著者
垣花 泰之
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

感染などに伴う過剰な生体侵襲は全身性の炎症反応を惹起するが、これにはToll様受容体(TLR)というパターン認識受容体が関与しており、活性化されるとアダプタータンパクが集まり、次いで間髪入れず数多のプロテインキナーゼが活性化される。最終的に細胞のシグナル伝達によって炎症の制御に関わる様々な遺伝子が発現し、炎症促進サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの産生が増える。Thomasらは、「敗血症による死亡や合併症の要因として最も重視すべきなのは微生物というよりも宿主反応である」という説を提唱した。TNF-αやIL-1βをはじめとする多くの炎症性サイトカインが敗血症患者で増えていることや、動物に投与すると敗血症患者で見られる臨床症状を再現できること、循環血液中のTNF-α濃度の上昇幅が大きいほど死亡率が高いことも、その説の信憑性を裏付けるものと考えられた。Thomasらが提唱した、「制御を失った過剰な炎症亢進状態が、臓器不全の原因である」との理解の基に、敗血症でみられる過剰な炎症反応の流れを断ち切る、あるいはメディエータを中和するための薬剤(TNF-α拮抗薬、IL-1拮抗薬、TLR4拮抗薬など)が開発され臨床試験が行われたが、いずれも有効性を示せなかった。つまり、TLR受容体は外来微生物に攻撃されたことを早期に認識するための受容体であり、炎症性サイトカインは速やかに防御反応を立ち上げるためのメディエータであることを考慮するならば、いくら過剰な炎症反応が宿主側にとって脅威を与えるものであったとしても、外来微生物の侵入に対して生体を守るために備わっている監視レーダーの機能を停止させ、情報伝達手段を破棄するような戦略ではとうてい勝ち目はないということであろう。敗血症性ショックにおける心機能障害のメカニズムには、β受容体のダウンレギュレーション、シグナル伝達系の異常、筋小胞体からのCa2+の放出障害、ミトコンドリアの傷害などが報告されている。敗血症において、接着分子やケモカインは、肺に好中球を捕捉し、活性化することでARDSを発症する。敗血症患者の多くは、初期の過剰な炎症期を乗り切るが、遷延するに伴い免疫抑制状態に陥り予後が悪化する。患者の免疫能を高めることで、病原体に打ち勝ち、新規感染の発症が予防できるため、臓器不全の回避、生存率の向上が期待できるのかもしれない。今回の講演では、敗血症で惹起される多臓器障害のメカニズムを、ミクロの視点(血管内皮細胞、グリコカリックス等)と、マクロの視点(心筋障害、呼吸不全、免疫不全)から解説し、敗血症性多臓器障害に対する治療戦略を提示したい。

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