著者
カヴィタ シャルマ
出版者
千葉大学大学院人文公共学府
雑誌
千葉大学人文公共学研究論集 = Journal of Studies on Humanities and Public Affairs of Chiba University (ISSN:24332291)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.100-113, 2018-03-29

[要旨] 前衛的な西欧文学運動の原理を熱心に追求した「新感覚派」グループの一員だった川端康成は横光利一とともに文学界でモダニズム運動の先駆者といわれる。その一方、戦後における川端の文学的姿勢は、「日本的な作家」「日本美」「伝統文化」を描く作家として認められている。しかし、六〇年代以降の作品を考えていくと、従来の伝統美というテーマと違って、人間存在、異常な身体性といった作品内容と描写の変化がみられる。したがって、本稿では、六〇年代の二つの作品『片腕』と『眠れる美女』を考察対象として取り上げる。その理由は、これらの作品において登場するキャラクターの奇妙な表象である。『片腕』における切断された身体の問題であっても、『眠れる美女』のなかで眠らせている女性の身体の問題であっても、通常ではない他者として描かれている。こういった異常な他者と自己である主人公との関係に注目する。そして、こう描かれている自己と他者との関係はいったいどのような意味合いを得ているのかを解釈する。