴火はごく小規模であったが、過去3000年間に5度生じたことが知られる本格的な水蒸気噴火に発展する可能性も十分あった。箱根町火山防災マップ(2004年)は、こうした水蒸気噴火による火山弾・火山礫の飛散や火砕サージ・熱泥流の発生を想定し、それらの危険範囲を描いている。その後、2008年の噴火警戒レベル導入にともなって設立された箱根火山対策連絡会議(後の箱根火山防災協議会)は、箱根町火山防災マップをベースとして噴火警戒レベルの各段階での規制範囲を定め、大涌谷地区の避難計画も事前に作成していた。つまり、防災対応システムの大枠が事前にできていた(間に合った)ことと、幸運にも次の3つの自然的要因が重なったために、2015年噴火に対する緊急対応の成功に至ったと評価できる。(1) 噴気異常の発生(5月3日)から噴火開始(6月29日)までの時間が長く、噴火自体も2日程度の短期間で終了したこと(2) 発生した水蒸気噴火の噴出量は100トン程度とごく小規模、噴火に付随した熱泥流もごく小規模、爆発力も弱く火山弾や火山礫の飛散は火口近傍に限られ、火砕サージも発生しなかったこと(3) マグマ噴火に発展しなかったことしかしながら、20世紀初めから2015年噴火に至る箱根山の火山防災にかかわる歴史を振り返ると、2015年時点の防災体制を構築するまでにはいくつかの岐路があり、各時点でプラスに働いた(かもしれない)社会的要因とマイナスに働いた(かもしれない)社会的要因を挙げることができる。プラスに働いた(働いたかもしれない)社会的要因としては、(1) 大涌谷の蒸気井と温泉供給会社の存在と活動(2) 箱根町と火山学会との連携、ならびに大涌谷自然科学館の設置と活動(3) 地元の火山観測・研究機関(神奈川県温泉地学研究所)の存在と活動(4) 2001年群発地震・噴気異常の経験とその教訓(5) 箱根火山の噴火史、とくに大涌谷付近での水蒸気噴火の履歴に関する研究成果の蓄積(6) 群発地震・噴気異常の発生シナリオ・メカニズムについての学術的知見(7) 箱根町火山防災マップの作成とその過程で得られた教訓(8) 噴火警戒レベルの導入とそれにともなう箱根火山対策連絡会議の設置と活動(9) 箱根火山防災協議会(現・箱根山火山防災協議会)の設置と活動(10) 箱根ジオパークの設置とその普及・啓発活動の10項目が挙げられる。また、マイナスに働いた(働いたかもしれない)社会的要因としては、(1) 開発された温泉観光地ゆえのリスク情報公開への躊躇(2) 大涌谷自然科学館の閉館(3) 箱根町火山防災マップ作成過程での噴火想定の限定(マグマ噴火ならびに大涌谷周辺以外の火口を想定せず)(4) 噴火警戒レベル判定基準への固執(レベル2へ上げる判断の遅れ)(5) リスク情報(危険範囲、火山ガス濃度)共有の部分的失敗(6) 噴火シナリオ(および各シナリオの確率推定)の不在(7) 噴火認定の失敗(噴火警戒レベル3へ上げる判断の遅れ)(8) 不透明な意思決定(9) 地元行政・経済への過度の忖度(10) 政治家の不当な介入(11) ジオパークとの連携不十分の11項目を挙げることができるだろう。箱根山2015年噴火の緊急対応「成功」の影には、上記した自然的要因の幸運の上に、過去数十年間にわたって上記のプラス要因をうまく利用し、危ない橋を渡りつつもマイナス要因を抑制してきた当事者たちのたゆまぬ努力があったと認識できる。
著者
榎戸 輝揚 和田 有希 古田 禄大 湯浅 孝行 中澤 知洋 中野 俊男 土屋 晴文 鴨川 仁 米徳 大輔 澤野 達哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本海沿岸の冬季雷雲からは 10 MeV に達するガンマ線が観測されてきた(Torii et al., 2002, Tsuchiya & Enoto et al., 2007)。これは、雷雲内の強電場により電子が相対論的な領域まで加速され放射される制動放射ガンマ線と考えられている。これまでの観測では単地点が多く、現象の生成・成長・消失の追跡は難しかった。そこで我々は、雷雲の流れに沿ってマッピング観測を行うことで、放射の始まりと終わりを確実に捉え、ガンマ線強度やスペクトル変化を測定し、雷雲内で生じる物理現象の全貌を明らかにすることを狙っている。2016年度は、小型コンピュータ Raspberry Pi で読み出せる小型で安価な FPGA/ADC ボードの開発と BGO シンチレータの主検出部や専用読み出し回路基板を組み合わせて標準観測モジュールを作成し、石川県の高校や大学の屋上に設置して観測を開始した(和田ほか JpGU M-IS18 の発表を参照)。2016年12月8日から9日にかけて、金沢-小松の4地点で雷雲ガンマ線を検出したのを皮切りに、複数のイベントを捉えている。本講演では、私たちが進めている多地点ガンマ線観測の現状と、今後、そこからアプローチできる雷雲内の物理現象の理解について紹介したい。
著者
牧野 莉央
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

