著者
エゲンベルク トマス
出版者
静岡大学
雑誌
人文論集 (ISSN:02872013)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.A175-A191, 2002-07-31

遺伝子技術と生殖医療は飛躍的な進歩を遂げ、議会やメディアでは権利・倫理・道徳について激しい議論が戦わされている。「〔ドイツ〕連邦共和国の哲学者」(『シュピーゲル』誌)ハーバーマスは2001年の秋、注目を集めた書物でこの論争に参入することに躊躇しなかった。小論の目的は、リベラルな優生学に対抗するハーバーマスの立場を内容的に検討することではなく、ハーバーマスの議論にとって中心的な「自然」と「自由」という概念を批判的に解明することである。換言すれば、「遺伝に意図的に関与することによって、人間の自由は失われる」というハーバーマスのテーゼがなぜ脆弱な土台の上に立っているか、を示すことにある。その際、ベルリンの哲学者ペーター・ビエリが、手がかりを与えてくれる。と言うのも、彼の『自由の手仕事』という直観に溢れる書物は、ちょうど時を同じくして、悲観的なハーバーマスが「自由」を失ったと考えるところでも「自由」はなお存在しうる、という認識に至っているからである。