著者
森田 裕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1.はじめに 前回の1986年噴火から30年経過した伊豆大島は,1990年代後半から山体の膨張が始まり,現在も続いている.長期的なマグマ蓄積により,次の噴火の準備を行っていることが明らかである.一般に,このようにマグマの蓄積が進んでいる等の情報に基づく噴火の時期の予測が極めてあいまいな長期的な予測と,噴火直前に起こる極めて多数の地震発生,大振幅の火山性微動,大きな地盤変動の観測に基づき数時間から数分後に火山噴火が切迫していることを知る直前予測は比較的容易である場合が多い.しかし,防災対策上もっとも有用な数年から数ヶ月先の噴火活動を予測する中期的な予測は容易ではない.これまでの中期的な予測は,過去の噴火前に観測された事象が順を追って起こることを追認することで行われるが,噴火に至る過程の理解なしに行えば,過去と少し異なる噴火が発生したときには全く機能しない.つまり,次回の伊豆大島の噴火で大事なことは,過去の噴火事象を踏まえつつ,新たに視点に立って噴火に至る現象を把握することが何よりも大切であろう.2.温故:過去から学ぶもの 前回1986年の伊豆大島噴火の明瞭な前兆としていくつかの観測事実が報告されている.このうち噴火前兆として最も信頼できるのは,全磁力と電気伝導度の変化,火口内の熱異常,火山性微動の観測であろう.全磁力の変化は,約4年前から始まり1989年初頭から加速した.また,同時期に山頂火口を挟む浅部で電気伝導度が大きく変化した.噴火の約3ヶ月前から山頂火口内の熱異常域の拡大が見られた.火山性微動は噴火の4ヶ月前から始まり,最初は間歇的であったが,噴火の1ヶ月前から連続微動となり,徐々に振幅が大きくなり,11月15日の噴火直前には急激に大きくなった.これらのことから考えられることは,マグマに先行してマグマ溜まりから大量の高温の揮発性成分・火山ガスが上昇し,浅部の岩盤や地下水を温めた結果が観測されたと考えられる.1986年11月15日の噴火は穏やかな噴火であり,脱ガスが進んだマグマが上昇してきたと考えられるので,このような前兆現象が観測されたことと整合する.マグマに先行する揮発性成分の捕捉は,火山噴火の中期的な予測に有力であるが,全磁力の変化,火山性微動の発生までわからないのであろうか.3.知新:過去の知識から新たな視点で見るもの 揮発性成分の上昇は,火山ガスの観測などから見つかるかもしれない.しかし,測定点の依存性が大きく,全体像をつかむには広域かつ組織的な観測が不可欠であろう.別の手法として,火山性地震活動度と地盤変動,地殻応力の関係に注目した解析がある.著者は伊豆大島のカルデラ内浅部で発生する地震活動は,揮発性成分・火山ガスの上昇を捉えられる可能性を指摘してきた.地震活動は山体膨張・収縮を作るマグマ溜まりの応力変化に極めて良い対応がある.また,2011年頃からは地盤変動に比べ相対的に地震活動度が上昇していること,2013年ころからは地震活動が潮汐との相関がみられるようになったことを明らかにしてきた(「活動的火山」のセッションで発表予定).これらはすべて地震断層面の間隙圧が上昇している可能性を示唆している.最も考えられるのは,マグマ溜まりから揮発性成分の上昇が既に始まっていることを示している可能性である.揮発性成分が噴火前に大量にマグマから放出されていたら,噴火の爆発性が弱まることが知られている.このように,揮発性成分の放出は噴火様式を予測するうえでも極めて重要である.今後,次の噴火まで,地震活動のパターン変化と今後発現するであろう全磁力変化,電気伝導度変化,火山性微動の発生との関係が明らかになれば,噴火予測の高度化に役立つであろう.

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