2016年4月14日21時26分に熊本県熊本地方でM(マグニチュード)6.5の地震が発生し、震度7が記録された。その後の余震活動に続いて16日1時25分には、より大きいM7.3のイベントが発生し、熊本県周辺の狭い範囲で地震が続いた。このような狭い地域に引き続いて起こる大きな地震に興味をもち、実験で類似する現象の再現を試みた。実験では高野豆腐などの試料を万力で加圧し、発生する破壊音を記録する。そしてその音を地震ととらえて波形を解析し、大きさと発生した時間を数値化した。その結果、スナック菓子のハッピーターンによる試行で「平成28年熊本地震」の地震活動に最も似た現象が見られた。このデータから求めたグーテンベルク=リヒターの式による解析結果について考察を加えて報告する。
著者
萬年 一剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

現行の降下火山灰のシミュレーションコードは、いずれも火口から垂直に上昇する噴煙柱を仮定している。この仮定はシンプルではあるが、実際の噴煙柱は風の影響を受けて曲がり、その効果は弱い噴煙ほど大きい。このため、どちらかと言えば弱い噴煙を対象としている現行の移流拡散モデルでは、強い風の環境下で発生した噴火における降下火山灰の分布を再現できない。広く利用されている移流拡散モデルに基づく降下テフラシミュレーションコードTephra2もその例外ではない。 最近、風による噴煙柱の曲がり方の定式化が試みられてきている。今回、Woodhouse et al. (2013)に基づき、風の影響を取り入れた改造版Tephra2(仮称Windy Tephra; wt)を開発したので報告する。 Woodhouse et al. (2013)では、風がある環境下で、噴煙中心の座標、噴煙の径、上昇速度、温度などを計算できる。一方、Tephra2では粒度別、噴煙高度別に、地表における分布中心の座標が計算される。wtはWoodhouse et al. (2013)による各高度の噴出中心の座標に、オリジナルのTephra2で計算される落下開始地点を原点とした分布中心の座標を足して、地表における分布中心の座標を求めた。また、Tephra2では地表における粒子の拡がりは、噴煙径と落下中の拡散の和として表現されるが、wtではこの噴煙径をWoodhouse et al. (2013)のものにした。 発表では新燃岳2011年噴火を例に、実際の堆積物分布とwtにより計算された堆積物分布の比較検討を行う。
著者
福原 絃太 谷岡 勇市郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1611年慶長津波地震は、1896年明治三陸津波地震の1つ前の津波地震として知られている。この地震の震度は4程度であり、津波の高さが高い所で30m程度あったとの歴史史料から津波地震であったとされている。さらに津波は本震の4時間程度後に襲っており、大きな津波は余震(最大震度3程度)により発生したとされている。しかし、この津波被害を記述した歴史史料の中には信頼性が低いとされているものも多く存在するとされてきた。最近になり、蝦名・高橋(2014)や蝦名・今井(2014)により歴史史料が精査され、信頼度の高い歴史史料のデータセットが作成された。そこで本研究では、蝦名・今井(2014)の歴史史料データを全て説明できる1611年慶長三陸津波地震の最適断層モデルの推定を試みる。まず、1611年の歴史史料データと2011年東北地方太平洋沖地震津波で調査された浸水域を比較すると1611年慶長津波の浸水域は2011年東北地方太平洋沖津波の浸水域と同程度または上回っていることが分かった。特に岩手県宮古や岩手県小谷鳥,宮城県岩沼では1611年の方が内陸まで浸水していることがわかった.このことから1611年慶長津波地震は2011年東北地方太平洋沖地震と同程度またはそれ以上の規模であったと考えられる.次に断層モデルによる津波遡上計算を実施し、歴史史料の記述との整合性を比較する。断層の傾斜角とすべり角はプレート境界型地震を仮定し、10度および90度とした。また、津波地震であったことを考え断層は日本海溝まで達するとした。津波の数値計算は震源域を含む広域では線形長波近似を用いて水平方向30秒格子間隔で実施した。さらに、歴史史料(蝦名・今井2014)の存在する地点を全て含む6つの地域では津波遡上計算を実施した。遡上計算実施地域は30m格子間隔を用いた。津波痕跡分布から断層の位置と長さを推定するために1枚の矩形断層を仮定し,津波の線形長波計算を行いおおよその断層位置と長さを推定した.その後,津波痕跡データがある6つの地域において津波浸水計算を行い,用いたデータすべてを説明できるモデルを推定した.その結果,長さ250km,幅100km,すべり量80mが必要であることが分かった(Mw9.1).しかし、この断層モデルでは仙台平野において、浸水範囲が過大評価になっていることが分かった.そこで,断層を長さ100kmの北部と150kmの南部の2枚の矩形断層に分け、最適のすべり量を推定した。