著者
○村上 由季 池﨑 喜美惠
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】 日本人学校では日本国内の公立小・中学校と同等の教育がおこなわれている。しかし、様々な理由から日本国内と現地との環境には差が多く、教科書の記述と学習環境の不一致が生じることが予想される。本研究では、そのような状況下で、日本人学校ではどのような家庭科教育がおこなわれているのかを明らかにし、今後の日本人学校における家庭科教育の指導の在り方について検討、提言することを目的とした。【方法】 2010年11月~2011年1月にかけてアンケート調査を実施した。日本人学校88校に質問紙を郵送し、家庭科の授業を担当している教師に記入を依頼し返送してもらった。本報告では、調査協力を得られた48校の小学部の家庭科担当教師の調査票を分析対象とした。主な調査内容は、次のとおりである。1)家庭科担当者の属性、2)家庭科のカリキュラム、3)家庭科の教育環境、4)家庭科の指導方法、5)指導上の問題点や要望【結果及び考察】 1)日本人学校小学部で家庭科を担当している教師のうち、家庭科を専門として学んだ教師は10.2%であり、専門外の教師が指導していた。また、日本人学校での家庭科指導年数は1~2年が67%と最も多く、派遣教員が全体の55%を占めていた。このことから、日本人学校では安定した人員配置をすることが難しい状況にあるということが明らかとなった。 2)家庭科の授業時数に関しては、複式学級であるなどの理由から学校毎に多少のばらつきは見られたものの、多くが学習指導要領に定められた時数で授業を行っていた。複式学級の組み合わせは多様であるが、中には小学第5学年~中学第3学年までという組み合わせで授業をしている学校もあり、通常の家庭科指導を日本人学校で行うことの難しさの一因はここにもあると思った。また、現地理解教育の一環として、ペルー料理や韓国料理等の現地料理や、グアテマラ織りなどの題材を取り入れて、日本の教科書に準拠しながら実習を指導している場合が多かった。  3)小学部の家庭科室の保有率は85.7%であり、そのうち18.4%が理科室や他教室と併用していた。しかし、施設・設備については45%の教員が不足を感じていた。教科書について、家庭科担当教員の85.7%が使用しているものの、日本国内と海外では家庭科の基盤となる生活そのものに違いがあるため、実際は教科書どおりに授業をすることが難しいことも日本人学校の課題であることが教師の自由記述から読みとれた。 4)家庭科の指導方法の一つとして、現地理解教育を行っている学校が57.1%と多いことが、日本人学校の特色といえた。家庭科をイマージョン・プログラムの一環として英語で授業を行っている学校も少数派ではあるものの、増えてきていた。そして、現地理解教育では、実体験をとおしてその土地の習慣や生活の仕方を知り、学んでいくため、9割以上の教師が調理実習や被服実習などをまじえて指導していた。 5)家庭科を指導する上で、教員の家庭科免許の有無や海外にあるという日本人学校の立地条件が問題の要因となっている。例えば、調理実習においては、地域によって日本の食材がそろわなかったり、現地の食材には衛生面で問題があったりする。また被服実習においては、日本から製作キットを取り寄せると輸入という形になるため、予算の都合上困難であるとの記述が見られた。【提言】 本調査を考察した結果、ほとんどの教師が家庭科を専門としない中で、現地の環境や状況を受け入れ、工夫して指導していた。そこで、日本人学校が抱える共通の問題、例えば複式学級、現地理解教育、さらには実習材料の問題など、多くの問題を教師間で共有できる場を作ることが、家庭科を専門としない教師たちの指導における不安を軽減することになるのではないかと考える。また、日本人学校出身の児童・生徒の側から見た日本人学校での家庭科の学習経験を調査し現状を精査することにより、よりよいあり方を模索することができるのではないかと考える。