著者
アレキサンダー バシャニー
出版者
公益財団法人 国際全人医療研究所
雑誌
全人的医療 (ISSN:13417150)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.61-88, 2015-12-25 (Released:2019-04-19)

1930年代の同時期に,洋の東西で二人のすぐれた精神科医が活躍していた.二人は相互に関わりがあったわけではない.オーストリアのヴィクトール・フランクルと日本の森田正馬である.この2人の精神科医は,人間に即した心理学というものは,人間が「いい気分」になるには何をすべきか,という問いかけだけに終始していてはいけないと認識していた.ヴィクトール・フランクルのロゴセラピー(実存分析学)も,森田正馬の森田療法も,人間の精神的な安寧と発展は,自分自身と自分の幸福だけを考えるのではなく,世界に対して,他の人間および生物に対して心を開いたときに初めて実現すると述べている.つまり,人間が頑なに己の幸福のみを利己的に追求することをやめ,そのかわりに世界の意味の可能性に対して心を開いたときであると考えていた.逆説的だが,そうした場合,人間はよいことを行っているというだけでなく,最善のものを自らの内部で開花させることによって,自分自身も健やかな気持ちになれることが明らかになっている.今回の講演では,ヴィクトール・フランクルのロゴセラピーを実践的な視点に立って紹介したい.具体的な事例と経験に基づくデータから,精神の安寧と価値の発見のあいだには密接な関係があることを示していきたい.