著者
あべ せいや
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.10, pp.7-30, 2012-03-28

東アジア言語(日本語・中国語・朝鮮語)における南北音韻対応(安部清哉2007.10)の現象から推定して、南北間での発声方法において、過去に何らかの理由で生じた北方方言における「呼気量変化(呼気の口腔鼻腔流出量比率変化)」のために、南北間で大きな相違が発生した蓋然性が高い。その「呼気量の格差」が今日に残る「音韻対応」の発生理由の第1 の要因と推定された。その「呼気量変化」の発現の言語学的な蓋然性の確からしさを、より強固にする(補強する)ためには、文字言語資料あるいは物理的資料などが、直接的あるいは間接的な裏付け証拠として提示できる必要がある。本稿は、その物理的・身体的(=physical)な証左として、「寒冷適応」による北方モンゴロイドの頭部顔面(頰骨)の骨格変化を物証として提示し、その解説を行うものである。また、この骨格変化それ自体を、単独証拠として検討しても、北方方言での「呼気量の変化」が推定可能となる。なお、この「音声変化」の生じた時期については、東アジア・北方モンゴロイドにおける寒冷適応が進行した時期が、最寒冷期であった紀元2 万年前~1 万年前と推定されていることから推して、上記東アジア地域(安部(2008.4)における「モンスーン・アジア言語文化境界線」の南北の地域)における南北音韻対応の発現時期は、おおよそ、紀元前1 万年前後以降と現時点では推定される。この「呼気量変化」、より正確には「口腔鼻腔流出量比率変化」によって、日本語・中国語・朝鮮語それぞれにおける南北方言間での音韻的相違である「音韻対応」(の一部)が形成された、と結論づけられる。