著者
ウィリアムズ アンディ
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.52-73, 2006-10-18

近年,イギリスにおける性犯罪者への刑事司法の対応は,急速に処罰の度を高め,刑務所拘禁の長期化と,その釈放後の監督や監視の強化が進んでいる.そのような犯罪者の人権に関して多くの問題が提起される一方,この「厳罰化の上方への螺旋運動」(Nash 2006:105)が,一般大衆に不安や懸念を生ぜしめ,厳罰的な立法の展開を正当化する,メディア由来のモラル・パニックに煽られたものであるとも論じられる.本稿の分析では,モラル・パニックとモラル事業のコンセプトを理論的なフレームワークとして用い,そうした立法的な変化を概括するため,ポーツマスのポールズグローブにおける小児性愛犯罪者に対するデモを取りあげ,小児性愛犯罪者に関するメディアの報道や公衆の反応,さらには,刑事司法システムがその不安の表出にいかに対応したかという,相互に連関するさまざまな問題を検討する.モラル事業は,「犯罪の現実」を定義し,刑事司法政策の形成を助勢する,基本的なフレームワークの創出において,メディア,社会統制機関,モラル事業家,利益集団の間のシンボリックなリンクを生成する.本稿は,モラル・パニックを分析のフレームワークとして用いる諸研究の多くが,このモラル事業のコンセプトを無視することからくる,本来的な欠陥を有するものであることを主張する.