著者
エリス ロッド
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-22, 2010-07

本論は,明示的教授法が第二言語習得にどのような効果をもたらすのかについて検証する。まず暗示的教授法と明示的教授法の違いを明確にする必要性について論じ,さらに能動的・受動的,帰納的・演繹的という観点から幾つかの異なるタイプの明示的教授法を区別する必要性を述べる。また,学習者が第二言語として得る知識の種類(暗示的知識と明示的知識)という観点から明示的教授の効果を検討することも重要である。明示的・暗示的という2種類の教授法の効果を調査した従来の研究は,学習者が獲得する暗示的知識の妥当な測定方法を示していないために,その結論も概して中途半端なものになっている。しかしながら,これらの研究によって,明示的知識の発達には明示的教授の方が優れている場合が多いことが立証されていることは確かである。たとえ明示的教授が明示的知識の獲得だけに終わるとしても,(1)明示的知識は言語運用力に不可欠な要素であり,(2)明示的知識は暗示的知識の発達をつかさどる過程の切っ掛けとなるという点において明示的教授法は意義があるといえよう。本論の最後では,能動的演繹的教授法と帰納的明示的教授法の相対的な長所を検討し,明示的知識を教える際に学習者の意識を高めるタスク(コンシャスネス・レイジングタスク,能動的帰納的明示的教授法の一種)を多く使うほうが有効であることを主張する。