その結果,北部のすべり量は80mのままで、南部の断層のすべり量は40m程度で歴史史料と整合的な結果を得ることができた。その結果から推定された1611年慶長三陸津波地震のMwは9.0となった。上記の結果を2011年東北地方太平洋沖地震のすべり量分布と比較すると、今回80mの大すべりが推定された北部の断層は2011年東北地震ではすべっていないことが分かった。しかし、今回40mのすべりが推定された南部の断層は、2011年東北地震により大きくすべった場所と一致することが分かった。つまり、1611年慶長三陸津波地震で大きくすべった場所が2011年東北地方太平洋沖地震で再びすべったこととなる。さらに、869年貞観地震によりすべった場所が742年後に1611年慶長三陸津波地震ですべり、400年後に2011年東北地方太平洋沖地震によりすべったこととなる。太平洋プレートのこの地域での収束速度は1年間に約9cmであることを考えると742年後に60m程度すべる巨大地震が発生することは可能であり、1611年慶長三陸津波地震での40mのすべりは十分可能と思われる。さらに400年後には36mすべることが可能となるが2011年東地方太平洋沖地震の最大すべりは50m程度であり、少し大きすぎる。しかし、1611年慶長地震は津波地震であることなどから2つの巨大地震の詳細なすべり量分布が違っていると考えれば説明可能かもしれない。 参考文献蝦名裕一・今井健太郎,2014,史料や伝承に基づく1611年慶長奥州地震の津波痕跡調査,津波工学研究報告,第31号,p139-148蝦名裕一・高橋裕史,2014,『ビスカイノ報告』における1611年慶長奥州地震津波の記述について,歴史地震,第29号,p195-207
著者
寺田 健太郎 横田 勝一郎 斎藤 義文 北村 成寿 浅村 和史 西野 真木
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

Oxygen, the most abundant element of Earth and Moon, is a key element to understand the various processes in the Solar system, since it behaves not only as gaseous phase but also as the solid phase (silicates). Here, we report observations from the Japanese spacecraft Kaguya of significant 1-10 keV O+ ions only when the Moon was in the Earth’s plasma sheet. Considering the valence and energy of observed ions, we conclude that terrestrial oxygen has been transported to the Moon from the Earth’s upper atmosphere (at least 2.6 x 104 ions cm-2 sec-1). This new finding could be a clue to understand the complicated fractionation of oxygen isotopic composition of the very surface of lunar regolith (particularly the provenance of a 16O-poor component), which has been a big issue in the Earth and Planetary science.
著者
鶴田 拓真 冨田 悠登 石川 智也 Gusman Aditya 鴨川 仁
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

M7以上クラスの地震に伴う津波発生後約9分以降に津波源の赤道方向にTEC上昇が見られたのち、津波電離圏ホールと呼ばれるTEC減少がおきる。2011年M9東北地方退避栄養沖の場合、23分後に津波電離圏ホールが最大規模となった。津波電離圏ホールにおけるTEC最大減少率のは最大初期津波高と相関があることが知られている [Kamogawa et al., Scientific Reports, 2016]。津波電離圏ホールは津波発生領域をおおまかに示していることから、TECのリアルタイム空間観測で早期津波予測が期待できる。一方、TIHの前には、津波発生領域の赤道方向に、TEC上昇がみられる。本研究では、この初期TEC上昇率と最大初期津波高には相関がみられることを示した。この初期TEC上昇はマグニチュードに関わらず約10分で最大に達することから電離圏ホール検知前の情報でも簡易的な早期津波予測が可能とみられる。