著者
加藤 幸信 カトウ ユキノブ Yukinobu Kato
雑誌
宮崎県立看護大学研究紀要 = Journal of Miyazaki Prefectural Nursing University
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.6-17, 2005-03

人権思想の確立にあたっては,ジョン・ロックやジャン・ジャック・ルソーといった哲学者が大きく貢献した。しかし,彼らの基盤となる自然法思想は,社会的存在である人間を個人に還元してしまうものであり,当時の社会的状況に対するアンチ・テーゼの面が強いと言える。したがって,その時代的社会における大きな有効性を有した反面,理論的には必ずしも正しいとは言えないのである。人権論の基盤となるべきものは,彼らよりも,むしろドイツの哲学者ヘーゲルに存在する。ヘーゲルはかつて国家主義者として語られることが多く,人権と結びつけて説かれることは少なかった。しかし,彼の説いたことを理論的に読み返せばそうではないことがわかる。彼は,観念論者であり,精神の本質を自由だとして『歴史哲学』において,世界史は自由の意識の発展だと説いた。これは,人間の本質は自由だということである。ここに我々は人権論の基盤を求めることができる。ただ,ヘーゲルは東洋の世界から歴史を説き,ルソーやヘーゲルに先行するドイツの哲学者カントが説こうとした人類の原始状態,人類の起源に関しては説いていない。この点を補い,唯物論の立場から読み返せば,ヘーゲルの理論は人権論の基盤となりうるものである。